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JOURNAL / 世界の食トレンド

知る人ぞ知る?ニューメキシコ州で栽培される希少なトウガラシ「チマヨ・チリ」

America[New Mexico]

2024.04.30

知る人ぞ知る?ニューメキシコ州で栽培される希少なトウガラシ「チマヨ・チリ」

text by Kuniko Yasutake
(写真)トウガラシ生産量が全米1のニューメキシコ州において、数多ある在来種の中でも最も知名度の高いチマヨ・チリ。辛さの目安であるスコヴィル値4000~6000は、マイルドなハラペーニョに匹敵する。一般的なトウガラシの辛味成分といえばカプサイシンだが、それとは似て非なるジヒドロカプサイシンが多く含まれることがチマヨ・チリの風味に影響を与えている(ニューメキシコ大学研究論文より)。レンガ色が独特なパウダーの価格は、現地時価で50ドル/454g。photo by Kuniko Yasutake

米国内外にカルトファンを持つと言われる「チマヨ・チリ(Chimayó chile)」。“人々を癒す聖なる土”の言い伝えで有名なカトリック教会(国定歴史建造物)や、ユニークな柄の織物で知られるニューメキシコ州北部の小さな村、チマヨが原産のトウガラシだ。17世紀(諸説あり)に中南米経由で入植したスペイン系移民によって持ち込まれ、北米先住民族と共に栽培されていくうちに、チマヨの風土に合わせてユニークな特徴が形成された在来種なのだ。

かすかな甘味を帯びた奥行きのある香り、スモーキーなのに渋味がない風味と、体に沁み渡るじんわり温かな辛さが独特。代々チマヨに住む家族によって主に自給自足用に栽培されてきたが、生産者の高齢化が問題に。そこで20年ほど前、種の保存を目指した次世代農家育成プロジェクトが立ち上がったが維持は叶わず、現在、地元や近隣のサンタフェで販売できる量を生産している農家は数名のみとなった。


ロッキー山脈の最南端、サングレ・デ・クリスト(キリストの血)山脈。

(写真)標高約1900mにあるチマヨ村を囲むのは、ロッキー山脈の最南端、サングレ・デ・クリスト(キリストの血)山脈。年間晴天率8割という山岳地帯が生んだチマヨ・チリは、長さ10㎝前後と小ぶりで収量も低いことから大規模な商業栽培には向いていない。「おかず以外にもいろいろ使えるのがいいところ。アイスクリームとも相性がいいよ」とは、生産者の声。photo by Chris Corrie

地元の人々は、在来種直系の種を用い、現地の土と太陽の下で育ったものを“チマヨ・チリ”と呼ぶが、今ネットには同じ名前のトウガラシや種が多く販売されている。消費者がこれらのトレーサビリティを客観的に確かめるのは困難なので、土着の味を試すには、チマヨでニューメキシコ料理を提供する老舗レストラン「ランチョ・デ・チマヨ(Rancho de Chimayó)」を訪れるのが確実な方法だろう。

メニューは一見メキシコ料理を想起させるものの、スペイン、中米と北米先住民族の食文化を反映している。同店では、緑や赤の様々なニューメキシコ産トウガラシを使用しているが、材料にチマヨ・チリが登場するのは、定番人気の「カルネ・アドバダ(Carne Adovada)」のみ。自家製チリソースで豚の肩ロース肉を一晩マリネし、ガーリックやハーブと共に長時間オーブンで蒸し焼きにしたものだ。ただし、在庫がある時に限られるため、チマヨ・チリ使用の有無についてメニューでの明記はされていない。注文時の確認がマストだ。

ニューメキシコ産トウガラシを堪能できる「コンビナシオン・ピカンテ(Combinacion Picante)」

(写真)ニューメキシコ産トウガラシを堪能できる「コンビナシオン・ピカンテ(Combinacion Picante)」(20 ドル)は、いわば“スパイシー定食”。「カルネ・アドバダ」(右上)に加え、ブルーコーンのトルティーヤでチーズを巻いた「エンチラーダ」(手前)、すり潰したトウモロコシ粉と豚肉を蒸した「タマレス」(左上)、ポソレ(挽き割りトウモロコシ)の煮物(左)に、赤か緑のチリソースを選べる一品だ。アドバダとはマリネの意味。カルネ・アドバダのマリネ液は、メキシコ料理のアドボソースに似ているが、風味付けのスパイスとハーブの種類、ベースとなるトウガラシの種類が異なる。photo by Chris Corrie

チリ・リストラスとは、収穫したトウガラシを天日干しするために数珠つなぎにしたもの。

(写真)チリ・リストラスとは、収穫したトウガラシを天日干しするために数珠つなぎにしたもの。リストランテの軒先や店内で美しく並ぶ光景は、視覚と食欲の両方を刺激する。もちろん食用で、全て店の料理の一部として提供されている。photo by Chris Corrie

宿泊施設「アシエンダ(農園の意味)」

(写真)初期入植者の先祖から受け継いだ建物をレストランに改築したのが1965年。敷地内には同じく歴史ある宿泊施設「アシエンダ(農園の意味)」もある。地域社会の活性化とチマヨの食文化を全米に知らしめたオーナーの功績を、ジェームズ・ビアード財団を含め、州内外の数多くの団体が賞賛している。photo by Chris Corrie



◎Rancho de Chimayó Restaurante
300 Juan Medina Rd. Chimayo, New Mexico 87522
11:30~19:30(土曜、日曜 8:30~10:30)
月曜休
https://www.ranchodechimayo.com/

*1ドル=151円(2024年4月時点

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