“手頃なおまかせ”で和食文化を根付かせる、米国人シェフの創作料理店
America [New York]
2026.03.12
text by Akiko Katayama
サーモンの脂がのり切った稀有な部位ハラスの一品。席に運ばれたクリスタルの器の蓋を開けた瞬間、桜の木の燻煙が溢れ、楽しみを倍増させる。
スシ(SUSHI)もラーメン(RAMEN)も日常英語化した米国で、現地の和食が興味深い進化を見せている。その一例が、2022年の開店以来、高い人気を維持する創作和食店「ユー・オマカセ(U Omakase)」。オーナーのルイス・デュランド氏がこの店を開いたのは、偶然の連続からだ。
20代初めのある日、事故で背中に大怪我をして1年ほど寝たきり状態となった氏は、一気に肥満状態に。重い体を抱えて退院後、友人が誕生日祝いに連れて行ってくれたのはブルックリンのすし店だった。ニューヨークでも市の保健局が飲食店各店の抜き打ち検査を実施するが、その日突然、店に視察官が来訪。たまたま居合わせたデュランド氏は保健局での勤務経験があり、オーナーシェフの平敷康治(ひらしきやすじ)氏にアドバイスをして、無事検査をパスした。お返しにその日から、平敷氏はデュランド氏の肥満解消に向けて魚介と野菜中心の健康的なダイエット指南を開始し、デュランド氏は約40キロの減量に成功。その後10年にわたり2人の交流は続いたが、コロナ禍に面して平敷氏は閉店を強いられる。「では一緒に店をやろう」となって、ユー・オマカセが誕生したというわけだ。
沖縄出身の平敷氏は13歳で厨房に入り、日米合わせて約50年の経験を積んだ熟練すし職人。同店が軌道に乗った今は引退して画家としての人生を歩み、デュランド氏は平敷氏の「素材本来の味わいを生かす」という理念を引き継ぎながら、独創的な各品を提供している。
ちなみにデュランド氏はニューヨーク屈指の調理師学校「フレンチ・カリナリー・インスティテュート(現インターナショナル・カリナリー・センター)」を卒業後、父の病のためやむなく家業の建設会社に入ったという経緯があり、不測の事態が巡り巡って今、念願のシェフのキャリアに落ち着いた形だ。平敷氏と出会ってから和食に関心を高め、市内のすし店数軒の日本人職人の下で短期研修を重ねた経験も持つ。
同店のメニューはおまかせ13品110ドル。ニューヨークではかなり手ごろな価格だ。9歳でパラグアイから移住したデュランド氏は、各品に和とフレンチの要素を融合させながら、時には唐辛子などの南米の風味も織り込む。
たとえばキングサーモンは、脂がのった腹側の身をバーナーで軽く炙って自家製唐辛子オイルを塗り、ワサビ味のとびこやエシャロットのフライをあしらう。鮭の脂の旨みを、多彩な味と食感で効果的に引き立てた一品だ。一方、泡状にした黒ニンニクに宮城産米の酢飯を浮かべ、その上になめらかなフォワグラと大トロを重ねた品は、酢飯のほのかな酸味が濃厚な素材とのバランスを生む個性的な表現。
「近年すし店では“おまかせ”が流行っていますが、そもそも正統なおまかせは、我々米国人が作れるものではない」と話すデュランド氏。「これからは、創造性が米国和食の将来を担っていくはず。日本の料理人の、旬の素材の味わいを追求するひたむきな姿勢を見習いながら、自分なりにおいしい料理を作り続けたい」と意気込む。
店名「U Omakase」の「U」は“You and me”を意味し、「あなたが喜ぶ料理を作りたい」という思いを象徴している。近年米国では、“おまかせ=贅沢な食体験”という構図が固まりつつあるが、それではいずれ、和食が忘れ去られてしまう。同店の自由で親しみやすい“おまかせ”が、今後の和食人気を支える鍵になっていくかもしれない。
◎U Omakase
173 Greenpoint Avenue, Brooklyn, NY 11222
☎+1-917-336-8479
https://www.u-bk.com/
*1ドル=157円(2026年3月時点)