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JOURNAL / 世界の食トレンド

大ケガで障害を負ったシェフが奇跡の復活。料理人の未来を救う発明品とは?

Austria [Salzburg]

2024.03.18

大ケガで障害を負ったシェフが奇跡の復活。料理人の未来を救う発明品とは?

text by Hideko Kawachi
(写真)シェフのペーター・ランマー(左)とベルンハルト・ティチー。「ベルニー(ベルンハルト)と友達だったのは本当にありがたいことだ。今は一緒に、同じような問題を抱えた人たちを助けることができるのが嬉しい」とシェフ。

事故で大怪我を負い、二度と立ち仕事はできないと宣告されたシェフが奇跡の復帰。彼が友人と共に開発した補助具が、今後多くの料理人をサポートする存在になるのではと、国内外で注目を集めている。

開発のきっかけを作ったのは、ペーター・ランマー。オーストリアの古都、ザルブルク旧市街で郷土料理を提供するレストラン「ヨハネスケラー(Johanneskeller)」のオーナーシェフだ。2010年にバイク事故に遭遇し、全身を複雑骨折。10回に及ぶ手術とリハビリにもかかわらず、今後長時間の立ち仕事、料理人を続けるのは無理だと医者に宣告されてしまう。なんとか厨房で働き続けたいと考えた彼は、長年の友人で高所作業のエキスパートである、産業クライマーのベルンハルト・ティチーに電話をかけて、助けを求めた。

「なんとかして俺を吊ってくれないか?」
ランマーは、体を吊り下げれば、足に負担をかけずに作業することができるのではないかと考えたのだ。大工でもあるティチーは、クライミング用のハーネスを使って3週間ほどで試作品を制作。最初に作ったものは足を締め付けてしまい、長時間使えるようなものではなかったが、その後試行錯誤を経て、厨房の天井に取り付けたレールとレールブリッジから、アーム付きのサドルをぶら下げるシステムにたどり着いた。足にほとんど負担をかけずに、軽やかに移動が可能で、杖などとは違って両手が自由に使えるので、重い鍋を持って“歩く”こともできる。ランマーは見事に職場に復帰し、フルタイムで、厨房で仕事をしている。


人間工学に基づいた形状のアームは回転も自由で、125kg までの荷重に耐える。

(写真)人間工学に基づいた形状のアームは回転も自由で、125kgまでの荷重に耐える。

この補助具は「スタンディング・オベーション(STANDING OVATION)」と名付けられ、特許を取得。今ではオーストリア国内のリハビリセンターでも使われている。「医療用機器」として認定されているため、健康保険で支給のサポートを受けることも可能だ。

もう立ち仕事は無理だからと早期退職を勧められたこともあると、ランマーは言う。「しかし仕事とは金銭的な話だけではありません。人間にとって自分の価値を認めるために、自尊心を保つためにも重要なことだと思います」

例えばランマーのように怪我で足に体重をかけられなくなった人や、何らかの疾患や高齢化により立ち仕事が難しくなった人。スタンディング・オベーションは、そういった障害を持つ人たちが再び自分の人生に踏み出す手助けになると確信しているという。すでにランマーに続き、数人がこの補助具によって仕事に復帰しているそうだ。



◎STANDING OVATION
https://www.standingovation.at/

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