禅寺で出会ったドイツ人元修行僧がベルリンで造るナチュラルSAKE
Germany [Berlin]
2024.09.24
text by Hideko Kawachi / photograph by Gianni Plescia
(写真)ブリュワリー「ライゲン」のファーストバッチ。左からアリント28ユーロ/720ml、コシス34ユーロ/720ml
ドイツの首都ベルリンに、イタリア米とドイツの水で造るナチュラルSAKEブリュワリー「ライゲン(REIGEN)」が誕生し、注目を浴びている。“日本酒の枠”にとらわれない、独特の旨味や香りを持つSAKEは、これまで日本酒を飲んだことがない人にもとっつきやすい。グラスに注いだ後も、刻一刻と変化していく味わいも魅力的だ。
ライゲンを率いるセバスチャン・ムロースとフランチェスコ・トデスカットは、兵庫県の山奥にある禅寺、安泰寺で出会った。セバスチャンは当時、典座(てんぞ)として修行僧たちの食事を司っており、麹や発酵の魅力に目覚めたという。
「安泰寺は全てが自給自足です。畑を耕して米や野菜を栽培し、麹を起こして味噌やたくあんを仕込みました。その過程でどぶろくにも挑戦し、酒造りに興味を持ったのです」とセバスチャンは言う。
そして千葉にある寺田本家の日本酒との出会いが、酒ブリュワリー立ち上げに繋がった。
「お店でナチュラルワインが飲みたいと言ったら、勧めてもらったのが寺田本家の『醍醐のしずく』でした」とセバスチャン。
これまで飲んだどの日本酒とも違う、フルーティで力強く、濃厚な旨味。これは日本酒を飲み慣れていないヨーロッパの人にも魅力が伝わりやすい。大きな可能性を感じた彼は、日本語も堪能なフランチェスコと共に、酒造りを学びたいと寺田本家に連絡を取ったのだ。
極力精米をせず、ものによっては玄米を発芽させた麹から作る寺田本家の酒。タンパク質や脂質が多い分、米のコクや力強い旨味も感じられる。実はフランチェスコの実家はイタリアの米農家。主に栽培しているリゾット用のカルナローリ米は、でんぷんの含有量が多く、酒造りにも適しているのだとか。
日本から、寺田本家で麹を担当していた杜氏、佐藤潤さんがメンバーに加わり、ベルリンでの酒造りが始まった。そしてついに2024年8月、黄金色に輝く「アリント(ALINT)」、ファーストバッチが発表された。フレッシュな酸味と長い発酵時間から生まれる微発泡の喉越しは、まだ暑さが残る初秋にぴったりだ。麹の量を増やして、力強い旨みを持たせた「コシス(COSIS)」も登場。赤米を使ったロゼや、2種類の麹をブレンドしたキュヴェなど、いろいろなアイデアがある。
日本のやり方で、日本の素材に近いものを使っても、結局、日本酒にはなりえない。それならば新しい解釈で、地元の素材を使って自分たちが求める酒を追求しよう。「新しいヨーロッパのSAKEを作りたい!」と意気込むライゲンのメンバー。新たな潮流がここから始まりそうだ。
◎REIGEN
https://reigen-fermentation.com/
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