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JOURNAL / 世界の食トレンド

インド産カカオで作るクラフトチョコレートで、世界を目指すスタートアップが誕生

India [Hyderabad]

2023.11.30

インド産カカオで作るクラフトチョコレートで、世界を目指す

text by Akemi Yoshii / photo by Daniel D'souza
(写真)インド産カカオのファーム・トゥ・バー「マナム」のタブレット。美しい商品パッケージにはQRコードも掲載されており、読み込めば、カカオについての詳細な情報にアクセスできる仕組みになっている。シングルオリジンシリーズだけでなく、シングルファーム(単一農園)シリーズもある。

インドの独立記念日である8月15日、テランガナ州の州都ハイデラバードに、「マナム・チョコレート・カールカーナー(Manam Chocolate Karkhana)」がオープンし、インド産クラフトチョコレートをトータルに体験できる場所として注目を集めている。マナムとはテルグ語で「私たち」、カールカーナーはヒンディー語で「工場」を意味する。


マナム・チョコレートは、カカオ農家、ファーメンター(発酵士)、チョコレートメーカー、ショコラティエの新しい共同体だ。

2019年、ハイデラバードに拠点を持つ菓子店「アーモンドハウス」を経営するチャイタンヤ・ムッパラさんは、チョコレート業界への参入を視野に入れて調査を始めた。

(写真)チャイタンヤさんは、インドで唯一の「インターナショナル・インスティテュート・オブ・チョコレート&カカオテイスティング(IICCT)」のチョコレートテイスティング、レベル3の保持者。スタンフォード大学の経営者向けビジネスプログラム“Seed”にも参加し、社会に貢献できる企業作りに取り組んでいる。photo by Daksh Chindalia

(写真)チャイタンヤさんは、インドで唯一の「インターナショナル・インスティテュート・オブ・チョコレート&カカオテイスティング(IICCT)」のチョコレートテイスティング、レベル3の保持者。スタンフォード大学の経営者向けビジネスプログラム“Seed”にも参加し、社会に貢献できる企業作りに取り組んでいる。photo by Daksh Chindalia

インドのカカオ栽培の歴史は意外に古く、1960年代に遡る。主に大量生産の業務用チョコレートの原材料として使われてきた。チャイタンヤさんはインド産カカオに大きな可能性を見出したが、チョコレートの質はカカオ豆次第であり、カカオ栽培から豆の発酵・加工、チョコレート製造まで一貫した管理が必要だと痛感し、これからの時代のチョコレート産業のビジネスモデル構築に乗り出す。

まず、国内最大のカカオ栽培地であるアンドラ・プラデシュ州西ゴーダヴァリ県をインド産ファインカカオの拠点にすべく、発酵所をつくり、賛同するカカオ農家約100軒の協力を得て、2021年に「ディスティンクト・オリジンズ(Distinct Origins)」という会社を設立する。

各農園で栽培されるカカオの詳細はすべてデータ化し、100%追跡可能にした。データは持続可能なカカオ栽培だけでなく、カカオのフレーバーのプロファイリングにも活用する。例えば、間作作物の香りもカカオのフレーバーに影響するのだという。また発酵所では、通常の発酵の他に、地元産のマンゴーなどをスライスしてカカオ豆に混ぜ、一緒に発酵させる「クリエイティブ発酵」も行う。

そして2023年、クラフトチョコレートブランド「マナム・チョコレート」が誕生した。1万平方フィート(929㎡)の敷地を持つカールカーナーは、カカオをローストする香りに包まれ、45カテゴリー・250種類以上の商品を揃える。工房はガラス張りで、カカオ豆の加工やチョコレート作りをつぶさに見学でき、味見もできるショコラトリーや、板チョコを作ることができるラボ、チョコレートテイスティングやレクチャーを行うクラスルームの他、カフェも併設している。

(写真)自分の好みに合わせた板チョコレートを手作りできるチョコレートラボ。photo by Pankaj Anand

(写真)自分の好みに合わせた板チョコレートを手作りできるチョコレートラボ。photo by Pankaj Anand

EC事業にも着手し、チョコレート用梱包材料や輸送システムを確立。2023年12月からは一部の商品のオンライン販売を開始する。商品の海外発送や、カカオ豆の輸出も計画中だ。

質の高いインド産クラフトチョコレートが世界各地で味わえるようになる日もそう遠くないようだ。

(写真)ローストする様子。カカオ豆の加工は、インドの伝統と大量生産型チョコレート製造の技術をミックスしている。例えば、粗めに砕いたカカオニブを、南インドの朝食の定番であるイドゥリ生地用のウェットグラインダーで120時間かけてゆっくり磨砕し、通常は業務用で使用されることが多いイタリア製のボールミルで、粒度20マイクロメートル以下のスムースなテクスチャーに仕上げていく。そもそも、クラフトチョコレートの世界的な活性化は、2000年代、アメリカに移住したインド人夫婦がCocoatown社を設立し、ウェットグラインダーを改造した摩砕機を開発、小規模工房向けに売り出したことも大きい。photo by Siddharth Govindan

(写真)ローストする様子。カカオ豆の加工は、インドの伝統と大量生産型チョコレート製造の技術をミックスしている。例えば、粗めに砕いたカカオニブを、南インドの朝食の定番であるイドゥリ生地用のウェットグラインダーで120時間かけてゆっくり磨砕し、通常は業務用で使用されることが多いイタリア製のボールミルで、粒度20マイクロメートル以下のスムースなテクスチャーに仕上げていく。そもそも、クラフトチョコレートの世界的な活性化は、2000年代、アメリカに移住したインド人夫婦がCocoatown社を設立し、ウェットグラインダーを改造した摩砕機を開発、小規模工房向けに売り出したことも大きい。photo by Siddharth Govindan

(写真)カカオ豆は農家別に分け、バナナの葉を敷き、蓋を麻袋で覆った木箱で5段階に分けて発酵。よい発酵となるよう祈りを込めて、木箱の前にムグルと呼ばれる伝統的な吉祥模様を毎朝描く。発酵・乾燥した豆は6〜9カ月間熟成させた後、カールカーナーに運ばれる。photo by Daksh Chindalia

(写真)カカオ豆は農家別に分け、バナナの葉を敷き、蓋を麻袋で覆った木箱で5段階に分けて発酵。よい発酵となるよう祈りを込めて、木箱の前にムグルと呼ばれる伝統的な吉祥模様を毎朝描く。発酵・乾燥した豆は6〜9カ月間熟成させた後、カールカーナーに運ばれる。photo by Daksh Chindalia

(写真)生チョコレートは「ナマ(Nama)」という日本語名称で販売されている。photo by Daniel D'souza

(写真)生チョコレートは「ナマ(Nama)」という日本語名称で販売されている。photo by Daniel D'souza

photo by Pankaj Anand

photo by Pankaj Anand



◎Manam Chocolate Karkhana 
No 8/2/684/3/40, Road No 12, Banjara Hills, Hyderabad-500034, Telangana
☎+91-40 48908027
9:00〜23:30
無休
タブレット全43種 375〜500ルピー/80g
生チョコレート全3種 900ルピー/110g
https://manamchocolate.com/

*1ルピー=1.8円(2023年11月時点)

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