かまぼこ板や干瓢まで手作り、インド人日本料理シェフが手掛ける本格おせち料理
India [Pune]
2024.12.02
text by Akemi Yoshii
(写真)日本食レストラン「ギンコ」のシェフ、ブレハディーシュさんによる手描きのおせち料理スケッチ。
「おせち離れ」が進んでいると言われて久しい日本だが、インドでは今、おせち料理づくりとその普及に情熱を傾けている日本料理シェフがいる。
ブレハディーシュ・クマールさんは、西インドの都市プネーで日本食レストラン「ギンコ エスクペリエンス・ザ・イースト(Ginkgo – Experience the East)」を友人と共同経営する若きシェフだ。
「お箸の正しい使い方を知らなくても不安を感じることなく、ラフな格好で訪れて、大好きなアニメに出てくる日本の料理を、気軽に食べられるお店です」と、流暢な日本語で自店を紹介するブレハディーシュさん。彼自身は、インドでホテルマネージメントと料理、並行して日本語と日本文学を学び、文部科学省の奨学金を得て千葉大学に1年半留学。京都の「菊乃井本店」で2カ月間インターンとして働いた経験を持つ。
見事なおせちは三の重まで揃った全23品。店をオープンした2021年の暮れに、日本人の“常連さん”から依頼を受けて作ったのが最初で、その後、毎年の恒例に。留学中に日本でお正月を過ごしたものの、残念ながら本格的なおせち料理を食べる機会はなく、「食べたことがないので正解の味がわからず、材料の調達や代用品を考えることは大きな挑戦でした」と振り返る。できるだけインドで手に入る材料を使うように工夫を重ねている。
かまぼこは木の板作りから、干瓢もインドのユウガオを代用して作り、試作を重ねた伊達巻は独自のレシピを完成させた。それだけではない、おせちの美しいスケッチも、絵が得意なブレハディーシュさん自身が描いたものというから驚きだ。
インド人客向けには、23品全てを少しずつ味わえるワンプレートのお試しセットを提供する。人気料理は栗きんとん、黒豆、伊達巻、松風焼き、煮しめ、鶏けんちん。田作り、蛸の柔らか煮、昆布巻きは少し苦手な人が多いようだ。見た目の繊細さに感嘆するも、インド料理と全く異なる淡白な味にちょっと戸惑ったり、冷たい状態で食べることに最初は驚く人もいたという。だがインド人客、日本人客共に反応はよく、人気は上々だ。
三段重のおせち料理(8000ルピー)は11月15日から予約を開始し、1カ月で締め切る。引き渡しは大晦日と元旦。お試しセット(800ルピー)は、新年からメニューに並ぶ予定だ。日本の新年の習慣について話題にする機会を作り、人々の認識を高めたいと意気込む。
ブレハディーシュさんは、今も日本料理の勉強を続けており、2023年には農林水産省「海外における日本料理の調理技能認定制度」のブロンズ認定証も取得。彼が魚の活け締めについて語るインスタグラムのリールはインドで話題を呼び、再生回数20万回を超えている。さらに、ホテルや大学で日本料理のトレーニングやワークショップを定期的に行っており、手描きの日本百科事典も作成中。箸の細かな種類や、インドの食材で作る日本料理レシピなど、内容は盛りだくさん。完成が待ち遠しい。
大きな広がりを予感させる本格的日本食ムーブメントの中心として、今後も様々な展開を期待したい。
◎Ginkgo – Experience the East
Damodar Villa Apartment, 12, Warje Malwadi Rd, Rahul Nagar, Kothrud, Pune, Maharashtra 411038
☎+919359837216
12:30~16:00、18:30~22:00
月曜休
いくらの軍艦巻き(2貫)750ルピー、鶏の唐揚げ 400 ルピー、定食セット 800ルピー、黒胡麻アイス 160ルピー
Ginkoのインスタグラムアカウント:@ginkgopune
*1ルピー=1.82円(2024年11月時点)
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