HOME 〉

JOURNAL / 世界の食トレンド

イタリア人フードブロガーたちが立ち上げた、パレスチナを支援するレシピブックプロジェクト

Italy [Piemonte]

2025.09.11

イタリア人フードブロガーたちが立ち上げた、パレスチナを支援するレシピブックプロジェクト

text by Sayaka Miyamoto
「ココメロ・プロジェクト」サイトのトップページ。スイカを楽しむパレスチナ人ファミリーのイラストは、レシピブック第1弾の表紙にも使われたもの。スイカはパレスチナの連帯と抵抗を意味する。立ち上げスタッフの1人、シルビア・デ・マルティーノさん作。

「パレスチナの人々のために何かできることはないか」
そんな想いに駆られて集まったイタリアの女性フードブロガー5人が、「ココメロ・プロジェクト」を立ち上げた。

パレスチナを象徴する“スイカ(ココメロ/Cocomero)”を意味するこのボランティア企画は、世界のフードブロガーや料理人を巻き込み、2024年にe-book『ココメロ – 平和のためのレシピ』を発行。その収益で、多くのパレスチナ人ファミリーや団体のサポートに成功した。

そして2025年7月、第2弾『ココメロ&フレンズ パレスチナのためのレシピと声(Cocomero & Friends – Ricette e voci per la Palestina)』が発行された。世界10カ国、総勢76人のフードブロガーやライター、シェフたちによる59のレシピは、あらゆる暴力を排除したいという願いから、全てヴィーガン、プラントベースの料理になっている。執筆陣の中には、サミ・タミミ(Sami Tamimi:ロンドン在住のパレスチナ人シェフで、『オットレンギ』『エルサレム』などのベストセラー料理本の共著者)や、ユリウス・フィードラー(Julius Fiedler:世界の伝統的なヴィーガンレシピを紹介し、インスタフォロワー約240.2万人、TikTok約90万人のシェフ)なども並ぶ。

サミ・タミミ氏のレシピ
サミ・タミミ氏のレシピ「カリフラワーのローストと焦がしナス トマトソース」。完全なるヴィーガンではないタミミ氏も、プロジェクトの「動物に対する一切の残虐行為を排したい」という思いに賛同し、ヴィーガンレシピを提供してくれた。

同書はガザ在住のジャーナリストやアーティストたちによるレシピ、文章、イラスト作品も掲載し、現地のリアルを切実に伝える内容になっている。例えばレストランを開業する直前に戦争が勃発し、生存者として過酷な状況にあるパレスチナ人フードブロガーのファティマ・サミルのレシピと文章。エジプトのテレビ記者で、滞在許可の更新のためガザを訪れた際に閉じ込められてしまったアリ・ナイエフなどだ。

最低5ユーロを払ってこのレシピブックを購入し、ドネーションにするだけでなく、料理を作り、食べ、家族や友人たちとパレスチナの人々について話し合い、考えてほしい、そんな想いが形になっている。

「UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の活動なども制限される今、ガザの人々に支援を届けることがますます難しくなっています。そこで関係者の様々なつながりを利用して、特定の支援団体や個人に集中して支援しています。そうすることで、数は限定されますが、確実に助けることができる。小さな一滴でも、たくさん集まればいつか大きな海になる。それを信じて、何もしないでいることはできないのです」とは、自らのパレスチナ料理のインスタライブで、この活動を立ち上げるきっかけを作ったジジ・パッセラさん。

ココメロに触発され、他の多くの支援活動も生まれているという。この記事を書いている途中で入ってきたのは、上記のファティマと、負傷した小さな息子をガザから救い出し、イタリアの病院で治療を受けさせられるようになったという嬉しいニュースだ。何万人もの死傷者に対して、あまりにも小さな滴ではあるが、少しずつ確実に実を結んでいる。

フォカッチャ
プロジェクトを立ち上げるきっかけを作ったジジ・パッセラさんは、イタリア人らしくフォカッチャのレシピ。小麦畑に咲く紫タマネギを花に見立て、抵抗を示すファティマさんに捧げたレシピだ。
表紙のデザイン
表紙のデザインはパレスチナのアーティストであるリーム・アルサイエドが手掛けた。

◎COCOMERO & FRIENDS
https://cocomero.premiate.org/en

*1ユーロ=172円(2025年9月時点)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。