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JOURNAL / 世界の食トレンド

前世紀の巨大廃駅が豪華ホテルに。列車を改装したレストランはミシュラン一ツ星を獲得

Spain[Canfranc]

2024.05.16

前世紀の巨大廃駅が豪華ホテルに。列車を改装したレストランはミシュラン一ツ星を獲得

text by Yuki Kobayashi / photograph by ManoloYllera
(写真)古い列車を改装したレストラン「カンフラン・エクスプレス」。控えめな室内装飾が一層時代感を盛り上げる。最大10人〜12人が利用可能。

20世紀、スペイン北部ピレネー山麓に国際駅として建設されたカンフラン駅。2023年夏、50年近く廃駅となっていた駅舎は五ツ星ホテルに、古い列車ワゴンは高級レストラン「カンフラン・エクスプレス(Canfranc Express)」に変身を遂げ、話題となっている。

19世紀半ばに蒸気機関車がスペインにも登場すると、マドリードとスペイン北東部アラゴン州そしてフランスへの鉄道網計画が早々に始まった。両国をつなぐトンネル大工事の後、スペイン側ピレネー山麓にカンフラン駅が創業したのは1928年のこと。サッカー場が20個も入ると言われるほどの広大な敷地の国際駅だ。


ピレネー山麓

(写真)ピレネー山麓というロケーション。冬の雪景色も捨てがたい。

ところが1936年にはスペイン市民戦争の勃発からフランスとの経路は塞がれ、その後再開するも数年後には第二次大戦が始まってしまう。スペインは不戦国だったものの、駅は1948年まで再び不通に。短い再開期間を経た後、経由地の橋が崩れたことなども重なり、1970年以降廃駅となっていた。

山に囲まれた美しい駅には、戦争当時欧州のスパイが暗躍し、カンフラン駅を経由してドイツからスペインへ金塊が運ばれていたなどの逸話が数多く残る。その歴史を語るかのような物悲しげな駅舎は、威厳ある佇まいから、廃駅となった後でも少なからずの訪問者があった。

カンフラン・エクスプレスは、23年の開店早々ミシュラン一ツ星を獲得、レストランを仕切るのはカンフラン出身シェフのエドゥアルド・サラノバと、ホール支配人のアナ・アチンだ。メニューにはアラゴン州原生種の仔羊や、地元では薬用としても好んで食べられているハーブの一種「ボラハ(ボリジ)」など通好みの素材が並ぶ。

シェフのエドゥアルド・サラノバ(手前)とホール支配人のアナ・アチン

(写真)シェフのエドゥアルド・サラノバ(手前)とホール支配人のアナ・アチン。料理のテーマは20世紀。アラゴン州の素材と前世紀からの味に忠実に、かつ現代的に表現する。シェフは「エウシャレン」「アポニエンテ」など著名店を経て、すでに同州の別レストランにてミシュラン星獲得の経験者。


食卓のテーマに、フランスとの歴史的、地理的関係は不可避。仏料理への造詣も深いエドゥアルドはしっかりと伝統の薫風を受け、スペインの名店での修業経験を活かしながら、地元出身ならではの創作料理を展開する。

スペインで最近流行が続くアールデコ調のインテリアの中、カンフラン駅を巡る様々なドラマに思いを馳せながら、3席のみのレストランで味わう料理の特別感はこの上ない。この特異な環境で地元素材の滋味を食そうと、鉄道好きのみならず、テーマのある滞在を好む旅人に、圧倒的人気となっている。

ビーツとその仲間、野生の趣でピクルスと。

(写真)ビーツとその仲間、野生の趣でピクルスと。メニューは6品の前菜、3品のデザートを含む全21品から構成される。

シェフの思い出の一品「海のボラハ」。

(写真)幼少期、貝類と一緒に必ずボラハ(ボリジ)を食べていたというシェフの思い出の一品「海のボラハ」。


◎Canfranc Express
Estación de Canfranc, Av. de Fernando el Católico, 2, 22880 Canfranc-Estación, Huesca
☎+34-974561900
昼営業のみ13:00、13:30、14:00スタート
日曜〜火曜休
コース170ユーロ〜
https://www.barcelo.com/es-es/canfranc-estacion-a-royal-hideaway-hotel/gastronomia/canfranc-express/

*1ユーロ=167円(2024年4月時点)

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