質の高さで注目を集めるベトナム産カカオ。ビーン・トゥ・バーブランドも続々誕生
Vietnam [Ho Chi Minh City]
2024.11.05
text by Rie Suzuki
(写真)マーケットにずらりと並ぶ地元産ビーン・トゥ・バーチョコレート。パッケージも色鮮やかで、洒落たイラストが描かれたものも。
近年ベトナムでは、国がカカオ生産を奨励し、生産から製造まで一貫して行うベトナム産ビーン・トゥ・バー(bean to bar)チョコレートが次々と登場している。グロサリーショップには、国内約25ブランドのチョコレートが並ぶ。
カカオは19世紀に旧宗主国であるフランスより、インドシナでの新たな産業を作るためにもたらされた。当時カカオは高価に取り引きされていたため、フランスはベトナムに大規模なカカオ農園を作り生産体制を拡大しようとした。しかし、想定以下の品質のものしかできず、コーヒーやコショウ、カシューナッツのような利益を生み出す作物として根付くことはなかったという歴史をもつ。
1990年代後半になると、カカオ栽培に適したカカオベルト(北緯南緯20度以内に位置する高温多湿地帯、規則的な降雨と湿潤・温暖な気候、水はけのよい土壌)に着目した欧米の国際機関や支援機関が、わずかに残る小規模カカオ農家への技術支援を行い、生産や輸出体制を整えていく。同時にホーチミン農林大学では、カカオの交配や発酵などの研究がスタート。2000年になると、農業農村開発省はカカオ生産を奨励する長期プログラムを発表する。
栽培されるトリニタリオ種は、独特の香りをもつクリオロ種と苦味が強いフォラステロ種を交配したもので、さらに品種改良も進んでいる。栽培地域によりフルーツの香りや酸味、ナッツのような香ばしさやスパイシーな風味などが表出する。2013年、パリで開催された「サロン・デュ・ショコラ」でベトナム産カカオがアジア太平洋地域で最高品質のカカオに選ばれたことで、国際カカオ機構(ICCO)はベトナム産カカオを世界のトップ生産地リストに追加した。
現在、ビーン・トゥ・バーの各ブランドでも様々な取り組みが行われている。
人気ブランドの一つ「ココアプロジェクト(The Cocoa Project)」では、ベーカリーやパティスリーに原材料を供給するピュラトス社によるサステナブル・プログラム「カカオ・トレース™」に参加。カカオ生産者の栽培技術を支援し、収入増加や生活水準の向上、安定した品質の確保に寄与している。同プログラムは、長期的な協力関係にある農家コミュニティから、プレミアム価格で豆を購入することを約束するもので、農家は栽培に関する優れた実践研修を受けることができる。チョコレートが1㎏売れるごとに、農家はチョコレート・ボーナス・プログラムに基づき追加で10セントを受け取る。
また、ホーチミン市内から車で2時間ほどのカカオ生産地では、農園からチョコレートの製造工程まで見学ツアーを実施しているブランドも多い。地元の人だけでなく観光客にも人気のこのツアーでカカオの品質に関心をもつ人が増え、カカオ農家の生活水準向上への理解促進、さらに持続可能な生態学的サイクルへとつながることが期待される。ベトナム産カカオの質の向上は、農家から消費者に至るすべての関係者に利益をもたらすと言えるだろう。
◎THE COCOA PROJECT
https://thecocoaproject.vn
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