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JOURNAL / 世界の食トレンド

エッグコーヒー、ココナッツコーヒー・・・独自に進化したベトナムのコーヒー文化に注目

Vietnam [Ho Chi Minh City]

2025.07.28

エッグコーヒー、ココナッツコーヒー・・・独自に進化したベトナムのコーヒー文化に注目

text & photographs by Rie Suzuki
ホーチミンの高級ベトナム料理店「ホアトゥック」の「ソルティッドコーヒー」。塩を入れたホイップクリームがコーヒーの苦味をマイルドにするようだ。

ホーチミンでコーヒー豆や茶葉を扱っていた「フックロン(PHUC LONG)」が、カフェをオープンしたのは1980年。以降、ベトナムには地元発のブランドが続々と登場している。コーヒーショップは2000年代初頭で最も急速に成長した業態の一つだ。

オーソドックスな淹れ方は、小さな金属製のドリッパー「フィン」を使用する。深煎りコーヒーの粉を使い、コーヒーがゆっくりとカップに滴り落ちるのを待つため、苦味と酸味、さらに甘味のある濃厚な味わいが特徴だ。南北に長い国土ゆえ、地域によって楽しみ方は異なる。北部は温かいコーヒーに、少なめの練乳を。南部ではクラッシュした氷で冷やしたアイスコーヒーに練乳をたっぷり入れるのが主流だ。練乳はフランス統治時代、牛乳の輸入が困難な時に練乳で代用したのが始まりと言われている。

ココナッツコーヒー
「ココナッツコーヒー」は練乳とココナッツクリームをコーヒーに合わせたもの。

ベトナムのコーヒー栽培は、1857年、当時の宗主国のフランス人宣教師らがコーヒーの苗木をベトナム中部に持ち込み、地元の教会で配ったことが始まりだ。フランス人農園主たちは地元農家の専門知識を高く認め、コーヒー栽培に協力を求めていった。地域環境保護のため、多くが化学肥料を使用せずに栽培され、伝統的な農法、収穫、加工法が現在も用いられている。当初はまずまずの収穫量を示したが、害虫や病気の影響で徐々に衰退。しかしベトナム戦争後、ベトナム人によってインスタントコーヒーの製造に成功。現在では生産量の9割がロブスタ種で、主にインスタントコーヒーとして世界各国に輸出されている(2020年時点)。

苦味があり、力強い味わいが特徴的なロブスタ種。現地のレストランやカフェでは、工夫を凝らして独自のドリンクメニューを展開している。

エッグコーヒー
卵と砂糖と練乳でカプチーノの泡を模した「エッグコーヒー」。

ホテル「ソフィテル・レジェンド・メトロポール・ハノイ」のバリスタによって考案されたという「エッグコーヒー」は、コーヒーの上に卵黄と砂糖と練乳を泡立てて注いだもの。濃厚でクリーミーな味わいはデザートのよう。牛乳不足の時代にカプチーノのようなドリンクを模索した中で発案されたと言われている。練乳とココナッツクリームをコーヒーに加えた「ココナッツコーヒー」や、クリームと塩でホイップしたものをコーヒーにのせる「ソルティッドコーヒー」などユニークなドリンクも。塩は風味を調えコーヒーの苦味を調整する効果があるという。

近年ベトナムでは、内装にこだわった洒落たカフェが続々オープンしている。ベトナム全土で33万8600店舗(2022年時点)のカフェが存在し(日本の約6倍)、裏路地などに構えた隠れ家的カフェの多くは、植民地時代の邸宅や中庭をそのまま利用したものだ。多くのカフェが夜遅くまで営業し、道に溢れるほど人びとが賑わい、街に活気をもたらしている。カフェを通じた日常の風景が、今日も豊かな時間を生み出している。

参考文献 “Dac Den Dang The Vietnamese Coffee Book” Peter Cornish、2022年

ベトナムの路地裏
路地裏には植民地時代の邸宅を改装して作られたカフェが点在している。

Hoa Tuc
www.hoatuc.com

*1ベトナムドン=0.0057円(2025年7月時点)

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