老舗の邂逅 テタンジェ×「京料理 木乃婦」が照らし出す
シャンパーニュと京料理の未来
2018.12.27
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text by Noriko Horikoshi / photographs by Jun Kozai
家族三代にわたり革新と挑戦を重ねるメゾンと料亭
1932年創業の「テタンジェ」と、昭和10年(1935年)創業の「京料理 木乃婦」。
海を隔てた2つの古都で、偶然にもわずか3年違いで誕生したシャンパーニュメゾンと名料亭には、興味深い符号があります。
家族三代にわたって受け継いできた文化と歴史があること。
その伝統を維持しつつも、革新と挑戦を重ね、新しい味を生み出してきたこと。
2018年11月27日、紅葉で華やぐ京都の一夜、そんな二者の共演によるMEETUPが「木乃婦」を舞台に開催されました。
テタンジェの5種類のシャンパーニュに、ワインの造詣も深い「木乃婦」三代目当主・髙橋拓児さんによる旬の懐石コースをペアリング。
驚きがいっぱいのディナーの模様をリポートします。
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“ガストロノミーと一致するシャンパーニュ”を目指した初代の挑戦
床の間を飾る緋色の紅葉が、京の料亭にふさわしい艶やかさ。卓上には、髙橋さんの手書きによる美しいメニューとシャンパーニュグラスがセッティングされ、はじまりの時を待つばかり。テーブルを囲むゲストも、心持ち頬が紅潮しているように見えます。
今回のMEETUPに登場するテタンジェのシャンパーニュは、最上級キュベ「コント・ド・シャンパーニュ」のヴィンテージ違いを含め、全5種類の贅沢な布陣。ワイン賢人の異名もとる髙橋さんは、どんな和の料理とのマッチングで驚かせてくれるのでしょうか。期待が高まります。
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ウェルカムドリンクを兼ねた1杯目は、テタンジェのシグネーチャー・シャンパーニュともいえる「ブリュット レゼルヴ」。テタンジェ・アンバサダーを務めるシュビヤー・クリストファーさんの挨拶とともに、乾杯が交わされました。
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「テタンジェ」アンバサダーのシュビヤー・クリストファーさん
「テタンジェの最大の特質は、創業から85年以上にわたり、ずっと家族経営の会社であり続けていること」とクリストファーさん。
「そして、伝統を守るだけでなく、常に挑戦し、革新を生み出しているシャンパーニュメゾンでもあります」
初代創業者のピエール・テタンジェ氏は、兵役中に見初めたランスのシャトーを買い取り、1932年にメゾンを開業。早くから自社でブドウ畑を所有し、品質管理を徹底させることに注力してきました。その広さ、実に288ヘクタール!
「大変な美食家で、“ガストロノミーと一致するシャンパーニュ”を提唱した人物でもあります。当時のシャンパーニュはピノ・ノワールの比率が高く、1L当たり50gのドサージュ(加糖のためのリキュール添加)が普通。食事の最初から最後まで通して飲むには、重すぎました」
テタンジェの伝統と革新を代弁するブリュット レゼルヴ
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「テタンジェ ブリュット レゼルヴ」
より軽やかに、よりエレガントに。代が替わっても模索は続き、試行錯誤の末に到達したのが、「1L当たり9gのドサージュ、シャルドネ主体」のモデルでした。糖度が低く、フレッシュかつ繊細、ミネラリー。
「テタンジェの伝統と革新を代弁するスタイル。それが最もわかりやすい形で反映されているのが、入門編であり、それだけに最も重要なキュベと位置付けている『ブリュット レゼルヴ』なのです」
歴史を振り返りながらの紹介が終わり、いよいよお待ちかねのペアリングがスタート。「ブリュット レゼルヴ」に合わせて、まず先付けの白和えが運ばれます。クリーミーな和え衣の下には、髙橋さんが「うちのスペシャリテのひとつ」と話す栗の渋皮煮が。
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先付「くり白和え 車海老 銀杏」
「特にピンポイントを意識せず、紅葉の季節の料理をシャンパーニュに寄せるイメージでご用意しました。もともと文句なしの相性ですから、私のすることは何もありません(笑)」と、まずは軽妙なジャブで座を和ませます。
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「京料理 木乃婦」三代目当主 髙橋拓児さん
シャンパーニュと日本料理。正反対の出自をもつワインと料理が、なぜそれほど響き合うのでしょうか。その鍵は、スティルワインにはない、シャンパーニュならではのフレーバーにあると髙橋さんは言います。
「特に熟成の長いシャンパーニュに備わるブリオッシュ、カラメルの香ばしさ。そして、乳酸由来の発酵臭。いずれも薄口醤油と重なるフレーバーです。さらに微発泡感が酸のシャープな印象を和らげ、香りを滑らかに立たせてくれる。必然的に和食全般と合う条件が揃っているのです」
とはいえ、ペアリングの完成度を高めるための“引き寄せの法則”も。そのヒントを示してくれたのが、向付に登場したふぐの昆布〆。つけ汁のポン酢の中に、工夫がしのばせてありました。
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向付「ふぐ昆布〆 雲子ぽん酢」
「ポン酢の中に、わからない程度に胡麻油を足し、雲子(白子)と乳化させています。通常の日本料理より、気持ちオイリーに仕上げる方がシャンパーニュには合わせやすいので」
ロゼと甲殻類は最強の相性
素材との相性で目を見張らされたのは、薄口仕立ての「かに真丈」と、本日2本目のロゼシャンパーニュの組み合わせでした。
テタンジェの「プレスティージュ ロゼ」は、ベースの白ワインに赤ワインを15%ほど混ぜるアッサンブラージュ製法によるもの。
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「テタンジェ プレスティージュ ロゼ」
髙橋さん曰く、「ピノ・ノワールのタンニン、柔らかな甘味がのったロゼは、分厚い旨味の甲殻類と最強の相性です」。蟹は大葉と一緒に炊き、ロゼシャンパーニュにわずかに混じる青草の香りに呼応させています。
さらに、ロゼのふくよかな味わいを頼もしく受け止めるのが、通常の1.5倍量の鰹節で引いたという鰹だし。ひと口に含んで味わうごとに、その精緻なバランスに圧倒されます。
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御椀「かに真丈 金時人参 生姜」
「プレリュードは日本酒に一番近い」
3番目に登場のテタンジェ「プレリュード グラン・クリュ」は、ボルドータイプの白ワイングラスでテーブルに。名前通りのグラン・クリュ、自社の特級畑で栽培されたシャルドネ50%、ピノ・ノワール50%のセパージュにより、ボディ感とエレガンスを表現したNV(ノンヴィンテージ)のシャンパーニュです。
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「テタンジェ プレリュード グラン・クリュ」
「通常のNVの規制である15カ月をはるかに超える、5年間の蔵熟成を経ています。温度が上がるとより豊かな香りの広がりを感じていただけるはず」とクリストファーさん。
対する髙橋さんは、「プレリュード」についての印象を「5年熟成の厚みはあるけれど、穏やかでスムース。日本酒に一番近いシャンパーニュ」と表現。「そのまま直球の日本料理に合わせていける味なので、旬のまながつおを味噌柚庵焼きに仕立ました」
白味噌のコクと発酵の甘味、柚子の爽やかさを「プレリュード」と一緒に味わうと、風味が口の中で溶け合い、同化し、膨らみ、きれいな余韻を残して消えていくのがわかります。
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焼物「まながつお 味噌柚庵焼」
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「1+1=2ではなく、3に感じる組み合わせ」「相思相愛のペアリング!」と、ゲストからの絶賛しきり。髙橋さんも「今日のラインナップの中では、一番料理に合わせやすいバランス型」と、そのポテンシャルを賞賛します。
「値頃感でも優秀な1本。料理とワインの値段を同じくらいに揃えることは、実はとても大事なことなんですよ」
コント・ド・シャンパーニュと甘鯛のだしが織りなす堂々のペアリング
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「テタンジェ コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン2006(マグナム)/2007」
ほどよく酔いが回り、ゲスト同士のおしゃべりもはずんできたところで、いよいよ真打が登場! 特級畑のシャルドネ100%の“ブラン・ド・ブラン”、8~10年の瓶熟成をかけてリリースされる「コント・ド・シャンパーニュ」の2006年と2007年。ヴィンテージ違いの最上級キュベを、甘鯛の小鍋仕立とともに味わいます。
「甘鯛の骨を煮立てたおだしがベース。浮いた脂は取らず、膜だけすくって、あえてオイリー感を残しました。ボリューム感たっぷりの2006年、若さも力強さもある2007年、どちらのキャラクターにも負けないしっかりした味のスープ餡に仕立てています」
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鍋物「あまだい 小蕪 菊菜」
ゆっくりと味わいたい鍋に合わせ、この夜は特別に1500mlのマグナムボトルも用意されました。シャンパーニュ通の間では、通常のサイズよりマグナムのほうがおいしい!という声がよく聞かれます。これは、ワインの容量に対して空気が触れる割合が少なく、酸化が進みにくいため。安定した品質を長く保てるので、瓶内熟成期間の長いコント・ド・シャンパーニュでは、よりエレガントな熟成香が備わるというわけです。
見た目よりずっと濃厚なスープに、コント・ド・シャンパーニュの重厚な熟成感が練り込まれ、口内調味で別の旨味が花開くかのよう。清楚にしてゴージャス。ピュアにして複雑。メインにふさわしい堂々のペアリングです。
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御飯「穴子 海老芋ご飯」
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水物「洋梨ソルベ メロン バニラアイス」
ドライすぎない甘味のタッチと
主張しすぎない品格がテタンジェの魅力
夜も更け、幸せな余韻に浸りながらも、ご飯に、デザートに、多彩なテタンジェのシャンパーニュを合わせ直しては、口々に感想を語り合う探求心旺盛なゲストの皆さん。
「シャンパーニュは、まさに、今日のような時間のために造られたお酒。飲む人の会話を弾ませ、場を華やがせる力を持っているのです」と、うれしそうなクリストファーさん。
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3時間に及んだディナーを終えて、再び髙橋さんに尋ねてみました。テタンジェのシャンパーニュと「木乃婦」の日本料理。完璧すぎる相性の決め手となったものは?
「一言で表現すればバランス、でしょうか。テタンジェのシャンパーニュは、全体にほのかな残糖感があって、酸味と甘味のバランスが絶妙。みりんを甘味に使う日本料理に、ドライすぎるシャンパーニュは合いません。必要なのは、”ほどよい甘味”のタッチ。そして、単体で主張しすぎない品格も好ましいですね」
まさに“酸いも甘いも噛み分けた”ペアリングの妙を実感した一夜でした。
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◎ 京料理 木乃婦
京都府京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町416
☎ 075-352-0001
11:30~14:00LO
17:00~19:30LO
不定休
・昼コース(平日)5000円~
・昼コース(土日祝)・夜コース 15000円~
(税・サービス料別)
京都市営地下鉄四条駅より徒歩5分
◎ 「テタンジェ」に関する情報
http://www.sapporobeer.jp/wine/taittinger/