メゾンの“スタイル”を知る
「Ryuzu(リューズ)」飯塚隆太シェフの料理と味わうテタンジェとガストロノミーの幸福な出会い
2017.03.30
text by Tadayuki Yanagi / photographs by Hide Urabe
歴史ある家族経営のシャンパーニュ・メゾン「テタンジェ」の4つのキュヴェを、東京・六本木「Ryuzu(リューズ)」飯塚隆太シェフの料理と共に体験するMEETUPが4月19日に開催されました。
ミシュランスターシェフの料理と共にテタンジェのプレステージキュヴェまで体験できるチャンスとあって、応募者は多数。その中から選ばれた20人の参加者のみなさんが体験したMEETUPの模様をお届けします。
会の冒頭、テタンジェ社のアジア太平洋地域ダイレクタ―、ニコラ・デリオンさんから、テタンジェ社の歴史について説明がありました。
シャンパーニュ作りにおいて今なお独立性を保つメゾン
「テタンジェについてもっとも重要な点は、シャンパーニュ地方ではすっかり少なくなった家族経営のメゾンであること。ジュエリーやファッションブランドに買収されてしまったメゾンの多い中、テタンジェは今でも独立性を保つ数少ないメゾンです」とニコラさん。
「テタンジェ家はもともと軍人の家系。現社長の曽祖父にあたるピエール・テタンジェが、第一次世界大戦中の1915年、シャンパーニュ地方のピエリー村にあるシャトー・ド・ラ・マルケットリーに来て、その美しい光景に魅了されました。このシャトーは1734年に建てられたルイ15世様式の瀟洒な城館で、隣接する急斜面のブドウ畑はベネディクト会の修道僧ウダール師が最初に植えたと言い伝えられています。
それから17年後の1932年、ピエール・テタンジェはこのシャトー・ド・ラ・マルケットリーとともに、1734年に創業したフォレスト=フルノー社というシャンパーニュ・メゾンを手に入れ、ここにシャンパーニュ・テタンジェの歴史が始まりました。ピエールは第二次世界大戦までの間に、ブドウ畑の拡張に努めます」
軽やか、繊細、フェミニンなシャンパーニュ革命
「世界が平和を取り戻した1945年、息子のフランソワ・テタンジェが二代目社長に就任しました。当時のシャンパーニュは黒ブドウのピノ・ノワールの比率が高く、木樽で発酵させていたため重厚なスタイル。しかしながら、フランソワが目指したのは、もっと軽やかで繊細、フェミニンなスタイルのシャンパーニュでした。そこで酸味の高いシャルドネの比率を高め、一番搾りだけを使用してフレッシュな風味に仕上げました。ここにシャルドネ・ハウスと呼ばれる、今日と変わりないテタンジェのスタイルが確立されます。
1960年にフランソワが突然の事故で亡くなり、会社はその息子のクロード・テタンジェに引き継がれました。クロードの時代にテタンジェはパリのオテル・クリヨンや銀製食器のクリストフル、クリスタルのバカラなどを傘下に収めます。しかし、2005年にアメリカの投資ファンドに買収され、クロードは引退を決意します。
そこに登場するのがクロードの甥にあたる、現社長のピエール・エマニュエル・テタンジェです。彼は本業であるシャンパーニュ・ビジネスを残すため奔走し、2006年、シャンパーニュ・テタンジェをふたたび一族の手に取り戻しました。こうして家族経営のシャンパーニュ・メゾン、テタンジェが復活したのです」
生き生きとしたロゼから始まるテタンジェナイト
さて、ニコラさんのご発声で乾杯に供されたのは、「プレスティージュ ロゼ」です。ピノ・ノワールの赤ワインが15%パーセント加えられたチェリーピンク。このロゼにも30%の比率でシャルドネがブレンドされています。
「力強さや厚みをもたらすピノ・ノワールの赤ワインに、シャルドネが繊細さやエレガントさを添えて調和をとっています」とニコラさん。口開けにいきなりロゼとは珍しい趣向ですが、この生き生きとしたロゼであれば、次に何が来ようとスムースにつながります。
乾杯でさっそく振る舞われたロゼに、参加された皆さんもご満悦。なにしろこの日は20名のうち男性はわずか1名。女性はことのほかロゼ・シャンパーニュがお好きですから。
アミューズブーシュとともに「プレスティージュ ロゼ」を楽しんだ後、いよいよお料理の登場です。お料理はご自身、シャンパーニュフリークという飯塚隆太シェフ。
「テタンジェと料理の関係はとても深いんです。テタンジェは『<ル・テタンジェ>国際料理賞コンクール』を毎年開催しているので、料理人の中でテタンジェを知らない人はいません」と飯塚シェフ。「私も若い時に応募したことがありました。予選落ちでしたが……」と笑いを誘っていました。
ひと皿目は「自家製スモークサーモンで野菜 林檎 卵黄を巻いて ハーブソースで」。これに「テタンジェ ブリュット レゼルヴ」を合わせます。「ブリュット レゼルヴ」はテタンジェの金看板。メゾンの名刺のような存在です。シャルドネ40%、ピノ・ノワールとムニエが60%。35以上の異なるクリュのブドウをブレンドし、最低3年間澱とともに熟成。これこそフランソワ・テタンジェが追い求めた、軽やかで繊細なシャンパーニュのスタイル。
季節の関係でシェフが「ブリュット レゼルヴ」のアロマの中に嗅ぎ取ったグラニースミスは、残念ながらこの料理に使えませんでしたが、ふじのフレッシュなアロマがシャンパーニュと同調しています。スモークサーモンの塩味とシャンパーニュのミネラル感もきれいな調和を見せていました。
シェフのシグネチャーディッシュと
「シャルドネ・ハウス」の由縁となったキュヴェの出会い
次にシェフのシグネチャーディッシュ、「魚沼産八色椎茸をタルト仕立てに ラルドの薄いベールを覆って」。「私、これだけ食べに来ることもあるんです」とおっしゃる参加者もいたほどの人気メニューです。これにも「ブリュット レゼルヴ」を合わせます。
パイ生地のクリスピーでトースティな風味が、4年間熟成させたシャンパーニュの香ばしいイーストの香りとハーモニーを奏でていました。
シャルドネを極限まで追求したシャンパーニュ
メインディッシュは「フランス産仔牛ロース肉のロティ 新玉葱のピュレ 空豆 アスパラガスを添えて オレンジの香りとともに」。テタンジェのフラッグシップ、「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン2006」に合わせて、飯塚シェフが考案した料理です。
「じつは当初、コント・ド・シャンパーニュは予定にありませんでしたが、僕が飲みたかったので(笑)」というシェフ。飲んだ瞬間、「これなら肉でもいける」と直感したそうです。
ニコラさん曰く、「コント・ド・シャンパーニュはシャルドネを極限まで追求したシャンパーニュ」とのこと。コート・デ・ブランの最高級のシャルドネからなり、その一番搾りのみを使って造られます。ベースワインの8%のみ樽発酵。これは樽の香りをつけるためではありません。複雑さと骨格をシャンパーニュに与えるためだそうです。
2006年は日照量に恵まれたおかげでボリューム豊か。「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン2006」ならではのエレガントさやデリケートさの中にも、包容力や寛容さが感じられます。それが仔牛とのマリアージュを成立させているのでしょう。
デザートにもエスニック料理にも
そして最後のデザートももちろん、シャンパーニュと一緒に楽しんでいただきます。「軽やかなヌガーグラッセとアプリコットのクーリー」に「ノクターン」。「ブリュット レゼルヴ」のドザージュ(糖分添加量)を9グラムから18グラムに増やした、辛甘度ではセックに相当するシャンパーニュです。
「糖分が高いので、デザート以外に甘塩っぱい料理や、スパイシーなエスニック料理とよく合います」とニコラさん。この「ノクターン」を味わった瞬間、飯塚シェフはアプリコットを感じたそうで、ヌガーグラッセのサイドにアプリコットのクーリーが弧を描いていました。
ニコラさんにこの日のペアリングでもっとも印象的だった組み合わせをお聞きしたところ、「椎茸とブリュット レゼルヴです。キノコは香りのインパクトが強いので、シャンパーニュと合わせるのはなかなか難しい。ところが、それをタルト仕立てにしたことでブリュット レゼルヴとぴったり合いました」と、興奮気味に語っていました。
「今日のマリアージュのポイントは、ひとつにテタンジェのシャンパーニュが美味しいこと。それともうひとつは飯塚シェフの料理センスが素晴らしいこと」と、最後に述べたニコラさん。テタンジェの素晴らしさももちろんですが、シャンパーニュフリークの飯塚シェフだからこそ、成功したペアリングだったに違いありません。
◎ レストラン リューズ
東京都港区六本木4-2-35 アーバンスタイル六本木B1F
☎ 03-5770-4236
12:00~13:30LO 18:00~21:00LO
月曜休、不定休日あり
昼コース3600円(平日のみ)、5800円、8400円
夜コース8000円、13000円、19000円
(税込、サービス料別)
東京メトロ、都営線六本木駅より徒歩3分
◎ 「テタンジェ」に関する情報
http://www.sapporobeer.jp/wine/taittinger/