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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

79歳。「年中無休で働いて、主人名義の店の借金もきっちり返済したがよ」

生涯現役|「焼肉かなざわ」金澤晄美

2024.03.18

79歳。「年中無休で働いて、主人名義の店の借金もきっちり返済したがよ」 生涯現役|「焼肉かなざわ」金澤晄美

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


金澤晄美(かなざわ・あけみ)
御歳79歳 1944年(昭和19年)12月1日生まれ

高知県生まれ。1966年にタクシー会社を営む夫と結婚し、県内3カ所でタクシー会社を夫とともに経営。75年、夫が旅館を継ぐことになり、宿毛市に移住。77年、「焼肉かなざわ」開店。翌年、病気で夫が他界し、女手一つで店を切り盛りしながら子育てをしてきた。中学から写真を始め、宿毛の「だるま夕日」を有名にした立役者。81年、撮影した夕日が市観光写真展で特選に選ばれ、作品が絵葉書や観光パンフレットなどに使われるように。91年、全国コンテスト「日本夕日写真大賞」で上位入賞を果たし、だるま夕日の知名度は全国区に。だるま夕日を目的に同市を訪れる人も多い。現在でも第一人者として撮影を続ける。

(写真)金澤晄美さん。従業員2人とともに、焼肉店と旅館を切り盛りする。昔は和食御膳なども提供していたが、「宿泊客は釣り目的の人が多く、年齢が比較的若めで、焼肉の方が喜ばれる」(金澤さん)。焼肉に絞ってからは、皿数もぐっと減らすことができた。宿泊客が釣ってきた魚は、無料で活け造りにして提供するサービスも。「活け造りにしたら、“プロみたいな”って言われるけんど、“プロです”言うてね(笑)」。取材した日も釣り客が10人宿泊していた。


「あんまり」と言われたら
「どうしたらいいでしょうか」と素直に聞く。

焼肉屋を始めて、早50年近く。店を開いて半年で主人が病に倒れ、それから間もなく亡くなって、最初は本当に苦労続きやったけど、お客さんに支えられてここまで続けてこられました。

主人が亡くなったのは、私が32歳のとき。店の借金と子ども2人を抱えた私は、もう必死やった。借金は主人名義で、銀行からは放棄することもできると言われたけど、放棄したとして、もしその後で店の経営がうまくいったら、誰に何を言われるか分からんと思うてね。「何年かかっても返します」と言うて、きっちり返済したがよ。だから今、こうして堂々とおれます。

私は料理をきちんと学んで始めたわけじゃないから、「素人です」と本当のことを言うて、いろんな人から教わってきた。「子供2人を抱えて生きていかないかん」「かまんかったら教えて欲しい」と評判の焼肉屋で教わった期間もあったね。当時はセンマイが貴重で、肉屋は信用の置ける店にしか卸さんと聞き、「センマイを置けるようになったら一流の店」やと教わったのも、この時。

お客さんにも意見をよう聞いたよ。「お味はどうですか?」と聞いて、「あんまり」と言われたら「どうしたらいいでしょうか」と素直に聞く。聞くのは一時の恥、知らぬは一生の恥やと思うてね。そうやってみんなに助けられて、少しずつうちの味ができていったがよ。子どもたちが短大を卒業するまでは、年中無休で夢中で働きました。

しんどかったかって? そりゃ人間やけん、しんどいよ。昔は母子家庭が差別されて、父親がおらんと良いところに就職できんとかあったしね。でも主人が最後に残してくれた「子どもたちを頼む」という手紙がバネになった。がむしゃらに働いてきた姿を、主人も天から見守ってくれたおかげやと思う。店を頑張ってきた縁で繋がった人たちがたくさんおって、いろんな場面で支えてくれた。今は子育てを終えた娘たちが、「お母さんを大事にするのは今や」と言うて労ってくれます。年に2回、親子3人で旅館でゆっくり過ごすのが楽しみで、ご褒美みたいな時間やね。

丸2日かけて作るうちのタレは、女性も子どもも食べられるように、少し甘め。キャベツや玉ねぎなど、甘味が出る野菜をじっくり煮出してスープを作って、ミキサーで潰す。それから醤油や味噌、ハチミツ、りんご果汁、ニンニクなどを入れて、沸騰させずにじっくりコトコト煮る。試行錯誤を続けながら、今の味に落ち着きました。

朝は5時頃に目が覚めて、7時半頃に近所にモーニングを食べに行く。モーニングの時間が、近所の人との交流の時間にもなっちょうね。それからスーパーや産直市で仕入れ、朝10時から1時間はプールで泳ぐ時間。その後家でお昼を食べて、下ごしらえに取り掛かる。旅館もやりようけん、お風呂の準備なんかも並行しながらね。夕方4時に焼肉屋の従業員が来て、店の準備をして、5時から夜10時までが店の時間。夜は11時過ぎに寝ます。

健康の秘訣は、三食バランスよく食べることと運動、ストレスを溜めずに腹を立てないこと、笑うこと。商売は、“商い”と“飽きない”の意味があると思うちょう。自分もお客も飽きないように、今も日夜勉強中で、お客さんに飽きられんように頑張りよう。そういう気持ちでおったら、毎日が楽しいわね。

79歳。「年中無休で働いて、主人名義の店の借金もきっちり返済したがよ」 生涯現役|「焼肉かなざわ」金澤晄美

写真上から、牛タン(¥1,050)、ホルモン(¥700)、カルビ(¥1,000)。センマイ、ミノなどホルモンも充実。

79歳。「年中無休で働いて、主人名義の店の借金もきっちり返済したがよ」 生涯現役|「焼肉かなざわ」金澤晄美

ビールはもちろん、味噌汁(¥150)やご飯(¥100〜250)とともに定食的に食べる人も多い。



毎日続けているもの「焼肉

◎焼肉かなざわ
高知県宿毛市片島9−24−4
☎ 088-065-8125
17:00〜22:00頃
第2・第4木曜休
土佐くろしお鉄道宿毛線宿毛駅から徒歩30分

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