種が大切だって、言い続けよう。
古来種野菜コーディネーター 高橋一也
2024.06.17
個人発行の小冊子『八百屋』を見たことはあるだろうか? 0号から熱い。何せ、タイトルが「八百屋が語るべきはLOVE。とYES」。ページを繰ると、在来種の野菜のこと、野菜の一生、それにレシピが、計り知れない熱量で表現されている。
この冊子を作っているのは、野菜卸の高橋一也さんと妻の晃美(てるみ)さん。「1号からは、生産者の方の書く記事もあります」と、晃美さん。一也さんは続ける。「この本の目的の一つは、生産者の仕事を作ること。野菜を作るだけでは収入が上がらない。彼らでないと撮れない写真、書けない文章を載せることで、原稿料を支払っています」
野菜卸、小冊子制作、イベント「種市」の企画などが、高橋さんの主な業務。東日本大震災で被災した生産者の支援活動なども行う。扱う野菜は主に、その土地でずっと種が受け継がれてきた在来種だ。
「“昔からずっと続いている種”という意味で、僕たちは“古来種”と表現しています」と高橋さん。たとえば、ダイコンはかつて国内に100種を超える「ご当地もの」があったと言われているが、全国で同品種を植えるようになり、自家採種の種はいつしか途絶えつつある。「その〝古来種〞をなるべく多くの人につなぐための活動を行なっています」
全国から集めたこれらの野菜は、伊勢丹新宿店やレストランに卸すほか、宅配セットで直接食べ手に届けている。セットの中身は山形県の「甚五右ヱ門芋(じ んごえもんいも)」や青森県の「南部太ねぎ」、岩手県の「安家地大根(あ っかじだいこん)」、福井県の「杉箸アカカンバ」など。一つひとつの解説に、その野菜がどのように守られ育てられてきたかが丁寧に書かれている。
「日本をどうしたい?」の答え探し
「外国を見てみたい」と高校卒業後に選んだのが中国。天安門事件が起きた年の9月に渡り、高橋さんも学生運動の渦に巻き込まれた。「最中、同級生から聞かれるんです。『君は日本人として日本をどうしたいんだ?』って。何も答えられませんでした」
雑誌を見て華やかなフランス料理の世界に憧れ、キハチに入社。一から調理の基本を学んだことはもちろん、米カリフォルニア州に行き、シェ・パニースを中心とするオーガニックのムーブメントに触れたことが次のステップにつながった。「これから料理人にとって、素材がより大切になるんだと」。料理人として独立することに限界を感じた際に自然食品店へ転職したのも、この思いがあったからだ。そして2008年、長崎で在来種を守り育てている岩崎政利さんと出会う。
「“古来種”には、その土地の歴史や文化、人の営みが詰まっています。有機栽培や自然農法など“育て方”を見てきましたが、その先にすべきことは、“種”を守ることなんじゃないかと」。その考えが徐々に膨らみ、独立へと駆り立てた。
多くの人に手渡したいから
野菜の在来種は3タイプに分けられる、と高橋さんは言う。
「京野菜や金沢野菜など、ブランド野菜として全国に知られ、流通量も多いもの。各県での地産地消のほか、東京など消費地にも流通し、年間1000万円程度売り上げるもの。そして、わずか1〜2軒の農家が自家採種して育て、その地での消費だけで終わるもの。僕たちが伝えていくべきは、この、伝承するのがやっとの野菜が中心。一大消費地の東京からこれらの野菜を発信して、食べ手につなぎ、その種が途絶えないようにしたい」
そのためにできることは何か。具体的なビジネスモデルが見えないまま独立しようと焦る高橋さんを、周囲の人たちは止めたという。しかし東日本大震災が起き、被災地で種を手放さざるを得ない生産者に会った。もう今しかない、と踏み切った。
野菜の引き売りから始めた。レストランの軒先を借りて、野菜を並べて売ったことで、徐々に人の輪が広がったという。「“古来種”の野菜を使いたいという人に、ストーリーを含めて渡したい」。その思いがこれら野菜を集めたユニークなイベント「種市」開催につながった。マーケットのほか、農家や料理家、文筆家たちによるトークショーや講演会、料理教室や展示も行い、多方向に「種から『食べる』を考える」イベントとして注目された。
力強く、どこか懐かしい野菜のおいしさ、背後の物語を知ってもらえれば、多くの人はその野菜を大切にしてくれ、食卓の1パーセントを占めるかもしれない。その1パーセントが、日本の各地で種を継いでいる生産者たちに、続ける勇気を与えるのだ。「商売というよりも、これが僕の『役割』なのかなと、最近は思っています」と高橋さん。種を残すための仕組みづくりに、しばらく東奔西走が続きそうだ。
◎warmerwarmer
warmerwarmer.net
(2024年6月追記)高橋さんは現在、種を守る活動として月2回、吉祥寺でお野菜を食
(雑誌『料理通信』2014年12月号掲載)
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