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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

84歳。「うちのぬか漬けは、姑から受け継いだ80年ものよ」

生涯現役|東京・千川「やきとり 鳥将」三宅恵子

2025.02.26

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


三宅恵子(みやけ・けいこ)
御歳84歳 1941年(昭和16年)11月13日生まれ

23歳で京都から嫁ぎ、夫が飲食業を始めるのに伴い、接客を始める。明るい人柄と、心からの温かいもてなしで、人気を呼ぶ。自宅近くで店を開く際に、厨房を仕切る息子を主軸に、夫ともにサービスで支える。現在は息子と孫2人とともに店を切り盛り。毎日多忙だが、息抜きはカラオケとお酒。80年続くぬか漬けは、店の名物。

(写真)息子の正純さん、孫の達也さん、智也さんとともに焼鳥店を切り盛りする三宅恵子さん。店で提供するらっきょうやぬか漬けは恵子さんの手作り。撮影に訪れた自家製ぬか漬を愛するカメラマンには、丁寧に味づくりの極意を指南。常連のお客様には近況を気遣いするなど、恵子さんが作り出す店の雰囲気に惹かれるファンが多い。「母に会うために、店にやってくる方も多いんですよ」と正純さん。


1日1食
目覚ましは必要ナシ

まずはさび焼きからどうぞ。写真は撮影用にいっぺんに並べてますけど、お客さまには焼き立てを1本ずつお出ししますよ。

ここに焼きとり屋を開いたのは息子。
最初はね、夫と私で池袋で焼きとん屋をやってたんですよ。息子は親と同じことをするのを嫌がってね、焼きとり屋に修業に出たんです。

そもそもの話、私が嫁に来たとき、夫は印刷屋でした。印刷のことはよくわかりませんけど、立派なカラー印刷で賞をもらったりしてましたね。でも、印刷もだんだん難しくなって、神田の焼きとん屋さんに入れてもらったんです。2年ぐらい修業したあとに池袋に店を出しました。はい、夫婦2人で。私は人と接するのが好きなもんだから、毎日が楽しかったですね。店は、とっても繁盛したんです。でも、もっと静かなところでやりたいねってことで、ちょうど家の近所が空いたんで引っ越してきました。

それを機に息子と一緒にやることにしたんだけど、調理場は息子に任せて、私たち夫婦はサービスに徹することにしたんです。そしたら、「焼きとりってこんなにおいしいの」とか「こんな焼きとり食べたことない」って評判になって。店のある場所がちょっと引っ込んでるでしょ。でも、わざわざ遠方からも来てくださってね。そうなの、ありがたいの。

昼はやきとり丼が人気。私は接客メインなんだけど、チキンカツとから揚げは担当してます。それから、お米をといだり、漬物漬けたり、らっきょうを漬けたりするのも、私の担当。(「いろいろ担当があると、ボケないから(笑)」と正純さん)うちのぬか漬けは姑から受け継いだ80年もの。白菜漬けも漬けるし、姑から教わったぼたもちやおはぎ、お赤飯も作ります。ま、ぼたもちやお赤飯は友達にあげる用ですけど。

夫は68歳で他界。もう17、8年前かしらね。私は嫁に来てから一度も寝込んだこともなければ、お薬を飲んだこともない。お産のときもつわりがなくて、何でも食べられた。これだけは親に感謝ですよね。
ともかく、夫の両親と小姑2人との同居ですから、もう一生懸命でした。今だって、ボケちゃって息子たちに迷惑かけちゃいけないと必死で生きてますよ(笑)。

毎朝7時半か8時頃起きて、8時半か9時に店に来て、店用のお米を2升といだら、ご飯を炊きます。それから怒濤の仕込み、ランチタイム、終わってから夜の仕込み、営業と、休むヒマなし。朝も昼も食べない。パンをかじりながら仕事をします。22時に閉店してから、片付けして。明日の仕込みもやって、家に帰り着くのは真夜中。

1日1食しか食べないから、しっかり料理は作ります。ハンバーグとか皿うどんとか。それ食べて、3時半から4時ぐらいに休みます。目覚ましなんてかけたことがないし、睡眠時間が少ないからって眠たくなることもない。元気なのがありがたいですよ。

息子の友達もお客さまになってくれていて、「お母さん、お母さん」って言ってくれて、一緒に飲んだりね。お酒はいいですよね。近所のひとり暮らしのご高齢の方もおひとりでいらっしゃる。私、話すのが好きだから、食後にお菓子を差し入れして一緒におしゃべりしたりしてね。ともかく、みなさん、「ここに来ると元気もらえる」と言ってくださる。私はその言葉に元気もらってます。

焼き鳥6本コース。店では焼きたてを1本ずつ提供。左上から、さび焼き、血肝、ねぎ焼き、モモ・正肉、つくね、シソ巻き。

季節の野菜で漬けるぬか漬け。

毎日続けているもの「焼鳥

◎やきとり 鳥将
東京都豊島区要町3-36−4 BLISSIA要町
☎ 03-3554-4181
11:30〜14:00、18:00~21:00
月曜休
東京メトロ千川駅からすぐ

■ご意見・情報はメールで(info@r-tsushin.com)

(料理通信)

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