HOME 〉

PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

78歳。「気持ち穏やかに作れば、お酒もおいしくなる」

生涯現役|高知・三原村「土佐三原どぶろく」齋藤鈴代

2025.03.18

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


齋藤鈴代(さいとう・すずよ)
御歳78歳 1946年(昭和21年)9月2日生まれ

高知県宿毛市生まれ。農家を営む夫とともに、家畜飼育に始まり、30年にわたってタバコを栽培。農家の傍ら、「農家食堂 青空屋」を営み、夫婦の名前の漢字を組み合わせたどぶろく「元代」(げんだい)を製造販売(現在は販売終了)。2016年、村のどぶろく生産者が集って合同会社を設立。一緒に働く女性いわく、「鈴代さんは普段は穏やかやけど、言わないかんことはピシッと言うてくれて、頼りがいのある人」。子どもは3人。現在は夫と二人暮らし。

(写真)アルコール度数を計るために、酒を蒸留中の齋藤鈴代さん。合同会社では、齋藤さんを含めて7人の女性が働く。「それぞれの銘柄を好きでおってくれるお客さんから、合同で1つの銘柄を作ることに対して反対の声もあったけど、続けるためには合同でつくることが必要やった」と齋藤さん。16年に会社を立ち上げて以来、各生産者の商品も共同で販売する体制になり、外商にも力を入れてきた。


米の栽培と酒作り、
そして食堂の経営をこなす日々

どぶろくを作り始めて20年以上経つけど、一樽作るごとに、まだまだ「1年生」。同じ日に仕込んでも、樽ごとに微妙に味が違うし、発酵を調整するのは難しいがよ。発酵には温度管理が特に大事やけど、低すぎても発酵が進まずアルコール度数が下がるし、高すぎてもだめ。本当に微妙な塩梅がものを言うけん、何回作っても、毎回一から始める気持ちながよ。やけん、どぶろく作りは、今もまだ勉強中。

一つ言えるのは、気持ち穏やかに、笑顔で楽しみながら作るのが大事ということ。落ち込んだ時に作ったどぶろくは、不思議とおいしくならん。「おいしくな〜れ」と言いながら、穏やかで楽しい気持ちで作ると、それがお酒にも伝染しておいしくなる。機嫌ようおるのが一番大事かもしれんね。

ここ三原村は、国の構造改革特区「どぶろく特区※」の認定を2005年に受けて、21年目を迎えた場所。一昨年に、生産者でつくる合同会社の新工場が稼働して、それまでそれぞれが手がけてきたどぶろく生産を一元化して、一緒にやることになってね。合同会社が立ち上がったのは16年。

それまでは各農家でどぶろくを作りよったんやけど、衛生管理の基準が厳しくなって、個人の家で基準を満たす設備を整えるのが難しくなった。このままではせっかく村で続いてきたどぶろく文化を維持できん言うことで、村内5軒のどぶろく農家が立ち上がって、合同でつくることになったがよ。

「どぶろく特区」でどぶろくの製造をするためには、2つの条件がある。1つ目が自分で育てた米でつくること、2つ目が、作り手が農家民宿か農家食堂を営んでいること。やけん、うちも含めて5軒みんな農家で、どぶろく作りと並行して民宿か食堂をやりよう。

うちは元々、家畜の飼育に始まって、タバコの栽培も30年やってきた。どぶろく作りを始めたのは、ここ(三原村)の水が良くて、おいしいお米が作れるけん。お米の付加価値をつけようと、三原村をどぶろく特区にと言う動きがあって、私は夫と「せっかくやけん挑戦してみようか」と立候補したがやけど、私らあ1軒しか「やる」言う人がおらんかったけん、周りに声かけて、こうしてみんなで一緒に作れるようになった。1軒だけで作りよったら、今みたいなことにはなってないね。

朝は6時半に起きて、朝ごはん。今は夫と二人暮らしやけん、そんなに量はいらん。三原のおいしいご飯に卵、味噌汁、漬物が定番やね。会社に行くのは時期によっても変わるけど、だいたい週3〜4日。朝9時に出社して、仕込みをしたり、ボトル詰めをしたり、その日に応じて作業が変わる。15時には仕事を終えて、夕方には家の畑仕事。家で作りようけん、野菜とお米はほとんど買うことないね。今も農家食堂をやりようけん、予約が入ったら、とれたて野菜で日替わり定食を作ったり、会社が休みの日には、村の直売所に手作り弁当を出したりしよう。

みんなで一緒にどぶろくを作るようになって、若い人の輪に溶け込ませてもらって続けられるのがありがたい。おかげで自分も若い気持ちで頑張れるけんね。家で一人で籠もって作りよったら、こんなに元気ではおれんかもしれんけん。

これからも一生懸命頑張って、みなさんにおいしく飲んでもらえるどぶろくを作りたいと思いようよ。

※どぶろく特区とは、日本各地で小規模な酒造り(特にどぶろくの製造)を可能にする規制緩和措置が適用された地域のこと。通常、日本では清酒(どぶろくを含む)の製造には年間6,000リットル以上の生産が必要だが、特区に指定されると小規模生産(6,000リットル未満)でも免許を取得できる。

土佐三原村合同会社のどぶろく。どぶろくは、お酒、米麹、水を発酵させ、もろみをこさずに作るお酒だ。仕込みは、年間を通じて行われる。「保存の期間によっても味が変わる。まだ味が若いと思ったら、少し寝かせて。1〜2年寝かせて、古酒になったどぶろくも、また違った味わいが楽しめます」

「みんなに愛されて可愛がってもらえるように」と、どぶろくは辛口の「あのこ」、甘口の「このこ」、三原村産の原料のみを使った「土佐三原どぶろく・旨口プレミアム」の3種類を展開。年に一度の限定販売「ダム貯蔵プレミアムどぶろく」(近くにある村の湖水ダムで貯蔵したどぶろく)も人気。

毎日続けているもの「どぶろく

◎土佐三原どぶろく
高知県幡多郡三原村宮ノ川1207-1
☎088-046-2681  9:00~15:00
土曜、日曜、祝日休
三原バス「船ヶ峠」停留所より徒歩5分

■ご意見・情報はメールで(info@r-tsushin.com)

(料理通信)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。