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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

87歳。「市で田んぼも三反買えたし、息子と娘に家も建てられた」

生涯現役|甲藤百合子

Jan 16, 2023

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


甲藤百合子(こうふじ・ゆりこ)
御歳87歳 1932年(昭和7年)8月10日生まれ

高知生まれ。19歳で結婚し、夫の実家である農家に嫁ぐ。農作物を農協などに卸して生計を立てる中、台風を機に、35歳から高知・土佐の街路市に出店するように。以来、青果物を中心に販売する店を一人で切り盛り。趣味は洋裁。お酒は一切飲まない。

(写真)お手製の帽子をかぶって、日曜市の店先に座る甲藤百合子さん。「トマトはこっちの方が甘い」「ニンニクは小さい方が身が詰まっておいしいで」など、選び方や食べ方も、さりげなく教えてくれる。こうしたやり取りも、街路市ならではの楽しさだ。

家におるより、店におる方がずっとえい。

このフルーツトマト、甘くて味が濃くて、おいしいでぇ。ハウス栽培やきちょっと高いけんど、それだけのことはある。私は売れ残りの露地栽培のトマトを食べることが多いけんど、トマトだけは毎日欠かさず食べゆう。リコピン豊富で、お薬と思うて食べてます。耳も目も不調知らずで、いまだに老眼鏡いらずなのは、トマトのおかげかもしれん。毎日食べても飽きません。

高知市の街路市に出るようになって、もうかれこれ50年。火曜市、木曜市、金曜市、日曜市と、週4日、高知市の街路市に出て、季節の青果物を売りゆう。年間通して売りゆうのは、トマトやね。ハウス栽培で一年中おいしいトマトが手に入るき、市場で仕入れては店に並べてます。

市に出るようになったきっかけ? それが台風ながよ。嫁いだ先が農家で、私も畑仕事を教わって手伝いよったがやけど、50年前に大きな台風が来て、ハウスが吹っ飛んだ。ハウスと一緒に私も吹き飛ばされて死ぬかと思うたぐらい、ものすごい台風やってね。幸い夫婦ともに命は無事で、夫はそれからも百姓を続けて、私は家計の足しに、夫が畑で育てたものを中心に、青果物を売るようになりました。

その頃は、まだスーパーもない時分で、とにかくよく売れた。おかげで田んぼも三反買えたし、息子と娘に家も建てられた。25年前に夫が亡くなってからは、市場で仕入れた青果物を売ってます。商売に助けられて、ここまで来られました。

市がある日は、朝4時起き。季節によって多少変わるけど、夜明け前に設営して、大体5〜6時には店を出します。2年前に脳梗塞を患うまでは、設営も運搬も全部一人でやりよったがやけど、病気を機に、近くに住みゆう息子が手伝ってくれるようになってね。

今は息子が市場に仕入れに行って、9時頃に仕入れたものを並べます。私は朝から夕方4時頃まで店番。朝食は、前の日の残り物を詰めて持ってきて食べる。昼は、息子が仕入れのついでにスーパーで買ってきてくれたものを食べることが多いね。夕方に店を閉めたら、まだ開いちゅう店へ行って野菜を買うて帰ります。市には、旬の野菜がどっさり出るきね。夕方、息子が迎えに来てくれて、家に帰るのは5時ぐらい。へとへと? そんなことないで。帰っても、わりかし元気に動きゆう。市の前日は、だいたい煮物とかおひたしとか作っちょくき、そんなもんとか刺身で晩御飯。近くに住みゆう息子と一緒に食べて、夜は9時ばあに寝ます。

市は楽しいでぇ。顔なじみのみんなに会えるし、お客さんと話もできる。脳梗塞で入院しちょった時も、店が気になって、はよう戻りとうてね。それまで病気一つしたことがなくて、市も皆勤賞やったがよ。退院した翌朝に、市に復帰した時は、みんなに声かけてもろうて嬉しかったねぇ。家におるより、店におる方がずっとえい。

けんど、同世代は減ったし、昔と比べたら店もお客も減ったね。後を継いでくれる人がおるところは続くけんど。うちも息子が継いでくれそうやき良かった。外に出れるうちは、私もまだまだ店におりたいと思うてます。

季節の青果物の中で、年中店先に並ぶのがトマト。高糖度のフルーツトマトは、高知発祥。手作りのポップも目を引く。300年以上の歴史を持つ日曜市は、全長約1キロにわたり、近隣の農家を中心に約400店が軒を並べる。


毎日続けているもの 「トマト」


◎日曜市
高知県高知市追手筋
年始(1月1、2日)とよさこい祭り期間(8月10~12日)を除く、毎週日曜開催。
4~9月 5:00~17:00、10~3月 5:30~16:00

※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2020年4月号掲載)

※年齢等は取材時・掲載時点のものです。

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