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PEOPLE / 生産者・伴走者

実というより、環境そのものを育てる感覚です

オリーブ&オリーブ油生産農家 山本勝重

Dec 26, 2022

text by Reiko Kakimoto / photographs by Daisuke Nakajima
じわりと広がる 国産オリーブ栽培の波

国産オリーブというと、多くの人は香川・小豆島を思い浮かべるだろう。実際「平成25年特産果樹生産動態等調査」を見ると、同年に生産された国産オリーブは261・3トン、うち252・3トンが香川県産だ。しかし、大分(3トン)、熊本(2トン)など、全国にオリーブ栽培の波がじわりと広がっているのも、また事実だ。

山本勝重さんもその一人。静岡・牧之原という場所で、無農薬のオリーブ栽培に取り組んでいる。またお茶どころである強みを生かして、オリーブの葉でお茶も作る。ポリフェノールを多く含み、ノンカフェインの緑茶は、爽やかで飲み心地もいい。ただ葉を乾燥させるのではなく、蒸して揉むという煎茶加工、碾茶(てんちゃ)加工して挽く抹茶加工をすること、緑茶の旨味や飲みやすさを実現しているのが特徴だ。さらに、本業のガーベラ栽培・販売の販路を生かし、2016年からはオリーブの枝葉を生花市場に卸している。ウエディングなどのパーティ会場でのフラワーアレンジメントに多く使われるほか、無農薬ということもありレストランの皿を飾るアクセントとしても利用される。

オリーブ茶は、煎茶と抹茶、ほうじ茶の3種類を展開。清涼感のある飲み口で、後口にほのかに心地よい青い香りを残す。ブラインドで出されたら緑茶の一種と思ってしまうだろう。近隣の「COSMOS COFFEE」などでも販売している


新漬けオリーブの味に魅せられて

山本さんは、温度と湿度、二酸化炭素量などがコントロールされたハウスでガーベラを栽培し、生花市場に卸している。オリーブ栽培・加工は週3回のガーベラ出荷と花の栽培の傍らで、一人で始めた事業だ。

小さい頃から植物に関心が強かった。高校卒業後イギリスに語学留学。語学学校の教師の知人がガーデニングの先生という縁があり、山本さんは再び造園への興味を膨らませる。ところが、イギリスでも名門といわれる造園学校への入学直前で、学生ビザを取得できずに失意の帰国。日本の園芸専門学校を経て、園芸の世界での仕事を始める。ある展示会で、国産オリーブ栽培研究の第一人者である園芸研究家が小豆島産オリーブの自家製新漬けを持ってきて、食べさせてくれた。この味が、山本さんの心に鮮烈な印象を残した。「国内でオリーブが育つのだということに驚きました。食べてみると、とてもジューシーでおいしくて、忘れられない味でした」。結婚して婿入りし、就農。土に近い生活の中で、あの時のオリーブ塩漬けの味が思い出されて「自家用に作ってみたい」と思うように。それが今の事業に広がった。

土地の味を表現したい

牧之原は、お茶の産地でもある。山本家も茶畑を貸していたが、近年は茶栽培も下火で、栽培をやめる人も少なくない。休耕地の活用という意味合いもあり、オリーブを植樹した。とはいえ、土地に合うオリーブ品種の見当がつかない。小豆島などを視察する手探りの日々が続いた。慣行栽培でスタートし、段階的に減農薬にと思っていたが、園芸専門学校の先輩でもあるボタニカルクリエイターの井上隆太郎さん(『料理通信』2017年1月号で紹介)から「こだわったオリーブを作りたいのなら、今からオーガニックに切り替えては」と勧められ、13年に無農薬栽培に切り替えた。

「土の中の微生物量を測ってもらったら、多様性があるという嬉しいお墨付きをもらいました。今はオリーブを育てているというよりも、土にいる多様な微生物を育てているような気持ちでいるんです」

無農薬で育てたオリーブの実だから、加工も自然に。その思いから、通常は苛性ソーダを使ってアク抜きをするところ、山本さんは梅干しと同様に乳酸発酵させることでアクを抜いている。「加工も試行錯誤です。でもオリーブ油が発売され、お客さんが買ってくれたり、バーテンダーの方なども畑まで来てくださったりと、年々期待が上がっているのを感じます。きちんとご期待に応えたい、と身の引き締まる思いがしています」

オリーブの剪定などで使うハサミなど。皮のケースは山本さん自身の手作り。ステッチの正確さに職人気質が見える。

神奈川・藤沢のオリーブオイル専門店、「フレッシュオリーブ」から中古の搾油機を譲り受け、2年前から搾油も自身で行うように。

現在は3カ所・約2反半の圃場で7品種のオリーブを育てる。ガーベラ栽培で得た知識や経験を総動員してオリーブ栽培に挑む。「光・水・二酸化炭素のバランスなど、植物生理の知識は汎用性があります。周囲の柑橘栽培農家さんからのアドバイスも活きています」

国産らしさを大事にすると、国際的に評価されるオリーブ油の味わいとは、ずれていくことも承知している。「国産のオイルは、イタリア産などに比べ味わいが淡い、水分を多く感じるとは言われます。でも僕は、味の良し悪しの基準を外国のもの差しで測る必要を感じていない。ここ牧之原でオリーブを健康に育てて、この土地ならではの味が表現したい。どう成長していくか、その伸び代も楽しみに見ていただけたら」

2016年は完熟オリーブのメープルシロップ漬けにも挑戦し、顧客のバーテンダーたちからの評価も上々だ。柔軟な思考を持てば、土地を表現する手段はこんなに豊かにある。山本さんの挑戦は教えてくれる。


左から、生花市場に卸しているオリーブ若木の枝葉、オリーブ塩漬け、オリーブオイル。塩漬けはカリッとした食感の残った梅干しのよう。乳酸発酵の旨味も感じられる。2021年度から開封後でもオリーブオイルの酸化を防ぐ真空ボトルにリニューアル。より長い期間風味のよいオイルを楽しめるパッケージに。


◎山本勝重オリーブ農園
https://www.facebook.com/shizuokaolive/
☎090-8306-9158

山本勝重さんは、2021年から無農薬でジャスミンの花の栽培も始めています。モクセイ科のマツリカを、夕方に蕾の状態で収穫。フレッシュな香りが最も高くなる夜の開花の瞬間に茶葉に香りを移した、気品のある香りのジャスミン茶も限定数で販売しています。ご興味ある方は、山本勝重オリーブ農園までお問合せください(2022年12月追記)

(雑誌『料理通信』2017年3月号掲載)

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