イワシを丸ごと塩漬け「アンチョビー」 魚醤もできる!
【DIYレシピ】東京・神泉「オルランド」小串貴昌さん
2023.06.05
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photographs by Tsunenori Yamashita
連載:DIYレシピ
塩蔵、乾燥、発酵・・・調理メソッド&テクニックを身に着けて、普段買っている食べ物を一から作ってみると、自分で味を作る喜びや安心感を得られます。天日に干したり、発酵させたり、自然の力にゆだねるレシピは、人間本位ではない生き方を学ぶ処方箋。シンプルな材料と道具で作れる自家製アイテムをシェフに教わります。今回はイタリア料理に大活躍するアンチョビーを。新鮮なイワシが手に入ったら挑戦したくなるレシピです。
教わるテクニック:塩漬け、発酵
教えてくれたシェフ:東京・神泉「オルランド」小串貴昌さん
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1977年神奈川県生まれ。代官山「ラ・フォルナーチェ」(現在は閉店)を皮切りに、経営者として数々の繁盛店を立ち上げる。2014年「Orlando(オルランド)」オーナーシェフに。21年9月に永福町にイタリアのパンと焼き菓子の店「PANIFICIO VIVIANI(パニフィーチョ ヴィヴィアーニ)」をオープン。著書に『おいしいの秘密 オルランドの家で作れるイタリア料理』(KADOKAWA)がある。
頭と内臓も一緒に漬けて深みのある旨味に
アンチョビーの仕込みには大量の塩を使います。こだわりたい人もいるかもしれませんが、僕の経験では安価な食塩などでも十分おいしく作れます。
ただし、イワシはヒシコイワシ(カタクチイワシ、背黒イワシ)で作るほうがおいしい。メザシになるウルメイワシやふつうの真イワシだと、思った味になりませんでした。これも経験済みです。
ヒシコイワシは劣化が早いので、小売りされることは稀。僕は三浦半島の佐島に仕入れに行く時、漁師さんにお願いして分けてもらいます。時間が経つと腹が割れたり、エラの周囲が赤くなるので、店に戻ったらすぐ仕込みに入ります。今回は内臓付きなので、待ったなしです。
いちばん時間がかかるのは、ウロコをとる作業。身がやわらかいので、1本1本、流水に当てながら、やさしく指の腹でウロコをとっていきます。ボウルにザルを重ねておいて、洗ったイワシはどんどんここへ。全部洗い終わるころには水気もほどよく切れています。
これを塩と交互に重ねます。夏は発酵の進みが速いので半年、冬は8カ月くらい。冷蔵庫に入れると発酵が遅くなるので、常温か夏場は涼しい場所に。味を見て好みの熟成感で上げます。だんだん塩がこなれてきて、深みが増して行くのがわかると思います。内臓と頭、骨から身を外してオイルに漬けて保存します。同時に魚醤も完成。1度に2つの自家製が作れるのも、いいですよね。
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料理の展開例:アンチョビーと2種のチーズのクロスティーニ・・・手前のモッツァレッラは冷たいまま、奥のスカモルツァチーズは温かいクロスティーニ。アンチョビーの塩気がミルキーなチーズの味わいを引き立てる。
◆展開例:アンチョビバター、パスタ、サラダ、料理の隠し味やトッピングに。
自家製アンチョビーの極意
1 身がやわらかいのでウロコは指でやさしく落とす。
2 塩とイワシを交互に重ねるだけ。難しく考えない。
3 発酵を促すため、保存は常温か夏場は涼しいところで。
[材料]
ヒシコイワシ・・・5kg
塩・・・2.5kg
(保存用)オリーブ油とヒマワリ油・・・各適量
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<材料のポイント>
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塩は溶けにくいものを
時間をかけて熟成させていくため、溶けにくい塩を使う。小串さんはパスタを茹でる際に使う大粒の塩を使用。食塩も溶けにくいので適している。
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ヒシコイワシは鮮度が命
ヒシコイワシは小さいため傷むスピードが速い。1日経つと腹が割れたり、エラの周辺が赤くなってくる。内臓付きのままで作るので、特に鮮度は命。
[作り方]
[1]ウロコをとる
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ヒシコイワシを流水に当てながら、指の腹でウロコを取る。ザルに上げて水気を切る。
[2]塩に漬ける
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深さのある密閉容器を用意し、底を塩で覆う。
[3]イワシを並べる
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なるべく重ならないようイワシを並べる。
[4]塩は重すぎない程度に
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イワシの姿がうっすら見える程度の塩で覆う。塩が重すぎると内臓が潰れるので、このくらいでよい。
[5]最後はしっかり塩で覆う
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塩とイワシを交互に重ねていき、最後はイワシの姿が見えなくなるようたっぷりの塩で覆う。
[6]翌日には水が上がる
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蓋をして常温で6~8カ月保存する。翌日には水が上がってくる。写真は漬けて10日後。
[7]漬けて1カ月後
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1カ月経過すると、水が茶色くなる。気温が高い夏は発酵が早く進む。
[8]身を外す
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6~8カ月後、イワシを引き上げて水気をペーパーで拭く。エラをつまみ、頭と内臓を抜いて、骨から身を外す。
[9]外した身
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頭、内臓、骨を取り除いた状態。
[10]オイルの中で保存
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保存容器に詰め、1:1のオリーブ油とヒマワリ油を注いで蓋をする。冷蔵庫で保存する。
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◆仕込み時間:1時間◆食べ頃:半年~◆保存方法:塩漬け中は室温、オイル漬け後は冷蔵庫
<アンチョビー 展開例>
サラダやソース、料理の隠し味など、応用範囲の広い食材です。さまざまなレシピに活用して好みの味にアレンジして。
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カリフラワーの温製サラダ・・・カリフラワー、オリーブ、ドライトマトがごろっと入った温菜。アンチョビーはドレッシングと仕上げのトッピングのダブル使いで、風味豊かな味わいに。
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根菜のロースト・・・アンチョビーとバターの風味が、素材の味を引き立てる。じっくりとローストすることで根菜の持つ甘味が凝縮される。
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◎Orlando
東京都目黒区青葉台3-1−15
☎03-5568-0222
18:00~24:00
日曜休
各線渋谷駅より徒歩15分
https://www.orlando.tokyo/
※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
(雑誌『料理通信』2015年7月号掲載)
海洋資源を保護し、持続的に利用する
今日からできる気候変動へのアクション
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国連広報センターが「SDGメディア・コンパクト」に加盟する日本のメディア有志とともに、気候変動対策のアクションを呼び掛けるキャンペーン「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を実施しています。料理通信はこのキャンペーンに参加し、食にかかわる気候変動への取り組みを国内外から紹介しています。
海洋生態系による「ブルーカーボン」が温室効果ガス排出対策として期待されています。海の資源を守り、大切に使うことは気候変動対策につながることから、6月は、海洋保全について考え、アクションを起こすきっかけになる記事をお届けします。
●ActNow! 今すぐできる『10の行動』
「ActNow」は、個人レベルでの気候アクションをグローバルに呼びかける国連のキャンペーン。どんなことが気候変動の抑制に役立つのか、身近な行動を10項目挙げています。「環境に配慮した製品を選ぶ」では地産地消が、「廃棄食品を減らす」では食品を廃棄せず使い切ることが気候変動の防止に役立つとされています。
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環境に配慮した製品を選ぶ
私たちが購入するあらゆるものが地球に影響を及ぼします。あなたには、どのような商品やサービスを支持するかを選択する力があります。自身が環境に及ぼす影響を軽減するために、地元の食品や旬の食材を購入し、責任を持って資源を使ったり、温室効果ガス排出や廃棄物の削減に力を入れていたりしている企業の製品を選びましょう。
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廃棄食品を減らす
食料を廃棄すると、食料の生産、加工、梱包、輸送のために使った資源やエネルギーも無駄になります。また、埋め立て地で食品が腐敗すると、強力な温室効果ガスの一種であるメタンガスが発生します。購入した食品は使い切り、食べ残しはすべて堆肥にしましょう。
(国連・ActNowキャンペーン:気候変動の抑制に対して個人でできる『10の行動』より)
イラスト:Niccolo Canova
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