6種のスパイスの香りが力強く押し寄せる「スパイスチーズケーキ」
レスキューレシピ【スパイス編】
2023.11.02
text by Rieko Seto/ photographs by Hide Urabe
連載:レスキューレシピ
日本の食品ロス量は年間570万トン*と言われています。生鮮食品を無駄にしないだけでなく、保存性の高い調味料や乾物なども、おいしく食べきる活用方法を知ることで捨てる量を減らせます。今回は、使い切れないことも多い〈スパイス〉に注目し、スパイス使いが上手なシェフたちから料理やスイーツでの活用術を教わります。
*農林水産省「日本の食品ロスの状況(令和元年度)」
目次
教えてくれた人:東京・渋谷「チリムーロ」店主・竹下千里さん
2013年オープン。スパイスやハーブ、洋酒を使った焼き菓子を提供する。現在は2人で切り盛りしており、週5日ペースで店を開ける。今後は通信販売も検討中。スパイスを使った焼き菓子は焼成後、寝かせるとさらに味わい深くなる。
大人が虜になる自由で大胆なスパイス使い
20代前半の頃からお菓子作りが好きで、「いつかお菓子屋さんを開きたい」という夢を叶えた、「チリムーロ」オーナーの竹下千里さん。2013年に東京・久が原から渋谷へと移転し、焼き菓子専門店としてコンセプトに掲げたのは「大人の焼き菓子屋」だ。
「他とは違うお菓子を作りたくて、思い浮かんだのがスパイスやハーブ、お酒を効かせた大人向けの焼き菓子でした」と語る竹下さん。「学校でお菓子作りを学んだわけではないし、パティシエのように凝ったお菓子は作れないので、個性的な味とバリエーションで勝負しようと」
店に並ぶブラウニーやマフィン、チーズケーキ、パウンドケーキ、クッキーに使用するスパイスは、全部で15種類ほど。通常は料理に使われるようなスパイスも、積極的にお菓子に使う。なかにはニゲラやフェヌグリークといった珍しいものも。
「まずは、スパイスの本で勉強しながらレシピを作ります。それから試作して、実際に食べながら量を調節したり、組み合わせを変えたりしていくんです。スパイスをしっかり感じてもらいたいけれど、入れすぎると風味がきつくておいしくなくなってしまうので、量の調整が一番難しいですね」と、竹下さんは話す。
風味が柔らかくて親しみやすいスパイスは、シナモンやキャラウェイ、アニス。個性や刺激が強いのは、フェンネルやニゲラ、フェヌグリーク、ジンジャー。その中間はカルダモンやコリアンダーといった具合に、竹下さんは自分なりに風味を段階に分けてスパイスを把握。その上で量や組み合わせを変えて、食べやすい初級者向けから尖った上級者向けまで、幅のある味を生み出していく。
時にコリアンダーブラウニーのように単一のスパイス使いでストレートに風味を打ち出し、時にスパイスチーズケーキのように、複数ブレンドして独自の味わいを主張。いずれもスパイスによって生まれる香りの奥行きと、キレのよさが印象的だ。
「スパイスの魅力は、クセになること。好き嫌いは分かれますが、ハマる人はハマってしょっちゅう買いに来てくれて、それでいいと思っています」と、竹下さん。そのままシンプルに味わうのももちろんよし、お酒と一緒におつまみやデザートとして粋に楽しむもよし。自由で大胆なスパイス使いによってもたらされる想像を超えた味わいが、大人たちをワクワクさせ、虜にしている。
「スパイスチーズケーキ」材料と作り方
[材料](直径18cm、高さ6cmの円型・1台分)
ビスケット(市販)・・・100g
溶かしバター・・・50g
クリームチーズ・・・260g
グラニュー糖(微粒)・・・110g
サワークリーム・・・200g
全卵(L玉)・・・3個
コーンスターチ・・・大さじ2
生クリーム(乳脂肪分35%)・・・210g
A
シナモンパウダー・・・大さじ2
ジンジャーパウダー・・・大さじ1
キャラウェイパウダー・・・大さじ1強
クローブパウダー・・・小さじ1
アニスパウダー・・・大さじ1
オールスパイスパウダー・・・大さじ1/2
【スパイス使いのポイント】
クローブのように単体で使うと個性が強すぎて難しいスパイスも、他のスパイスと合わせて使うことで食べやすい味わいになる。すべてパウダーで混ぜ合わせて、オリジナリティのある複合的な味わいを生み出す。
[作り方]
[1]型を準備する
バター(分量外)を型の内側に手で塗り、オーブンペーパーを敷く。
[2]土台を作る
ビスケットをミルで粗めに砕き、溶かしバターを加えてゴムベラで混ぜ合わせる。1に入れ、スプーンで押さえて、平らに敷き詰める。冷蔵庫で冷やす。
[3]クリームチーズと砂糖を混ぜる
クリームチーズを電子レンジで軟らかくし、ボウルに入れる。ホイッパーでとろりと滑らかなクリーム状になるまで混ぜたのち、グラニュー糖を加えてすり混ぜる。
[4]サワークリームを加える
室温に戻した軟らかめのサワークリームを2回に分けて加え、そのつどよく混ぜて馴染ませる。
[5]卵を加える
全卵を1つずつ割り入れて、そのつど空気を入れないようによくすり混ぜる。
[6]コーンスターチを加える
コーンスターチを加え、粉けがなくなるまですり混ぜる。
[7]生クリームを加える
冷たい生クリームを半量ずつ加え、そのつど混ぜる。
[8]スパイスを加える
Aを加えて、均一な状態になるまでホイッパーでよく混ぜる。
[9]焼く
2の土台に8を流し入れ、手で持ってトントンと軽く台に数回落とし、平らにならす。天板にのせ、185℃のガスコンベクションオーブンで約30分焼き、145℃に落としてさらに約30分焼く。
[10]冷まして休ませる
室温で冷まし、型からはずして冷蔵庫で一晩休ませる。オーブンペーパーをはがし、火で温めた包丁で8等分に切り分ける。
「チリムーロ」の店舗情報
◎チリムーロ
東京都渋谷区猿楽町1-3
☎ 090-3443-9202
不定休
(営業日、営業時間はFacebookで要確認)
各線渋谷駅より徒歩10分
Instagramアカウント:@chirimulo
(雑誌『料理通信』2019年8月号掲載)
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