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SDGs

キャンプができれば。

―災害時の食と栄養― 2

2022.08.09

text by Kyoko Kita

連載:災害時の食と栄養



2020年8月から2021年8月にかけて全5回でお届けしたシリーズ「その時、どう生きるか。―災害時の食と栄養―」を再掲載します。災害時の状況や、日々の暮らしの中で実践できる備えについて、“食”を切り口にお伝えします。

2020年8月、『料理通信』読者に行った防災に関するアンケートでは、災害時にアウトドアのスキルやグッズを役立てようとする声が多く挙がりました。炭や薪で火を起こせること、屋外で煮炊きする手立てを複数持つこと、アウトドアで培われる技術や体力は、そのまま災害時に生き抜く力に繋がります。


空前のキャンプブーム到来

家キャン、庭キャン、グランピング・・・。
自粛期間中、家の中や庭、あるいはベランダでキャンプ気分を楽しむ人が増え、その様子が数多くSNSに投稿された。「GWの頃からBBQグリルの売り上げが伸び始め、コンパクトにしまえるイスやテーブルはリモートワークにも使い勝手が良いと好評でした」とアウトドア用品メーカー「コールマンジャパン」のマーケティング本部長 根本昌幸さん。「人気YouTuberやキャンプ漫画の影響で、“ソロキャンプ”という言葉も定着し、一人用のテントや調理器具などもよく売れています」。

巣ごもりしながらアウトドア。この一見矛盾するような消費の動きは、自由を制限された息苦しい生活の中で、風や日差しに癒しを求め、非日常の空気を取り入れたいという欲求の表れだろう。2020年7月以降は、実際に近場でキャンプに出掛ける人も増え、今やバブル終焉と前後して訪れた第1次ブームを凌ぐ勢いで、空前のキャンプブームを迎えている。

YouTuberヒロシさん。一人黙々とテントを張り、火をおこし料理をする動画は都市生活者に自然回帰を呼び覚ますきっかけとして人気に。登録者は94万人(2020年8月時点)。書籍『ヒロシのソロキャンプ』(学研プラス)も刊行。

実はこの波は数年前から続いているという。「この10年ほど、インターネットやSNSの普及で情報が氾濫する一方、リアルな体験やフェイストゥフェイスの人間関係が希薄になっています。その反動として、自然の中で仲間や家族と過ごす時間を求める人が増えているのだと思います。エコな暮らしや環境問題への関心も高まっていますよね。近年は、手ぶらBBQやインスタ映えも狙えるグランピングなど、初心者がアウトドア体験をしやすい選択肢が増えてきたことも背景にあると思います」。

しかし大きな転換点は、やはり東日本大震災だったという。「震災の後、キャンプ用品が災害時に役立つという情報が発信され、アウトドアショップに足を運ぶ人が増えました。いざ電気やガスが止まっても煮炊きができるよう備えておこうという意識からグッズを揃え、キャンプを始めた人も多いのではないでしょうか」。

防災に関する意識アンケートより。6割以上の方が「重要だと思うが最低限のことしかできていない・全くできていない」と回答。

アンケートでは、コロナ禍をきっかけに、「キャンプ道具をそろえた」という声も。


アウトドア=避難生活の予行演習

アウトドア用品は、実際の災害現場でも活用されている。「コールマン」は1995年の阪神淡路大震災以来、大規模な災害が起きると、平時から連携を取っているボランティア団体の要請に応える形で、被災地に支援物資として自社の製品を提供してきた。「避難所の床は硬くて冷たいところも多いので、マットや寝袋のリクエストが多いです。電池式LEDライトも夜間、トイレに行く時などに役立つと喜ばれています」。
16年の熊本地震の際は、特別に許可が下りて、スポーツ公園のグラウンドにたくさんのテントが張られ仮設避難所になった。

熊本地震の被災地には、コールマンから支援物資としてテントやランタン、寝袋など多くのキャンプ用品が届けられた。

「最低限のキャンプ用品を家庭で揃えておくと、避難所に行かなくても、駐車場や庭先などで数日間凌ぐことができます。特に幼い子供やペットがいる家庭は避難所で過ごすことが難しい場合もある。テント泊なら、コロナが続いている状況下で感染のリスクも抑えられますよね。避難所に身を寄せる時も、ワンバーナーのガスコンロ一つあればお湯が沸かせて、温かいお茶を飲むことができる。それだけで全く気分は違うはずです」

携帯に便利な小型のアウトランダーマイクロストーブ。電気やガスが止まっても温かい食事がとれる。

コールマンの電池式の携帯LEDランタンは熊本地震の際、やわらかな光が心の支えになったと、多くの声が寄せられた。卓上型や吊るすタイプなど様々。

キャンプ用の調理器具などは軽量でコンパクトに収納できるよう設計されているものが多い。避難グッズと共に一式揃えておくと、配布された食べ物の温め直しなどにも役立つだろう。
大切なのは、備蓄しておくだけでなく、使い慣れておくことだという。「年に1〜2回使うだけでも、いざという時、慌てずに済み、避難生活の予行演習にもなります。テントで寝た経験がある子供は、避難所でも怖がらずに夜を過ごせるという話を聞いたこともあります」。


「何とかできる」と、自信をつける

コールマンは、災害発生時の援助のみならず、岩手県陸前高田市の仮設住宅でのBBQパーティや、原発被災地域の子供たちを対象にしたキャンプ体験など、1年後、2年後の被災者の心のケアにも力を入れてきた。「一度被災者の方たちと交流を持つと、支援を続けたい、彼らの成長や再生を見届けたいという思いが湧いてくるんです」。

家族、仲間、自然と触れ合うことで生まれる心の繋がりを大切にしてきたコールマン。「普段、ゲームばかりしている子も、友達を作るのが苦手な子も、キャンプに参加するとすぐに打ち解けて遊び出す。自然の中で五感をフルに使い、集団活動を体験することは、子供の成長にとても良い影響を及ぼすと思います」

自然体験を提供する「未来を照らそうプロジェクト」では、普段手伝いをしない子供も野外では料理にも積極的に挑戦する。

もちろん子供だけでなく、ストレスを抱えた大人にとっても、アウトドアで過ごす時間は心と体が解放されて癒しとなる。火をおこして、ご飯を炊く。そんな体験は、万が一被災した時も「何とかなる」「何とかできる」という心の余裕にも繋がる。コロナが期せずしてもたらした家キャンブブームは、災害の頻発する今の日本において、必然の産物だったのかもしれない。日常とレジャーと災害時をゆるやかに繋ぐツール、アウトドアグッズを活用しない手はない。

取材協力 : コールマン ジャパン株式会社
https://www.coleman.co.jp/

(料理通信社は「SDGメディアコンパクト」加盟メディアとして、食の領域と深く関わるSDGs達成に繋がる事業を目指し、メディア活動を行っています)

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