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SDGs

サバイバルレシピ10 岩手・盛岡【ウコギのほろほろ】

食べられる生け垣 ウコギは「絶品のご飯泥棒」

2022.06.30

text by Tamaki Akasaka / photographs by Atsuko Kimura

⾷糧難、災害時をどう乗り越える?

人口爆発による食糧難や自然災害で、これまで当たり前にあった食物が手に入らなくなったとき、求められるのは限られた資源でサバイブする「生きる力」です。日本各地に残る保存食、発酵食、郷土食に、自然の恵みを無駄なく食べつなぐためのサバイバル・テクニックを探ります。今回は盛岡っ子が待ちわびる春の味、「うこぎのほろほろ」を紹介します。

目次






鋭いトゲで防犯に、若芽が食用になる「ウコギ」

ウコギとは、高さが2~3メートルの落葉低木のこと。この若芽を茹でて刻み、同じく刻んだヤマグルミと味噌漬け大根を混ぜ合わせたものが、岩手県盛岡市に伝わる料理「ウコギのほろほろ」だ。ふりかけのようにご飯にかけて食べるのだが、ウコギのほろ苦さと味噌漬け大根のしょっぱさ、クルミの甘さと旨味が渾然一体となり、「ついご飯を食べ過ぎてしまう・・・」という盛岡っ子は少なくない。

本州一の森林面積を誇る岩手では、ヤマグルミは比較的手に入りやすく、自家製あるいは市販の味噌に漬け込んだ大根もポピュラーな漬け物。つまり身近な食材を組み合わせた料理なのだが、いつ頃、どのような形で誕生したかは定かでない。唯一伝わっているのが名前の由来で、箸でつまんだ時にほろほろとこぼれ落ちることから名付けられたといわれる。

細かく刻んだウコギ、ヤマグルミ、味噌漬け大根。盛岡の「ほろほろ好き」は、刻む苦労を厭わない。


ウコギは葉の付け根に鋭いトゲがあることから、かつては防犯用に生け垣として植えられていた。家主は春になるとその若芽を摘み、「ほろほろ」にして食べていたらしい。

実は山形県でも、似たような話が伝わっている。江戸時代、名君として知られる米沢藩第9代藩主・上杉鷹山は、飢饉の際の救荒食品としてウコギに着目し、「防犯を兼ねた生け垣としても有用」と栽培を奨励。以来同県でも、さまざまなウコギ料理が伝わっている。山形県同様、盛岡も気候が冷涼で冬が長いから、もしかすると最初は生け垣としてではなく、救荒食品として栽培されていたのかもしれない。

ウコギはポリフェノールや食物繊維、カルシウム、ビタミンCなど栄養価が高い。クルミもナッツ類で、オメガ3など、健康維持に必要な成分が豊富に含まれる。昔の人は非常時に備えて、ウコギのような救荒植物を活用して生き抜く術を身に着けていたとも考えられる。

現代の盛岡では、住宅事情の変化によりウコギの生け垣を見かけることは少なくなった。その代わり、若芽が出てくる4月中旬になると、ビニールハウスで栽培されたものがスーパーや青果店、産直などに登場し、時には、クルミと味噌漬け大根が添えられた「ほろほろセット」まで並ぶ。市民にとって、待ちに待った春の味なのだ。

産直などでは、ウコギとその隣にクルミと味噌漬け大根を一緒に陳列して販売している。

ウコギの木(写真上)と若芽(写真下)。葉の付け根にトゲがあるので、若芽を摘むときには要注意。


特別な手入れは不要。栽培しやすさも魅力

そんな「ウコギのほろほろ」を愛してやまない盛岡市民のひとりが、グラフィックデザイナーの小笠原一志さんだ。昭和42年に市内の中心街で生まれた小笠原さんは、子どもの頃から祖母や母親が作る「ウコギのほろほろ」が大好物で、学生時代にはご飯に混ぜ込んだおにぎりを弁当に持って行ったほど。「私が育った地域ではウコギを『オグギ』と呼んでいましたが、今ではもう通じないですね。当時の家には庭がなかったので、祖母や母親は、野菜の行商の女性からオグギを買っていました」

「ウコギのほろほろ」が大好きで、実家にも自宅にもウコギの木を植えた小笠原一志さん。「ほろほろ」をニョッキやパスタと和え、ワインのつまみとして楽しむことも。

その後実家が郊外に引っ越しすると、社会人になった小笠原さんはウコギの苗を入手して庭に植樹。料理好きの小笠原さんは、そこから若芽を摘んで自分で「ほろほろ」を作るようになり、さらに3年前からは数本を自宅の庭に移植した。ウコギは土も場所も選ばないようで、「特別な手入れをしなくても育った」と小笠原さん。その点も、上杉鷹山が栽培を奨励した理由かもしれない。

ウコギの若芽を採取できる時期は1カ月ほどで、ほろほろも同じ期間しか食べられない。それだけに、小笠原さんは毎年若芽がつくのを楽しみにしているそうだ。


ウコギの若芽を使った「ウコギのほろほろ」の作り方

「ウコギのほろほろ」は家庭料理なので、ウコギ、ヤマグルミ、味噌漬け大根の配合や刻み方は、家庭によって違う。小笠原家の「ほろほろ」は、ウコギとヤマグルミを1対1の割合で混ぜたもの。味噌漬け大根は商品によって塩加減が異なるので、味をみながら量を調整するという。また、刻み方もかなり細かい。「そのほうが香りが良く、それぞれの味が調和しておいしい」と話す小笠原さんに、作り方を教えてもらった。

味噌漬け大根によって全体の味が変わる。子どもの頃、小笠原家では母方の祖母の手作り品を使っていたが、祖母が亡くなってからはその味に近い市販品を探し、使っているそうだ。

1.ウコギを茹でる
ウコギからハカマを取り除き、沸騰した湯でさっと茹でる。明るい緑色に変わったら、湯から引き上げる。

2.水分を絞って刻む
茹でたウコギは水にとらずにザルの上で自然に冷まし、水分をしっかり絞って細かく刻む。

3.ヤマグルミと味噌漬け大根を刻む
ヤマグルミは殻を割って実を出し、細かく刻む。味噌漬け大根は、スライスしてキッチンペーパーで水気を取ってから細かく刻む。


4.すべてをボウルに入れる
ボウルにウコギとヤマグルミを入れて混ぜ合わせ、味をみながら味噌漬け大根を加える。

5.全体を混ぜる
全体を混ぜ合わせたら完成

本来は保存食品ではないのだが、一年中食べたい小笠原さんは瓶に詰めて冷凍保存しているとか。ただ、ウコギの色や香りはやや落ちるという。

ウコギ、ヤマグルミ、味噌漬け大根のどれかひとつが欠けても成立しないおいしさ。生み出した先人に感謝して味わいたい。


赤坂環(あかさか・たまき)
岩手県出身・在住のフリーライター・エディター。東京の出版社勤務を経て帰郷。雑誌や企業パンフレット、自治体広報紙などの取材・企画立案・編集を行うほか、有限責任事業組合「まちの編集室」のメンバーとして雑誌「てくり」なども発行。

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