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Journal / ilGolosario





パオロ・マッソブリオのイタリア20州旨いもの案内

vol.7 カラブリア州 コゼンツァ産ドッタート種の干しイチジク

text by Paolo Massobrio
translation by Motoko Iwasaki

極上の干しイチジクを求め、
イタリア半島のつま先へ




コゼンツァ(Cosenza)産ドッタート種のイチジク(ヨーロッパでは保護原産地呼称DOPに認定されている)について知識を深めたければ、クラーティ(Crati)川が流れる渓谷におりてみるとよい。
夏の間吹き続ける風と、容赦なく照り返す陽の光が体にしみて、長期の保存にも耐えうるよう果実がしっかりと干し上がる環境を実感できる。

だが、もっと大切なのはイタリアという長靴型の半島のつま先にあって、数世紀に渡り文明の大きな交差点であった「カラブリア」の大地にどっぷりと浸ることだ。

「イチジクの歴史は、それは古いものですよ」
この類まれな果物の保護に心血を惜しまないコゼンツァ干しイチジク生産組合の会長、アンジェロ・ローザ教授が言う。
「カンニッツェ(cannizze)」と呼ばれる桑の枝を編んだ乾燥棚に並べられたイチジクは、4、5日かけてカラブリアの大地を焦がす8月の太陽に晒される。
子供の頃からそれを眺めながら暮らした教授は、自分の体にはイチジクの血が流れていると言い切った。



この果実がどうやってイタリアにもたらされたかは明らかでない。
おそらくは数千年前、フェニキア人かギリシア人の船の底に転がっていたのだろう。
とにかく選ばれし土地、カラブリアの乾いた風が流れる海岸を背に、イチジクは船から転がり落ちたのだった。
こうしてこのコゼンツァで、土着品種が成長する。
それが世界最高品質と言われるドッタート種だ。

面白いことに、イチジクの木は異なる時期に、異なる特徴を持った実をつける。
最初に生るのは6月中旬から7月中旬に熟す「フィオローニ(fioroni)」で、果肉は紫色、生食に適している。
2度目に生るのは8月から9月に収穫される「フォルニーティ(forniti)」。こちらは皮が薄く、果肉は白っぽく、痩果(そうか)という粒々した種子が細かく舌に残らない。
これがより良質とされ、干しイチジクへの加工にも適している。

ヨーロッパの人々の心を奪った
カラブリアの手仕事

ローザ教授が語る。
「1700年代に入ってヨーロッパの中産階級の若者たちの間では、芸術美を求めてイタリアを巡るグラントゥールという旅がもてはやされていました。彼らの時代、すでにイタリアは憧れの国でしたから」
中でもカラブリアのクラーティ渓谷にたどり着いた文人の多くは、太古の製造方法もそのままに手仕事で乾燥させたイチジクに心を奪われた。



「ドッタート(Dottato)」という名前は、ギリシア語の「optao(乾燥した、または焼き窯に入れたの意)」から派生したと考えられる。
実は木に生っている状態で萎びさせてから収穫。水平に敷かれた石の上に広げ、藁や干し草で平らに覆う、あるいは葦で編んだ網の上で陽に晒した。
大きなイチジクは半分に割られ、中くらいから小ぶりなものは丸のまま干した。
その後よく洗い、乾燥用の窯に短時間入れる(今日でもカラブリアに行けばこの窯を見られる所がある)。
窯から取り出してまだ熱いうちに、ローリエやその他の保存用スパイス(コショウ、タイム、ローズマリーなど自然の抗生物質)と交互に素焼きの小さな壺に詰め、プレスされていた。




1800年代に入るとドッタート種のイチジクは、レッジョ(Reggio)やラメツィア(Lamezia)の港から海の向こうに渡っていった。
ヴェネツィアに届いたものは、陸路オーストリア=ハンガリー帝国の各地域に届けられ、そしてついに権力の頂点、輝けるウィーンの洋菓子工房にもたらされた。
舵を別方向に切って地中海を超え、マルセイユに陸揚げされたものは、パリで洋菓子の世界に革命を起こしていた当時のヴィル・ルミエールにも届けられた。

そんな華やかな世界を飾ったイチジクだが、いつの世も本来は農民文化の豊かな産物だった。
「農家ではみんなクリスマスに向けてイチジクを干したものです。また仕事に出かける前に誰しもポケットにイチジクを押し込んで一杯にしていました。干しイチジクは小作人の給金の代わりに使われていた時期もあります」と、教授は続ける。
そう言われて、この干しイチジクは信じられないくらいのカロリーを含んでいることを思い出した。

1900年代初頭、一般の農家ではイチジクを箱に入れたり、縄編みにして保存していたが、パスクワーレ・ガッリターノやニコーラ・コーラボルペといった知恵に富む人物が、最初のイチジク加工工房を開いた。また新鮮なイチジクを窯で焼き、同じイチジクの葉に包むことも考え出した。
  「これはパッローニ(palloni)と呼ばれています。家庭での保存方法としては手軽でしたし、葉に包むことで見た目にもとても美しく、人に贈っても喜ばれました」と、教授。

手仕事の衰退、そして
復活後の情熱

ところが、人々は厳しい生活から逃げ、より良い暮らしを求めてイタリア北部や他のヨーロッパ地域にある工場に働きに出るようになり、地方の過疎化という困難が訪れる。
生産量が激減し、ドッタート種のイチジクは、1990年代後半に消滅の危機に瀕した。
そのため生産農家らが一つになり、組合組織を作ってEUへ認定と保護の申請をした。

ここにすばらしい一貫生産のプロジェクトが生まれ、わずか数年で生産量を以前のレベルにまで回復することができた。
それが出来たのは、長い歳月で培った知識と加工技術を人々が忘れていなかったからだ。現在でも今の時期になると、クラーティ渓谷に行けば、数千年前と同じ手作業が繰り返されているのを目にすることができる。




イチジクは、7月末から8月上旬に熟すが、9月のはじめまで枝に残される。色は緑から黄色に、そしてベージュを帯びてくるまで木になったまま萎れさせる。
花梗についた実が萎びて下がり、さらに枝にぶら下がった格好になる(現地の方言で「パッスルーニ(passuluni))と呼ばれる)。
この状態に達する頃には目方も減り収穫するにも、次の段階となる乾燥作業に入るにも作業が楽になる。


イチジクは、風通しが良く果実に含まれる水分も抜けやすい網棚に広げられ、その熟し具合によって3~7日間ほど天日干しにされる。
この期間、夜間の湿気から守るため覆いをしたハウスで、毎日少なくとも2度は裏返しにされる。


夏の最も暑い時期に乾燥させたドッタート種のイチジクは、クリスマスの食卓に彩を添える。
糖分が高く高カロリーのイチジクは、そのまま食べてもいいが、詰め物をしたもの、オーブンで焼いたもの、前述のパッローニ、サラミ風、トレッチャと呼ばれる縄編み状にしたもの、ハチミツ状のイチジクなど、カラブリアの伝統的な手法で加工したものを口にするのもまた楽しい。



「ガッリターノ(Garritano1908)」より

最後に私のガイドブック『イル・ゴロザリオ』から、ドッタート種のイチジクで芸術的な加工品をつくる生産者を紹介しよう。

■ベルモンテ・カラブロ地区の「コーラヴォルペ(Colavolpe)」
この店はイチジクとチョコレートを組み合わせたものを中心にあらゆる加工品を生産している。
たとえば、フィヨッキ・ディ・ネーヴ&フィオローニ(Fiocchi di Neve e i Fioroni)は、ホワイトチョコやダークチョコレートで干しイチジクをコーティング。
クロチェッテ(Crocette)は、アーモンド、クルミ、柑橘類の皮などを挟んだイチジクを正十字の形に並べてオーブンで焼いたもの。
ミルト風味のコロンチーネ(Coroncine al mirto)は、ミルトの枝に干しイチジクを首飾りのように刺したもの。

■モンタルト・ウッフーゴ地区の「ガッリターノ(Garritano1908)」
1908年から天日干しと、高温殺菌処理だけで干しイチジクの保存性を高めることにこだわる工房で、今日ではカルメリーナという女性店主が店を切り盛りしているが、4代目の若いアンジェラも意欲的に生産に取り組み、干しイチジクの生産企業としての将来が特に明るい。
伝統的なイチジク加工品に加え、ガッリターノでは、オレンジ風味のサラミを考案。僕もロンゴバルディ地区にあるレストラン「デグステリア・マニャートゥム(Degusteria Magnatum)」でデザートワインのモスカート・パッシート・ディ・サラチェーナ(Moscato passito di Saracena)と合わせて楽しんだ。



■アイエッロ・カラブロ地区の「アロイズィオ(Pasticceria Aloisio)」
ダークチョコレート、細かく刻んだイチジクに、干しブドウ、クルミ、松の実で作ったパンドルチェ、イチジクの葉で包みラフィアの紐で結んだパッローニを生産。

■アマンテア地区の「フラテッリ・マラーノ(Fratelli Marano)」
1930年からイチジクの加工を手掛け、イチジクのペーストをベースに、その他のリキュールも用いてボンボンやプラリネを生産している。

■カッサーノ・アッロ・イヨニオ地区の「ランゴ(Rango Bonta di Calabria)」
オーガニック栽培のイチジクをオーブンで焼き、繊細な口当たりのホワイト・チョコでコーティングしたボッコンチーニ・ホワイト(Bocconcini White)を考案。



パオロ・マッソブリオ Paolo Massobrio

イタリアで30年に渡り農業経済、食分野のジャーナリストとして活躍。イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「ワイナリー」「オリーブオイル」「レストラン」を州別にまとめたベストセラーガイドブック『Il Golosario(イル・ゴロザリオ)』を1994年出版(2002年より毎年更新)。全国に50支部6000人の会員をもつ美食クラブ「クラブ・パピヨン」の設立者でもある。
http://www.ilgolosario.it





shop data:ドッタート種のイチジクとその加工品を買える店
Colavolpe
Piazzale Stazione
87033 Belmonte Calabro (CS)
Tel 0982 47017
info@colavolpe.com
www.colavolpe.com

Garritano1908
C.da Pianette snc.
87046 Montalto Uffugo (CS)
Tel 0984 939154
info@millenovecentotto.it
www.garritano1908.com

Pasticceria Aloisio
Via San Francesco, 9
87031 Aiello Calabro (CS)
Tel& Fax 0982 43014

Fratelli Marano
Via Garibaldi, 9/11
87032 Amantea (CS)
Tel 0982 41277
info@fichimarano.it
www.fichimarano.it

Rango Bonta di Calabria
Vico IV Francesco Bruno, 4
87011 Cassano Allo Jonio (CS)
Tel 0981 71524
info@rango.it
www.rango.it

Shop Data:ドッタート種の干しイチジクを楽しめるレストラン
Degusteria Magnatum
Via Indipendenza, 56
87030 Longobardi (CS)
Tel 0982 75201





『イル・ゴロザリオ』とは?

photograph by Masahiro Goda


イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「オリーブオイル」「ワイナリー」を州別にまとめたガイドブック。1994年に創刊し、2002年からは毎年更新。全965ページに及ぶ2016年版では、第1部でイタリアの伝統食材の生産者1500軒を、サラミ/チーズ/肉/魚/青果/パン及び製粉/パスタ/米/ビネガー/瓶詰め加工品/ジャム/ハチミツ/菓子/チョコレート/コーヒーロースター/クラフトビール/リキュールの各カテゴリーに分類して記載。第2部では、1部で紹介した食材等を扱う食料品店を4300軒以上、第3部はオリーブオイル生産者約700軒、第4部ではワイン生産者約2700軒を掲載している。
数年前にはレストランのベスト・セレクション部門もあったが、現在では数が2000軒以上に達したため、単独で『il GattiMassobrio(イル・ガッティマッソブリオ)』という一冊のレストラン・ガイドとして発行するようになった。



(『Il Golosario』はパオロ・マッソブリオの作った造語ですが、この言葉はイタリア人なら一見して意味を理解し、口元に笑みを浮かべる人も多いでしょう。『Goloso』という食いしん坊とか食道楽の意味の言葉と、『dizionario(辞書)』、『glossario (用語集)』など言葉や情報を集めて一覧にしたもの示す語尾『−ario』を結んだものです。食いしん坊の為においしいものをそこらじゅうから集めてきたという少しユーモラスな雰囲気の伝わる言葉です。)







The Cuisine Pressの出発点である雑誌『料理通信』は、2006年に「Eating with creativity ~創造的に作り、創造的に食べる」をキャッチフレーズに誕生しました。
単に「おいしい、まずい」ではなく、「おいしさ」の向こうにあるもの。
料理人や生産者の仕事やクリエイティビティに光をあてることで、料理もワインもお菓子も、もっと深く味わえることを知ってほしいと8人でスタートした雑誌です。

この10年間、国内外の様々なシェフや生産者を取材する中で、私たちはイタリアの食の豊かさを実感するようになりました。
本当の豊かさとは、自分たちの足下にある食材や、それをおいしく食べる知恵、技術、文化を尊び、受け継いでいくこと。
そんな志を同じくする『イル・ゴロザリオ』と『料理通信』のコラボレーションの第一歩として、月1回の記事交換をそれぞれのWEBメディア、ilgolosario.itと、TheCuisinePressでスタートすることになりました。

南北に長く、海に囲まれた狭い国土で、小規模生産者や料理人が志あるものづくりをしている。
イタリアと日本の共通点を見出しながら、食の多様性を発信していくことで、一人ひとりが自分の足下にある豊かさに気づけたら、という願いを込めてお届けします。











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