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Journal / ilGolosario





パオロ・マッソブリオのイタリア20州旨いもの案内

vol.28 フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州コッリオ地域のワイン

text by Paolo Massobrio
translation by Motoko Iwasaki

歴史によって引かれた境界線にまたがるブドウ畑




ブドウ畑、野原、雑木林なんかに囲まれてぽっかり開けた空き地に古の巨大な石で作ったテーブルが3つ。セルジョ・ステヴァナート(Sergio Stevanato)がそこに置かせたものだ。
ワイナリー「テヌータ・ステッラ(Tenuta Stella)」のオーナーは友人が遊びに来ると、周囲の丘の背を散歩したあと、自分たちのワインを生み野外劇場さながらのブドウ畑を一望できるこの場所に連れて行くのが好きなのだ。



ここはフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州北東部ゴリツィア県、ドレーニャ・デル・コッリオ(Dolegna del Collio)スクリオ(Scriò)地区だ。そして、そこに広がっているブドウ畑の半分はイタリア領土、そしてもう半分は国境を越えてスロべニアの領土に広がっている。
第1次世界大戦では12カ所にも及ぶ戦場を生み、イタリア人、オーストリア人合わせて30万人もの死者を出した源流として知られるイゾンツォ(Isonzo)川の上流に位置する。歴史に残る激戦の舞台となり、イタリア軍に最も多くの犠牲者を出した戦場、現在はスロベニア領に含まれるカポレット(Caporetto)までも僕たちの視界の奥に映る。



今日の濃い緑と美しい森の煌めきは、あの惨劇を乗り越え、幸福を得ることが出来たことを実感させてくれる。だが、僕はこの地域のワインを口にする時、国境を挟んで点在する村々の歴史を考えずにいるのは難しい。

親愛なる日本の友人諸君にも、コッリオ地域と言えば、エレガントかつ繊細な中に強烈な個性を秘めた偉大なワインを多く輩出してきたから、ご存知の向きも多いだろう。それは地域性によるところが大きいのだ。
だが、いわゆる“テロワール“が意味するものとは違う。ここは、逞しく、個性豊かで誇り高い、そして妥協することを良しとしない人々の暮らしの場だ。この地域そのものが、逞しく個性豊かなのだから。



第1次世界大戦から100年。
今日この地域でワイン生産を続ける人々の祖父の代は、戦場で敵味方に分かれて銃口を向け合った。さらには第2次世界大戦が、戦後には旧ユーゴスラビアで共産主義が袂を分けた。
つまり彼らの間に横たわる境界線は、自然が生んだ地形が作ったのではなく、歴史によって引かれたものだ。
今では互いの関係も他と何ら変わらないように見えて、隣の人とは政治や宗教の違いによる絶対的な異なる思いを心に秘めて暮らす人がいてもおかしくはない。

だから、不条理な論争の末「トカイ」という名称が、ハンガリーのトカイワインのみに使用を認められ、フリウリのトカイを「Tokaj」と表記できなくなった時、これに替わる呼称として行政が「フリウラーノ(Friulano)」を選んだ時、スロベニア出身のワイン生産者たちはそれを好まず「Jacot(ヤーコット)」と用いるようになった。Tokajのスペルを逆読みだ。

遠くからやってきた男と女が守り伝える「この土地らしさ」



さて、ここで僕はテヌータ・ステッラの正に「フリウラーノ2015」を試飲したわけだ。デリケートにして魅惑的な香りが鼻腔に、そして味わいにも感じられる。この収穫年でも最も素晴らしい仕上がりのワインだ。

このワイナリーを切り盛りするのはエノロゴ(ワイン醸造アドバイザー)のアルベルト・ファッジャーニ(Alberto Faggiani )とエリカ・バルビエリ(Erika Barbieri)。仕事においても人生でも二人は良きパートナーだ。



夫、アルベルトはフリウリの出身で、1989年から2011年まで地域の大手ワインメーカー「イエルマン(Jermann)」のエノロゴとして、妻エリカはピエモンテの著名なエノロゴ、 ドナート・ラナーティ(Donato Lanati )の下でキャリアを積んでいた。テヌータ・ステッラでシャンパーニュ製法によるスプマンテ2種を造ろうと考えたのは彼女だ。



「リボッラ・ジャッラ・ブリュット(Ribolla Gialla Brut)」はピザに合わせると発狂したくなるくらい美味く、「タンニ・パ・ドゼ(Tanni Pas Dosè=ノン・ドザージュ )」はシャルドネ100%でシュール・リー(澱に触れさせたままの熟成)48カ月。香りはバナナやトロピカルフルーツを思わせ、シャルドネならではの特徴が克明に映し出されているのに驚く。シャルドネ100%のブリュットも数多く試してきたが、ここまでのものは稀だ!



地域と伝統への尊重を旗印に、畑作り、有機農法の導入、醸造所でのきめ細かな作業、これらに自らの経験と知識を費やし、新たな冒険に挑むことはアルベルトにとって長年の夢だった。
スプマンテを生産することも新たに手掛けてみたいシナリオの一つだった。
次にテイスティングしたリボッラ・ジャッラがエレガントで「バジリコの青さやミネラル感があるのに驚いた」と僕が言うと、アルベルトは「ポンカによるものです!」と答えた。ポンカとはポロポロともろいマール地層のことで、コッリオ地域の特徴だ。スロベニア人はこれを「割れる」という意味の「オポカ(Opoka)」と呼ぶ。



泥灰岩地層で、これからどんどん根を地に下ろさなければならない若木には厄介だが、一旦根を張ればその成果は他には及ぶべくもない。彼らの3つの異なる収穫年のマルヴァジアをテイスティングすればそれがわかる。フルーティーな香りを保ちつつ完璧な進化を遂げ、最後のほろ苦さは全くもって心地よい。

ワイナリー「テヌータ・ステッラ」は、セルジョ・ステヴァナートによって10年前に創設された。1943年、パドヴァ生まれ。糖尿病のためのインシュリン・アンプル生産でリーダー的企業「ステヴァナート・グループ」の会長を務める。



イタリアでは、ここ20年ほどでワイン界で第2の腕鳴らしをと考える企業人が増えた。そしてそのほとんどが、まずまずの成果を上げている。たいていは名の知られたエノロゴを高待遇で迎え入れ、自分好みのワインを造らせるのだが、一つ間違えば魂の抜け落ちたワインになりかねない。

一方このワイナリーではアルベルトとエリカが、二人の人生の大きな選択としてこのワイナリーを大切に思い、情熱をもって立ち上げから取り組んできた。それぞれの品種が持つ性質の純粋な表現、整然としたブドウの畝(うね)が作る景観、エレガンス、洗練性、そしてオリジナリティーを開花させようと懸命だ。



ステヴァナートは、窓際から笑顔でそれを見つめるに留まることにした。大好きなワインが造られる畑を目にして彼はまるで子供のように笑う。

最初に話を戻そうか、『Web料理通信』の友人諸君。
このコッリオという地域は人を虜にし、否応なく足元の土そのものに対して“奉仕“に就かせてしまう魔力が潜んでいる。
僕は、正にスロベニア系の誇り高き造り手たちを幾人も知っているし、彼らを紹介することだってできた。だが、このテヌータ・ステッラの人たちが心を込めて造る3万3千本のボトルは、僕のハートに語りかけてきて心を揺さぶる。
その土地に住む男も女たちもしっかりと伝統を受け継ぎ、次の世代に伝えていくことで文化は生き続ける。が、それは時として、遠くからやってきた男や女であることだって起こり得るのだよ。





パオロ・マッソブリオ Paolo Massobrio

イタリアで30年に渡り農業経済、食分野のジャーナリストとして活躍。イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「ワイナリー」「オリーブオイル」「レストラン」を州別にまとめたベストセラーガイドブック『Il Golosario(イル・ゴロザリオ)』を1994年出版(2002年より毎年更新)。全国に50支部6000人の会員をもつ美食クラブ「クラブ・パピヨン」の設立者でもある。
http://www.ilgolosario.it


[Winery Data]
テヌータ・ステッラ
Tenuta Stella Via Sdencina, 1
34070 Dolegna del Collio
(GO) Italy
www.tenutastellacollio.it
info@tenutastellacollio.it
Tel./Fax +39 0481 639895
Mobile +39 338 7875175
+39 3358486016







『イル・ゴロザリオ』とは?

photograph by Masahiro Goda


イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「オリーブオイル」「ワイナリー」を州別にまとめたガイドブック。1994年に創刊し、2002年からは毎年更新。全965ページに及ぶ2016年版では、第1部でイタリアの伝統食材の生産者1500軒を、サラミ/チーズ/肉/魚/青果/パン及び製粉/パスタ/米/ビネガー/瓶詰め加工品/ジャム/ハチミツ/菓子/チョコレート/コーヒーロースター/クラフトビール/リキュールの各カテゴリーに分類して記載。第2部では、1部で紹介した食材等を扱う食料品店を4300軒以上、第3部はオリーブオイル生産者約700軒、第4部ではワイン生産者約2700軒を掲載している。
数年前にはレストランのベスト・セレクション部門もあったが、現在では数が2000軒以上に達したため、単独で『il GattiMassobrio(イル・ガッティマッソブリオ)』という一冊のレストラン・ガイドとして発行するようになった。



(『Il Golosario』はパオロ・マッソブリオの作った造語ですが、この言葉はイタリア人なら一見して意味を理解し、口元に笑みを浮かべる人も多いでしょう。『Goloso』という食いしん坊とか食道楽の意味の言葉と、『dizionario(辞書)』、『glossario (用語集)』など言葉や情報を集めて一覧にしたもの示す語尾『−ario』を結んだものです。食いしん坊の為においしいものをそこらじゅうから集めてきたという少しユーモラスな雰囲気の伝わる言葉です。)







The Cuisine Pressの出発点である雑誌『料理通信』は、2006年に「Eating with creativity ~創造的に作り、創造的に食べる」をキャッチフレーズに誕生しました。
単に「おいしい、まずい」ではなく、「おいしさ」の向こうにあるもの。
料理人や生産者の仕事やクリエイティビティに光をあてることで、料理もワインもお菓子も、もっと深く味わえることを知ってほしいと8人でスタートした雑誌です。

この10年間、国内外の様々なシェフや生産者を取材する中で、私たちはイタリアの食の豊かさを実感するようになりました。
本当の豊かさとは、自分たちの足下にある食材や、それをおいしく食べる知恵、技術、文化を尊び、受け継いでいくこと。
そんな志を同じくする『イル・ゴロザリオ』と『料理通信』のコラボレーションの第一歩として、月1回の記事交換をそれぞれのWEBメディア、ilgolosario.itと、TheCuisinePressでスタートすることになりました。

南北に長く、海に囲まれた狭い国土で、小規模生産者や料理人が志あるものづくりをしている。
イタリアと日本の共通点を見出しながら、食の多様性を発信していくことで、一人ひとりが自分の足下にある豊かさに気づけたら、という願いを込めてお届けします。













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