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Journal / ilGolosario





パオロ・マッソブリオのイタリア20州旨いもの案内

vol.17 サルデーニャ州 パーネ・カラザウ

text by Paolo Massobrio
translation by Motoko Iwasaki

羊飼いの必需品、軽くて保存が効く薄焼きパン




サルデーニャの特産物の中で最も知られ、地元の人から愛されているものの一つは、疑いもなくパーネ・カラザウだろう。
まさにサルデーニャ島の味のベース!
硬質小麦のセモラート*1、水、イーストに塩を用い、2度窯で焼かれるうすーい円盤形のパンだ。
島の歴史を語る巨大な「ヌラーゲ*2」にもこのパンの痕跡が残っていることから、その発祥はかなり古く、青銅器時代とも言われている。



今では世界中で知られるこのパンは、サルデーニャ島の中部から北部にいる牧夫たちの暮らしの中から生まれた。
始終羊の群れを追って野外を移動する牧夫たちにとって、生地に水分を含まず、保存に適したありがたい食品で、焼き上がったパーネ・カラザウは、女たちの手で楔形に切り分けられ、男たちはそれを押し込んだ保存用のカバンをたすき掛けにし、家を後にするのが常だった。



という訳で、ここはサルデーニャのど真ん中、ヌオロ県(Nuoro)マルギネ(Marghine)地区。
山、丘に平野、乾いた空気に豊かな緑、絶え間なく移り変わる荒々しい大自然。
変化に富んだ地形環境に、まばらに集落が存在する。
そんな中の一つ、パライ山(Monte Palai)の裾野にある町ボロターナ(Bolotana)に降り立った。

愛する故郷で生きるため、パーネ・カラザウに賭けた兄妹




かつてこの地域では、どこの家でも当たり前のようにパーネ・カラザウが焼かれていたのが、今はこの習慣も影をひそめてしまった。
その灯を消したくないと、家族経営でこのパンを焼き続ける工房、その名も「アンティーキ・サポーリ(Antichi Sapori:昔の味の意)」を訪ねた。



母親の手を借りて工房を切り盛りするのは、エリア・ファッダ(Elia Fadda)と妹のマリア・ガブリエラ(Maria Gabriela)という若い兄妹。
彼らにとって、母が焼き、食べ続けてきたこのパンは一家の宝だった。
だからこれを製品として一般に販売しようと決意した。



「自分たちが“これなら出来る”と思えるものに賭けてみようと思ったんです……」マリア・ガブリエラが言う。
「生活の支えとなってくれるのはこれしか考えられないと。ここはもう働き口は多くはなく、若い人は皆よそに出て行ってしまった。でも、私たちはここに残りたいと思ったんです。だって、ここの美しさといったら、見てのとおり『素晴らしすぎる』くらいでしょ」



彼らがパーネ・カラザウ作りで最も気を遣うのは、素材選び。
セモラートは、地域にある3つの製粉所のものを用いるが、さらなるこだわりは、絶対的にサルデーニャ産であること。
自然発酵、1回焼いて膨らんだものを半分にするのも全て職人による手作業で、そして最後に「カラザウ」の語源となったトースト作業「サ・カラザドゥーラ(sa carasadura)」という2度目の焼きが行われる。



パックの重量は500グラムと1キロの2種類。ナイロン製の袋できっちり包装することで、賞味期限は最低でも6カ月を保証できる。
「製造作業は朝6時から午後4時まで。週4日焼いて、5日目は配達にあてます。1日に200から300キロ焼き上げます。もちろん、パーネ・グッティアウも焼きます。エキストラバージン・オリーブオイルと塩で味つけしたものです」

パーネ・カラザウは、そのままでも食べるが、ほんの少し水に浸すと、香ばしさを損なわずに軟らかくなる。
これがこのパンの起こす奇跡!
それを、地元産の素朴なペコリーノ・チーズに添えたり、皿に残ったイノシシ肉のラグーを惜しむことなく拭きとって口に入れるのに利用したり、スライスしたハムに合わせたりして用いる。
一方、子供たちは、ヌテッラを塗ったものに目がない。



パーネ・カラザウをラザーニャに用いれば、独特な一品になる。
普段作り慣れたラザーニャもパスタの代わりにパーネ・カラザウを、ベシャメル・ソースと豚にポルチーニを刻み込んだミートソースの間に敷く。懐かしい味わいなのに、とても軽い出来上がりに驚くだろう。

僕が彼らの工房を訪れたのは早朝で、そこに足を踏み入れるとオーブンから噴き出す熱気が出迎えてくれた。
パンの風味が鼻腔にまで広がり、一昔前に戻ったかに思えた。
その日、僕が味わったのは豆類のスープ。
そこに割り入れたパーネ・カラザウの香ばしさがたまらない。
このスープにはサルデーニャ島の野生ハーブの香りを添えようと、お伴にはサルデーニャ産の白ワイン、ヴェルメンティーノ(vermentino)を選んだ。
あっ、これまた最高!!!



パオロ・マッソブリオ Paolo Massobrio

イタリアで30年に渡り農業経済、食分野のジャーナリストとして活躍。イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「ワイナリー」「オリーブオイル」「レストラン」を州別にまとめたベストセラーガイドブック『Il Golosario(イル・ゴロザリオ)』を1994年出版(2002年より毎年更新)。全国に50支部6000人の会員をもつ美食クラブ「クラブ・パピヨン」の設立者でもある。
http://www.ilgolosario.it


訳注
*1 マリア・ガブリエラさんに「セモリナ」ではなく「セモラート」ですよと電話口で直されました。確かに原材料には「Semolato di grano duro(硬質小麦のセモラート)」と表記されています。「セモリナ」を製造する際、篩にかけ、網目に残った粗目の粒子が「セモラート」で、パーネ・カラザウにはこれを用いるそうです。
*2 ヌラーゲ文明は、サルデーニャで発祥し、特に青銅器時代(A.C. 1800年代)に発展した文明です。ヌラーゲと呼ばれる巨大な石造りの建造物は、天体観測に使用されたのではないかとされています。

shop data:サルデーニャ産パーネ・カラザウを買うなら
Antici Sapori di Fadda Elia
Zona Artigianale Bardosu,
08011 Bolotana (NU)
+39 0785 42491
http://www.antichisaporifadda.com/





『イル・ゴロザリオ』とは?

photograph by Masahiro Goda


イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「オリーブオイル」「ワイナリー」を州別にまとめたガイドブック。1994年に創刊し、2002年からは毎年更新。全965ページに及ぶ2016年版では、第1部でイタリアの伝統食材の生産者1500軒を、サラミ/チーズ/肉/魚/青果/パン及び製粉/パスタ/米/ビネガー/瓶詰め加工品/ジャム/ハチミツ/菓子/チョコレート/コーヒーロースター/クラフトビール/リキュールの各カテゴリーに分類して記載。第2部では、1部で紹介した食材等を扱う食料品店を4300軒以上、第3部はオリーブオイル生産者約700軒、第4部ではワイン生産者約2700軒を掲載している。
数年前にはレストランのベスト・セレクション部門もあったが、現在では数が2000軒以上に達したため、単独で『il GattiMassobrio(イル・ガッティマッソブリオ)』という一冊のレストラン・ガイドとして発行するようになった。



(『Il Golosario』はパオロ・マッソブリオの作った造語ですが、この言葉はイタリア人なら一見して意味を理解し、口元に笑みを浮かべる人も多いでしょう。『Goloso』という食いしん坊とか食道楽の意味の言葉と、『dizionario(辞書)』、『glossario (用語集)』など言葉や情報を集めて一覧にしたもの示す語尾『−ario』を結んだものです。食いしん坊の為においしいものをそこらじゅうから集めてきたという少しユーモラスな雰囲気の伝わる言葉です。)







The Cuisine Pressの出発点である雑誌『料理通信』は、2006年に「Eating with creativity ~創造的に作り、創造的に食べる」をキャッチフレーズに誕生しました。
単に「おいしい、まずい」ではなく、「おいしさ」の向こうにあるもの。
料理人や生産者の仕事やクリエイティビティに光をあてることで、料理もワインもお菓子も、もっと深く味わえることを知ってほしいと8人でスタートした雑誌です。

この10年間、国内外の様々なシェフや生産者を取材する中で、私たちはイタリアの食の豊かさを実感するようになりました。
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そんな志を同じくする『イル・ゴロザリオ』と『料理通信』のコラボレーションの第一歩として、月1回の記事交換をそれぞれのWEBメディア、ilgolosario.itと、TheCuisinePressでスタートすることになりました。

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