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“小さな食料政策” 進行中。
第5回 「暮しが仕事、仕事が暮し。食と職のエコ・システム。」

People / Life InnovatorMar. 4, 2019

photographs by Tomonori Hamada, “hinagata”

システムという魔物

「暮しが仕事、仕事が暮し。」

柳宗悦らと共に民藝運動に関わった陶芸家 河井寬次郎氏の言葉だ。

フードハブでは、中山間地の農業問題の解決に加え、いわゆる重労働・低賃金の飲食業界の新たな働き方についても、メンバーたちと一緒に模索しているつもりだ。

先日、旅先の遠野でお世話になった人がこんなことを言っていた。

東京で忙しく働き、暮らしていた頃は、自分自身のアイデンティティが、大きな「システム」のようなものによって定義され、自分ではない「自分」として生きることを強いられるのがイヤになってここにきた。

この「システム」とは何なのか。

最近、東京に出向くと駅で人にぶつかる。それも何度も。東京の駅で人はものすごいスピード動いている。改札で戸惑って立ち止まったものなら、後ろの人からの舌打ちは序の口で罵声を浴びせられる覚悟が必要だ。

イタリアから日本を訪れた知人が「システムが人々の皮膚の下にまで入り込み、人を制御し数十メートル先から改札を意識させ、ものすごいスピードで動くことを可能にしている。イタリアではそんなことはない」と話していた。その規模が駅の改札ならまだしも、巨大な社会システムが人を制御していると考えると恐ろしくなる。

フードハブを農業と食文化を地域内で循環させる「エコ・システム」などと言ってるが、それもまた人を無意識化させ制御し始めるのだろうか。



Black or White? Work or Life?
黒か白か? 仕事か暮らしか?



先日、*グッドデザイン賞関連で取材を受けた際に、こんな質問をうけた。

フードハブ・プロジェクトが進んでいったことによって、
人々の「働き方」はどのように変わっていったか?

「働き方」の視点で質問されたことがなかったので新鮮だった。

飲食業界は、ブラックになりがちだ。私たちも決してホワイト企業と胸を張って言えるレベルではない。グッドデザイン賞で経済産業大臣賞を受賞し、実際には人が辞めまくっていたらかなりシュールだ。

*フードハブは、「農業と食文化の地域内循環システム」として2018年Good Design Award 金賞を受賞している

「大切にしていることはふたつ。
一緒にまかないを食べること。学び続けられる環境をつくること。

3年前の設立当初は混沌としていたが、今は良い状態になってきている。
人が『社会的な時間』と『私的な時間』のふたつを持つとするならば、フードハブのメンバー達は、社会的な時間から自分が搾取されることなく、そのふたつの時間を融合させ始めているように感じる。

『ワーク』と『ライフ』に人格を分けてバランスを取るのではなく、ひとつのアイデンティティとして主体的にその両方を作り上げること。つまり、彼らは作られたシステムに一方的に制御されるのではなく、フードハブというシステムそのものを「意識と意志(consciousnes & will)」を持って動かし始めているんじゃないか。

飲食業界2年目の若手から10年以上のキャリアを持つベテランまで、それぞれのやり方でやっているのが興味深い。」

そう答えた。

会社というシステムは、経営者(雇用する側)と労働者(雇用される側)での対立的な構造が生まれやすい。教育の文脈だとさらに露骨で、教師(教える側)と生徒(教えられる側)となり、そのシステムをコントロールするのはいつも教える側だ。

実は、フードハブでもこの対立的な構造が浮き彫りになっていた。

先に書いた「社会的な時間」が、自分を搾取していると感じるとたとえそこに農業を次世代につなぐというような社会的な「大義」が存在したとしても、人はそこからストレスを感じるのだろう。

そんなメンバーの働き方に変化が起き始めたのは、月に一度全員で行う会議の運営方法を変えたことだった。

仕事と暮らしのエコシステム

フードハブは、農業・飲食・パン・食品・加工・食育・EC/総務などメンバーは総勢20名をこえ現場が多岐にわたるため、月イチくらいは集まろうと会議を設定し、何となくの流れで私が進行していた。売上報告をはじめ様々な情報を共有する場にしていたが、メンバーには不満があった。

「売上をいちいち共有する時間がもったいない。」
「無理やり話し合いをさせられるのがいやだ。」
「せっかくみんなで集まるので、もっと有意義な時間の使い方をしたい。」

今思えば、自我が強い生徒たちを教師が押さえつけ、無理矢理言うことを聞かせようとするホームルームのようだった。いろいろな経緯があり、あるとき「じゃあ、みんなでこの会議を運営してみたら?」と投げかけてみた。

この仕組みの変化による影響は非常に大きかった。

現在、会議は立候補した「委員」によって運営されている。委員はメンバーから気になることをヒアリングし、話し合って議題として上げる(前回の議題は「会社の経営状況について代表から聞きたい」だった)。結局、売上などの数字もみんなで確認したほうが良いとなったようで各部門が考察を加え報告。またなるべく全員が毎回発言するような仕組みもある。

これはプロジェクト型教育を実践している学校の「ミーティング」の運営方法を参考にしていて、この「委員」のなかに、元・小学校教員のメンバーがいるのがポイントだ。

彼女は、10年以上教員を続けるなかで現状の教育システムに疑問を持ち、個人で影響を与えるのは難しいと感じて教員を辞めた。その後、横浜から徳島に戻り、初期段階からフードハブに参画している。

彼女のエピソードで印象深かったものがある。

小学校で卒業文集を書くという課題があった。問題は、全員が同じように「書く」ところ。文章が得意な子もいれば、そうじゃない子もいる。表現の方法はもっと多様なはず。6年間取り組んできたことを、表現したい方法で発表できるようにすれば良い。歌いたければ、歌えばいいし、踊りたければ、踊ればいい。もちろん、文章を書きたければ、書けばいい。

乱暴に言いかえると、これは「システムよって統制された教育」ではなく、「個の人格を尊重し、主体性を持って多様性を重んじ世の中と関わって行くこれからの教育」の話じゃないだろうか。彼女は、人のイキイキとした「目」を見ていたいんだと思う。逆に、あるシステムよって人の創造性が抑制され「よどんだ目」を見ているのが耐えられないんだと思う。

手に持っているレモンをパスされた人が次に発言する

今の時代における会社組織においても同じだと思う。

会社というシステムそのものが「人を無意識化して動かす」ためのものではなく、「人が意識と意志をもって有機的にものごとを動かすことを支援する仕組み」として機能することはできないのか。

これは地域のエコシステムとしてフードハブが町と関わる上でも大事な視点だと考えている。

競争と評価、デイブの苦悩

私たちが勝手に始めた「シェフ・イン・レジデンス」で、デイブ・グールドが神山に来て一年が経とうとしている。

彼は、本当に素晴らしい料理人だ。(いつも“F”ワードを言っている)

「居酒屋デイブ」と名を打ち、連日、食堂の庭のファイアーピット(自作)で汗だくになりながら鉄鍋で豆類を燻し煮込んでいる。その上に豚肉の塊や丸鶏を吊るし時間をかけて火入れしている姿はもはやフードハブの日常の風景だ。

一見シンプルなデイブの料理を食べた町内外のお客さんから「手間を感じる味」とはこういうことか、という声を幾度となく聞いた。



以前にも書いたが、彼は NY ブルックリンのイタリアン・レストラン『Roman’s』のシェフを立ち上げから約8年間務めている。その多くの時間とクリエイティビティの全てを店に捧げ、激しい「競争」を勝ち抜いてきた。

NY では「競争」と「評価」のために料理をしていたと彼は言う。

たくさんの人が新しいものや流行りを追いかけ店を訪れては去っていく。そんな人たちに向けて、自分自身のクリエイティビティの全てを捧げ消耗しつくした。端的に表現するなら、彼は、NYのレストラン業界の巨大なシステムに制御され「社会的な時間」からその全てを搾取されつくしたということじゃないだろうか。

NYに自分のレストランを持つことは、またシステムの一部になり過去の自分をまたつくり出すことに過ぎないと感じ、その「魔物」から逃れ、何の目的を持たずに神山を訪れた。

詰まる所、この話は彼自身の問題だけではなく、これからの「暮らし」と「仕事」を考えるあらゆる人の「アイデンティティ」に大きく関わる話じゃないかと思う。



原宿 eatrip restuaruntat でのpop upイベントにて

一年が経ち、彼は今どう感じているのか。
フードハブのメンバーに宛てた「手紙」だという彼のエッセイの一部を紹介したい。

ニューヨークという、絶え間なくモノを消費し捨てている都市で、生み出し続けるという行為は、本当に心を荒ませていきます。少なくとも私自身をすり減らしました。だからここ(神山)へきて、小さな子が私の作った”ゆずのマスカルポーネアイス”を食べて表情が変わっていく様子を見られるのは、本当にスペシャルな瞬間です。弾力のあるイノシシ肉の鍋を友人たちと食べる、というのも同様に特別な体験でした。ビールはより冷たく、お茶はより温かく感じられます。

食事をしたり食べ物をシェアする機会はいつでも本当に素晴らしく、かけがえのないことです。そう感じるようになったのは、まさにここ神山でともに暮らし、働く人たちがそういう心を持った人たちだからに他なりません。当たり前のことなどなく、共に料理をしたり食べたりする時はいつでも「お祝い」しているようなのです。長い間、私は料理や食べるという行為を”評価”という観点だけで捉えてきました。ですが、今は”思いやり”と”感謝”とともにあるものとして捉えています。

地元 肉屋のお母さんに自慢の肉料理を差し入れしてご満悦のデイブ

才能ある料理人のデイブに、「社会的な時間」から搾取されることなく暮らしと仕事を融合させるバランスを見出してほしい。そして神山やフードハブが彼がいつでも帰ってこられる「居場所」になることを願う。そのサポートを“Chef in Residnece”という活動を通じて私たちができるのなら、これもまたフードハブという「システム」のひとつのあり方なのかもしれない。

デイブのエッセイ、是非とも全文をこちらから読んでいただきたい。





真鍋 太一(まなべ・たいち)
1977年生まれ。愛媛県出身。アメリカの大学でデザインを学び、日本の広告業界で8年働く。その後、アメリカで就職するが、挫折して帰国。空間デザイン&イベント会社JTQを経て、WEB制作の株式会社モノサスに籍を置きつつ、グーグルやウェルカムのマーケティングに関わる。2014年、徳島県神山町に移住。モノサスのプロデュース部 部長とフードハブ・プロジェクトの支配人を兼務。
http://foodhub.co.jp/











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