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PEOPLE / 寄稿者連載

あるものを探す年にしましょう

目黒浩敬さん連載「アルフィオーレの農場日記」第10回

2017.01.31

Any ? Have?

「今年はあるものを探す年にしよう」
そう、ふと思いました。
神のお告げがあったかどうかはさておき、自然とそう思ったので、それを2017年最初の目標として、忘れないうちに覚書しておきます。

みなさんは、「あるもの探し」って、何を想像されますか?
そもそも、あるもの探しの「ある」とは、どっちですかね?
Any ? Have?
どちらも「ある」ですね(笑)。
私にとって、ここでいう「あるもの探し」の「ある」とはHaveのほうです。




連載:目黒浩敬さん連載



感じなければ、気付けない。


宮城県柴田郡川崎町に暮らして1年半が過ぎました。
地方に暮らして、地方から世界へ発信していこうと決めたのですが、日々の農作業や、リボーンアートフェスティバルの食のプロデュース、違う町や行政から依頼を受けた仕事などなど、たくさんの活動をさせていただいており、お恥ずかしながら、今暮らしている川崎町の一部にしか触れられていません。
町の文化のこと、産業のこと、風土のこと……。

地方に暮らしていると、自然と触れ合う中で、風や空の色、周りの風景から四季の移り変わりを感じてうれしくなったり、たくさんの気づきがそこにはあります。
ブドウの栽培カレンダーも、暦で判断するのではなくて、農園に行く途中の周りの木々の変化などから感じるようにしています。暦は毎年決まっていますが、日々の成長は、例年通りにはなりませんからね。

それは普段いつも目にしているものです。
それが、「ある」もの。
今まさにここに「ある」ものなのです。

そうしたところから、たくさんのヒントをもらえる。
しかし、それは、感じなければ気づけないことでもあります。

ブドウを例にお話ししましたが、あなたの身の回りの野菜や果物、豆腐などの食材や特産品にも言えます。
きっとそこには、たくさんの素敵なストーリーが詰まっているはずです。
ストーリーのないものなんてない。なぜって、そもそもすべては、人がつくっている、人の手でつくられているのですから。そして、それを食べたり、感じたりしているのも人なのですから。

見えてなかった世界が見えてくる。


移住して1年でそのすべてを感じたり、知ったりなんて到底できませんが、農作業をしている時に話しかけてきてくれる地域の人々との時間や、我が家にアポなしで訪れる役場の方々など、土地に根ざしてきた方々との会話は、とても大切な時間です。

おかげで、農園を訪れてくれる人が、道がわからなくて地元の方に尋ねると、「ああ、あのブドウ育ててる兄ちゃんのどこがぁ??? んじゃ、ついでぎてけろ」なんて、道案内してもらえる。うちに来る予定になっている人がなぜか近くの別の家から出てきて、「目黒さんちだと思って行ったら、違かったけど、コーヒーご馳走になってきました(笑)」なんて、笑顔で話してくれる。そんな様子を見ると、本当に温かい気持ちにさせられます。

自然に近い所で暮らしている人たちの心には、自然な優しさがたくさんある。
その心温まるストーリーを、モノづくりを通して伝えていくことも、私の大切な役目だと思っています。
そして、それは、私の周りが特別なわけではなく、皆さんの周りのどこにでもあるのです。

人はないモノを欲します。当然かもしれません。ないものねだりの欲がない人は少ないでしょう。ないものねだりが悪いわけではありません。人間は欲望から進化し、今を生きているのですから。
でも、ちょっとだけ時間ができたら、ないものを探すのではなくて、いまここに当たり前にあるもの、身近なことや場所や物について、少し立ち止まって考えてみたり、調べてみたり、感じてみてください。
きっとそこには今まで見えていなかった世界が広がっていると思います。
しかも、身近にあって感じられるから、とてもお得です。

目黒はいったどこにいるんだ? 何人いるんだ? なんて言われてしまいますが、ちゃんと川崎にいることのほうが多いんですよ。
みなさんに向けて書いているこの話を自分自身に言い聞かせながら、今年はさらに深く、「あるもの」を探す旅に出るとしましょう。

みなさんも一緒にいかがですか?

目黒浩敬(めぐろ・ひろたか)
1978年福島県生まれ。教師を目指して大学に入るが、アルバイトで料理に目覚め、飲食店などで調理の基本を身に付ける。2004年渡伊。05年、仙台市青葉区に「アルフィオーレ」を開店するも、いったん閉めて、2007年現在地に再オープン。自然志向を打ち出した創作イタリアンとして評価を得る。2014年から宮城県川崎町の耕作放棄地にぶどうを植樹。2015年、店を閉め、農場づくりに本格的に取り組み始める。 https://www.facebook.com/hirotaka.meguro



























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