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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

荒井康成さん(あらい・やすなり) 料理道具コンサルタント

第1話「料理道具選びの新しいステージへ」(全5話)

2016.05.01

高い理由、安い理由

とあるテレビ番組で、100円ショップで売られている器と、一枚数千円の器を比較し、どちらが高価なものかを当てるという企画がありました。
ありとあらゆる物が、100円ショップで買える時代です。
料理道具にしても然り。そんな企画が成立するくらい、見た目にはとても100円とは思えない商品もたくさんあります。
しかし、使ってみるとわかります。100円の理由も、それなりの値段がする理由も。
(もちろん中には、価格以上の品質を誇る、優れた100円商品があるのも事実です)。





photograph by Masahiro Goda




道具選びの水先案内人





しかし言い換えれば、使ってみないと品質の良し悪しはなかなかわかりません。
また料理道具は、基本的なものであるほど、一度買ってしまうと、不便を感じない限り、新たに買い換えない、買い足さないという人も多いはず。世の中に優れた道具があったとしても、その魅力を知らないまま過ごしてしまう人はたくさんいるでしょう。
あるいは、より良い道具を使いたいと感じていても、数多ある商品の中から、どれを選べばよいかわからないという人もいるかもしれません。

そんな人たちに手を差し伸べるのが、道具選びの水先案内人、荒井康成さん。
特定のメーカーやブランドに肩入れすることなく、公正な立場で、それぞれの道具の魅力を伝える仕事です。

2010年、「料理道具コンサルタント」として独立した荒井さんは、一冊の本を手掛けました。
『ずっと使いたい 世界の料理道具』(産業編集センター)。
エプロンからフードプロセッサー、鍋、エスプレッソマシンに、レシピを記録するためのノートまで。世界各国の料理にまつわる道具60品を紹介しています。
ただ「こんな商品があります」と並べただけの、カタログではありません。
メーカーの歴史や、その商品が作られるに至ったエピソード、歩んだ歴史、優れているポイント、正しい使い方や手入れの仕方……。
読んでいると、その道具が、単なる“道具”以上の存在に見えてくるから不思議です。
photograph by Yasunari Arai
出版社へ売り込む際に作った企画原稿。自分で写真を撮影し、原稿も用意。荒井さん自身が企画提案をし、本の出版に繫がった。




選択肢は豊富だけれど





なぜ“世界の”料理道具なのか。
そこには、荒井さん自身の半生も関係しているのですが(詳しくは第2話、第3話で紹介)、この半世紀における、我々の暮らしの変化に関連づけて、著書の冒頭でこう語っています。

「日本ほど世界中の料理道具が手に入る国もないでしょう。日本ではここ40年の間に海外のライフスタイルが一気に広がりましたが、その要因のひとつには、海外の料理道具が私たちの食生活にもたらした影響が少なからずあるように思えます。けれども、(中略)食文化の違いなどもあることから、実際に道具を上手に使いこなしているという人が、残念ながらあまり多くは見受けられないというのも事実です」

最低限、用途を満たす道具があればいい、という人がいる一方で、外国製の料理道具が増え、ファッション感覚で買い求める人も少なくない時代です。家飲み&家食べ需要の高まりと共に、毎年のように新しい料理道具のブームも更新されていきます。
しかし、その魅力を十分に理解していないがために、ブームが去るのと同時にお蔵入りしてしまう物もまた多いはずです。


道具の等身大の価値を伝えたい





選択肢が豊富にある今だからこそ、ただ流行にのっかるのではなく、値段だけを見て敬遠するのでもなく、その商品の等身大の価値を知ってほしい。
長く使い続けられてきた物には、それだけの理由があるから。

それぞれの道具の一番魅力的な表情を捉えた写真(すべて荒井さん自身が撮影!)と、クールな文面の端々から、荒井さんのそんな思いを感じます。
料理道具選びを新しいステージへと導く一冊、とも言えるかもしれません。

この本の出版を機に、荒井さんには各方面から仕事が舞い込みました。
食やライフスタイル雑誌の道具企画の監修や執筆、百貨店でのトークショーや実演販売、写真教室での講習、テレビショッピングのフードコーディネート等々。
「料理道具コンサルタント」という未知なる仕事は、今年(2013年)で4年目を迎えています。

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荒井康成(あらい・やすなり)
1968年東京都杉並区生まれ。幼少期より海外の生活雑貨に憧れて育つ。南海通商(株)に入社し、11年に渡りフランス耐熱陶器メーカー「エミール・アンリ」のブランドを日本で育てる。
2010年、料理道具コンサルタントとして独立、料理道具の本を出版。各媒体の料理道具特集記事での編集やコラム、イベントやセミナー、スクールでの講師を務める。



























































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