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RECIPE

【食のプロの台所】典型的な農家の間取り。

お米農家 山﨑瑞弥・宏

2025.06.09

text by Noriko Horikoshi / photographs by Tsunenori Yamashita

連載:食のプロの台所

台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。「お米農家やまざき」山﨑家にお邪魔し、生活と仕事をつなぎ、家族をつなぐ台所を拝見しました。


山﨑瑞弥・宏
埼玉、茨城の10カ所の農地で無農薬・減農薬栽培による米作りを営む。“お米農家やまざき”として、生産者とクリエイターをつなぐプロジェクトにも参画。企画展やワークショップ、料理本の出版など多方面で活躍中。
www.okomeyamazaki.com

(TOP写真)
農作業で疲れていても、「毎日ご飯を作って、家族で食べる時間を大切にしたい」と話す山﨑さん夫妻。宏さんは、共著のレシピ本『お米やま家のまんぷくごはん』(主婦と生活社刊)でも、全ての調理を担当した筋金入りの料理男子。

生活と仕事をつなぐ台所

稲穂の海が、窓という窓の向こうに広がっている。台所からも、一家で囲む食卓からも見晴らせる、萌黄色のフルスクリーン。仕切りのない伸びやかな空間に、大らかな“借景”がよく映える。

「シンプルな田の字型の造りがいい。昔の農家みたいに。家を建てることになったとき、最初に伝えた希望です」と瑞弥さん。玄関に続く土間からお勝手、居間、客間、食堂に当たるスペースが、薪ストーブを中心に4分割で並ぶ。設えこそモダンだが、言われてみれば確かに、典型的な農家の間取りに違いない。

夏は朝3時起きの日もある農作業から、精米、梱包、ラベル貼り、出荷、事務仕事まで、米農家の1日は息つく間もない忙しさ。仕事と家事の境界も曖昧になりがちな生活に、昔の農家の動線は実に勝手がよいという。たとえば、夫婦で田んぼから戻った夕方。料理好きな宏さんは、率先して台所へ。間続きの土間では、瑞弥さんが梱包の仕事。両親のおしゃべりを聞きながら、子供たちは傍らのデスクで勉強を。そんな風景が、ありふれた山﨑家の日常にある。

もっとも、年に数回ほどの例外も。「好きな器の展示会がある日は、田んぼから高速飛ばしてピューッと(笑)。自分に帰れる時間。私にとって社会の窓なんです」

お米に、家族に、器や道具に。惜しみない愛情が詰まった“田の字”なのだ。

キッチンの引き戸を開けると、奥に土間が控える。
瑞弥さん考案の造作棚。鍋、ザル、まな板は吊るして水気を飛ばす。扉は付けず、給食用のアルミ製バットを収納に活用。

(雑誌『料理通信』2018年10月号掲載)

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