【食のプロの台所】365日、くつろぎ時間
薬膳料理家 山田奈美
2026.05.14
text by Noriko Horikoshi / photographs by Tsunenori Yamashita
連載:食のプロの台所
台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。葉山御用邸のほど近くにある築100年の古民家は暮らしの場であり、仕事の場。薬膳料理家・山田奈美さんの台所を訪ねました。
山田奈美
薬膳料理家。「東京薬膳研究所」の武鈴子さんに師事した後、神奈川・葉山「古家1681」にて「たべごと研究所」を主宰。和食薬膳教室、離乳食教室、発酵教室などを開催している。著書に『ぬか漬けの基本。はじめる、続ける』(グラフィック社)、『砂糖なしおやつ』(小学館)、『簡単。なのにちゃんと薬膳』(家の光協会)、『12ヶ月の薬膳食材帖』(主婦と生活社)、『薬膳せいろ』(朝日新聞出版)など多数。メディア出演やセミナー講師も務める。YouTube動画「山田奈美の発酵暮らし」も好評。
(TOP写真)
以前は「大家さんのおばあちゃまが使っていた」という台所。ほどよい古び具合が、愛用の木の道具になじむ。後方上の棚に見える瓶の中身は、愛息“大ちゃん”の誕生年に漬けた100年梅干し。毎年誕生日に1粒ずつ食べる。
発酵して味わいを増す
葉山御用邸のほど近く、もうすぐ築100年を迎える古民家に暮らして15年が経つ。元は土間だったという台所は、天井が高く、“おくどさん”の呼び名が似合いそうな大らかな設えだ。
「窓が多いから、風の通りもよくて。朝昼晩のごはん作りのほか、薬膳教室や季節のイベントも、ここで。公私ともに過ごす時間が一番長い場所です」
味噌に醤油、納豆まで、すべて手作りの食生活。24年もののぬか床はテーブルの下に。「昔は女中部屋だった」という続きの3畳間には、粛々と発酵中の柿酢、葉山産夏ミカンを使った柚子胡椒、冬場にどっさり仕込む白菜漬けやキムチなど、これもオール自家製の保存食が、ずらり。“育菌”にもお誂え向きの環境なのだろう。
夕方6時半。台所にとってのゴールデンタイムがやってくる。手漉き紙作家のご主人が仕事を仕舞い、お風呂から上がり、お酒をトクトクと器に。「乾杯!」を合図に、夫婦で料理を作り始める。「時には七輪で焼きながら、つまみながら、1日のことを報告し合いながら、たっぷり2時間。我が家の“くつろぎ時間”です」
一人息子“大ちゃん”が、得意の和えものや卵料理に腕を奮う夜もある。手間と時間。慈しむ気持ち。家族で囲んだ食卓の記憶。台所でひっそりと発酵を重ねるのは、食べ物ばかりではないのだ。
(雑誌『料理通信』2019年4月号掲載/本文はウェブサイト用に一部調整しています)
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