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JOURNAL / 世界の食トレンド

世界が注目するスパークリングワインの産地、英国に生まれたワイ ン・ツーリズム

England [London]

2026.09.08

世界が注目するスパークリングワインの産地、英国に生まれたワイ ン・ツーリズム

text by Yuka Hasegawa / photographs by Nyetimber, Wiston Wstate
「ナイティンバー」醸造責任者のシェリー・スプリッグ氏。創業1988年、イングランド南部サウスダウンズを望む地に拠点を置き、イングリッシュ・スパークリングワインのパイオニア的存在として広く知られる。すべて自社畑で栽培したシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの3品種のみを用い、伝統的製法(瓶内二次発酵)を採用しながらも、シャンパーニュの模倣ではなく、英国特有の冷涼な気候と石灰質土壌がもたらす、繊細で柔らかな酸とエレガンスを備えたスタイルを確立している。


シャンパーニュの代替ではない、英国のテロワールを体現するスパークリング

ヨーロッパの“ワイン・ツーリズム”といったら、フランスやイタリアといった伝統的なワイン銘醸地を思い浮かべるかもしれない。だが今、新たなデスティネーションとして脚光を浴びているのが、ここ英国だ。昨今の気候温暖化も一つの要因となり、英国産ワインのクオリティが飛躍的に向上。その評価の高まりとともに、英国内のワイナリー巡りが注目を集めている。

英国のワイン生産者を代表する業界団体「WineGB」によれば、現在イングランドとウェールズには1100以上のヴィンヤードと約300のワイナリーがあり、過去6年間でヴィンヤードは約70%増、ワイン販売は200%増に。2023年の英国ワイナリー訪問は延べ150万回に達し、前年比55%増を記録した。

英国産ワイン、とりわけ、イングリッシュ・スパークリングワインを世界レベルへと押し上げた立役者が、英南部ウエストサセックスの美しい丘陵地などに壮大なヴィンヤードを擁する「ナイティンバー(Nyetimber)」だ。同社の醸造責任者のシェリー・スプリッグ氏は、業界で権威のあるワイン品評会IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)において、「年間最優秀スパークリングワイン醸造家賞」を2度も受賞。25年にはナイティンバーの「ブラン・ド・ブラン」が栄えある「チャンピオン・スパークリングワイン」を獲得した。シャンパーニュ地方以外の生産者としては、同賞 34年の歴史において初の快挙となった。

ナイティンバーは自社畑で育てたブドウのみを使用し、栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを一貫して管理する、いわゆる英国流“ドメーヌ”だ。152の区画(パーセル)すべてに品種、植栽年などの情報を記載したプレートを設置。「ブドウはすべて専門の収穫スタッフが手摘みし、その後区画ごとに醸造を行い、丁寧にブレンドします」と語るのは、今や英国ワイン界を代表するスプリッグ氏。英国王室の公式行事や祝賀パーティなどで振る舞われているナイティンバーは、もはやシャンパーニュの代替ではなく、英国のテロワールを体現するスパークリングワインとして、そのステイタスを確立している。

ナイティンバー・エステート
ウエストサセックスにある同社の発祥地である、ナイティンバー・エステート。美しく整えられた庭園を囲むように歴史ある建物が点在し、その先には広大なヴィンヤードとサウスダウンズの丘陵が広がる。 広がる。この他、ハンプシャー、ケントなどにも自社畑を抱え、その総面積は430ヘクタールという。
キュヴェ・シェリー
2012年、当時英国初のドゥミ・セックとして誕生した「キュヴェ・シェリー」。フランス語で「愛しい人」を意味し、醸造責任者シェリー・スプリッグ氏の名にもちなんでいる。自社畑のシャルドネ100%で造られ、爽やかな酸と繊細な甘味が特徴。デザートとの相性も抜群だ。ヨーロッパの銘醸地に比べ比較的冷涼な気候のもとでブドウがゆっくりと成熟し、さらに雨の多い英国にあっても、水はけのよいチョークやグリーンサンドの土壌がこの土地ならではのワインを生み出す重要な要素となっている。
メディーバル・バーン
エステート内にある、15世紀に建造されたという「メディーバル・バーン」。伝統的な素材や技術を生かして修復され、現在はヴィンヤード・ツアー後のテイスティングやディナーなどに使われている。歴史を感じさせる建物でワインを味わうのも、ナイティンバーならではの体験だ。 

ワイン・ツーリズムが、田園の暮らしと風景を支える

もう1軒、英国のワイン・ツーリズムを牽引する人気ワイナリーといえば、2026年のIWCにおいて「イングリッシュ・スパークリング・トロフィー」を獲得した「ウィストン・エステート(Wiston Estate)」だ。

ナイティンバーと同じくサウスダウンズに位置するが、その舞台は1743年からゴーリング家が受け継ぐ約6000エーカーの広大な農業エステート。現在も小麦や大麦、オーツ麦を育て、家畜を放牧する一方、土壌の再生にも力を注いでいる。その一角にヴィンヤードとワイナリー、スパークリングワインと土地の食材を生かした料理とのマリアージュを楽しめるレストラン「チョーク(Chalk)」を擁する。年間を通じてヴィンヤード・ツアーやテイスティングを行い、敷地内には田舎風の洒落たコテージも併設。ワインを核に、食・土地・ホスピタリティを一体で体験できるデスティネーションとなっている。

ウィストンのヴィンヤード
サウスダウンズのなだらかな丘陵に広がるウィストンのヴィンヤード。南向きの斜面と水はけのよいチョーク質の土壌に恵まれ、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエを栽培する。夏にはトレーラーで畑を巡り、夕暮れのヴィンヤードでワインを味わった後、敷地内に併設されたレストラン「チョーク」でディナーを楽しむ「サンダウナー・サファリ」も人気だ。
レストラン「チョーク」
18世紀のフリント(火打ち石)造りの脱穀小屋を改装したレストラン「チョーク」。エステートの菜園で育てた野菜や鹿肉、キジ、フォレジング(採集)した野生の食材など、サセックスの豊かな恵みを取り入れ、土地と季節を映す料理を提供する。『ミシュランガイド2026』にも掲載され、この地ならではのガストロノミーが楽しめる。
スパークリング・ロゼ
英国を代表する三ツ星シェフ、サイモン・ローガン氏と共同開発したスパークリング・ロゼ。ローガン氏のソムリエチームとともに、レストランの料理とのペアリングを念頭に、通常のロゼよりドサージュを抑え、酸を生かしたスタイルに仕上げた。2025年にリリース。
ワイナリー併設のショップ「セラー・ドア」
スタイリッシュなインテリアが印象的な、ワイナリー併設のショップ「セラー・ドア」。近年はスティルワインにも力を入れ、自社畑のシャルドネ100%で造る「Tank Five Chardonnay」は、ワインの専門家からも高い評価を得ている。

こうした盛り上がりを受け、WineGBは「Create New Traditions」や「Back British Vineyards」などのキャンペーンを展開。「Back British Vineyards」では、「ヴィンヤードを支えることは、英国のカントリーサイドを支えること」と呼びかけている。

自国のヴィンヤードへ出かけ、土地が育んだワインを料理と共に味わい、その風景を楽しむ。そんな体験が、地域を支える力にもなる——。英国の田園に、今まさにそんな“新しい伝統”が生まれようとしている。


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