日本 [大阪]
真夏に手をかけ、縁起物の海老の姿に
未来に届けたい日本の食材 #07海老芋
2021.08.06
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
大阪南東部の富田林は、昔から農業が盛んで、中でも極上の海老芋の産地として知られます。海老芋は縁起物として、おせちをはじめ、冬の食材として珍重されていますが、作るのに手がかかるため、生産者が減少しています。そんな中、4年前から海老芋栽培を継いだ「辻農園」辻晃司さんを訪ねます。
このあたり、水も豊富で土もいいので、海老芋を育てるのに最適の土地なんです。ただ、夏の盛りに大仕事が待っているので、年をとると続けられなくなってくる。親戚に、海老芋作りの名人がいたのですが、体力の限界で数年前にリタイアしました。僕はもともと、地元名産のナスとキュウリを作っていたんですが、海老芋を絶やしちゃいけないと思って、野菜を育てる傍ら、4年前に、そのおじさんから種芋をもらって育ててみることにしたんです。もちろん、右も左もわからないから、1~2年はおっちゃんについてもらいました。海老芋のあの海老のような形は、自然にできるんじゃないんです。手をかけて手をかけて、やっと形になる。
まず、4月に芽が出た種芋を定植します。この種芋が親芋になって、盆前ぐらいには茎が
50センチぐらいまで伸びる。そのうち子芋の茎も出てきて、土の中では木の枝のように親芋から4~5個の子芋が出てくる。この子芋を「土寄せ」という独特のやり方で、海老の形に作っていくんです。7月初旬に1回目の土寄せをします。親芋と子芋の茎を離すように、まず、東側の土を株元に寄せる。その際、肥料、次にワラ、そして土、と必ずサン
ドイッチにします。中旬には、対面を同様に寄せます。これを8月上旬まで、4回ほど繰り返すと、最終的に畝の高さは膝下まできます。夏の間は土が乾かないよう、2日に一度ほど水をあげます。
収穫は10月下旬から12月。茎が折れて葉が頭を垂れたら収穫の合図。このあたり、もともとは川底だったそうで肥沃なんですね。でも、水分を含む土壌だから、ものすごく重い。うちはユンボを使いますが、せっかくの海老の形が途中で切れないよう、慎重に掘り起こします。中がどんな風になっているかは、イメージするしかないというのも難しいところ。親芋、子芋、孫芋の姿を見ていただきたいから、ちょっと掘ってみますね。
子芋を海老芋として出荷します。孫芋は種芋用に一部をとっておきますが、ほかは小芋として出荷します。縁起物として正月の雑煮には欠かせません。海老芋は連作ができないので、来年は他の野菜を植えて、その翌年は米、そして3年目に海老芋を植える。海老芋の前年は、どこの農家さんもなぜか米ですね。
海老芋はこれからが繁忙期。おっちゃんから受け継いだ取り引き先を含め、大阪や京都、東京の老舗料亭にも送ります。待ってくださっている方がいることがありがたいですね。
海老芋はこれからが繁忙期。おっちゃんから受け継いだ取り引き先を含め、大阪や京都、東京の老舗料亭にも送ります。待ってくださっている方がいることがありがたいですね。
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