牛肉のテロワールを語ろう。
―欧州・食肉最前線 <牛肉編>―
2021.05.20
text by Miyo Yoshinaga / photographs by Hiyori Ikai
持続可能性に重点を置き、「生産者からフォークまで」の食料生産流通チェーン全体を通して、高い安全性と品質基準の順守に細心の注意を払う、欧州連合(EU)の食肉。
その味わいの個性や力強さから、料理人たちのクリエイションをも刺激しています。
EPA協定(経済連携協定)発効後、日本への輸出が増え続けるEU食肉の魅力を、料理人とインポーターの目線から、掘り下げるシリーズ。
牛肉編では、フレンチF&Bジャパン株式会社ミートプロダクトマネージャーの菅沼安尋さんと、銀座「マルディグラ」和知徹シェフの対談です。
目次
サステナブルな制度は、従うものではない。
菅沼:欧州ではアニマルウェルフェアを重視し、牛を狭い囲いに閉じ込めず、その地域に育つ草を食べさせる農場が多いですね。
和知:ヨーロッパの畜産は、狩猟生活から定住生活になって生まれたものなので、牛を放し飼いして草を食べさせるのが古くからのスタイルなのです。
菅沼:畜種も多様ですね。例えば、同じ種ばかりで揃えている場合、病気などの問題が生じると全滅しかねない。ヨーロッパでは、畜種や個体の多様性を認めながら飼うことが畜産の存続にとっても大事だと考えています。
EUの持続可能性基準など政府主導の制度もありますが、制度があるから従うのではなく、農家自身が牛の生育環境について自然に向き合ってきた結果だと思います。
和知:ヨーロッパでは「文化は将来へ引き継いでいくもの」という意識が根底にあります。食材もあるだけ食べ尽くすのではなく、次世代に引き継いでいく意識が根付いています。だから存続できる環境を守るための制度や団体が生まれたんですね。
菅沼:地理的表示保護制度もそう。フランスのシャロレー牛などのPDO(原産地呼称保護)、PGI(地理的表示保護)のようなヨーロッパの地理的表示は、我々売り手からすると強みにもなるものですが、もとはといえば、そこに携わる方々の家業や地元への誇りと感謝の現れではないかと。
赤身の流儀、脂身の流儀
菅沼:ヨーロッパでは赤身が主流ですが、日本では昔からサシのある牛肉が好まれました。
和知:調味料の影響もあるでしょう。明治以降の牛肉料理は牛鍋のように醤油や砂糖を使うものが多く、調味料の味に負けないサシがある肉の需要が高まりました。一方ヨーロッパの牛肉はジビエを思わせる複雑味のある赤身肉で、それをおいしく味わう文化が発達しています。彼らは噛みしめる肉の旨さを、熟知している。
さらに長年の経験から生まれた熟成という知恵で、硬い赤身肉の旨味を上げ、肉質を軟らかくする。火を入れすぎると硬くなるので、レアやタルタルのように生に近い状態で食べる文化も生まれています。
菅沼:仔牛肉料理が発達しているのもヨーロッパの特徴ですね。イタリアなどの酪農の盛んな地域では、昔から仔牛の食用文化がありました。
和知:ヨーロッパの料理は王室文化の中で発展してきたものですが、仔牛肉の料理はより洗練された肉料理を求めた結果です。仔牛肉は熟成させずとも軟らか。ミルキーで淡麗な味わいが古くから好まれてきました。
菅沼:欧州では仔牛もよく食べますが、これは単に軟らかな肉質を求めたわけでなく、牛乳をとれないオス仔牛の有効利用でもあることを知ってもらいたいです。
和知:食べる楽しみはあっていいと僕は思いますね。
菅沼:仔牛肉は小さいので、若い頃のようにがっつり食べられなくなったシニアや、食の細い方でも食べやすい。赤身で軟らかいヨーロッパ産牛肉には、その新しい市場を拓く力があります。
厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」2020年版で65歳以上のタンパク質摂取目標量が引き上げられ、またこの10年のシニア層の食肉需要の伸びも大きい。ヨーロッパ産の牛肉はこの流れに合うものです。
和知:「マルディグラ」ではずっと赤身肉を出しています。10数年前までは「硬い」と言われることもありましたが、今は赤身肉が人気となり、日本人の肉の嗜好の変化に立ち会ってきた思いです。牛肉はいつでもレストランの花形。変化する嗜好に合う食材を、我々料理人が味わいを高め、料理に仕立てる。それを享受する喜びを感じていただきたいです。
テロワールが生み出す、牛肉の味がある
菅沼:牛はなるべく動かさずに育てた方が軟らかくおいしい肉になると思っていたんですが、ヨーロッパの牛肉を通して、運動させて育てた方が味に深みが出ることを知りました。
和知:そうですね。畜産農家によると、牛は生後1年の運動量で体格が決まるので、いい牛に育てるには放し飼い、しかも山のような傾斜地だとベストなのだそうです。
菅沼:エサの考え方も日本とは異なりますね。飼料の配合で肉牛の質は変わりますが、ヨーロッパでは地元の牧草や穀物を与えていて、配合飼料設計の概念自体あまりないようです。どの地域にも当てはまるベストなフォーミュラ(方程式)があるのではなく、地域ごとのベストがあります。
和知:牛は1日に何十リットルも水を飲むので、水も大事ですね。気候や食べるもの、飲む水が違えば、たとえ同じ畜種でも地域によって味は異なるものです。
菅沼:ワインのテロワールに似ていますね。食を文化として捉えれば、文化は地域ごとに違って当然。その土地が何百年にもわたり育んできた個性豊かな味わいを楽しめるのが、ヨーロッパ産牛肉の魅力でもあります。
試される、料理人の適応力
菅沼:気候風土や畜種、個体の多様性を認めて作られるのがヨーロッパの肉。均一さや安定したクオリティを維持することだけに注力しているわけではありません。常に同じものではないけれど、それを当たり前として受け入れている。
和知:生鮮食品は一つひとつ違って当たり前で、それぞれの良さが必ずあると思っています。あくまで自然にできた穏やかな違いですが、料理するときには、肉の味わいのポテンシャルを見極めて、仕立てるトーンを合わせています。力強い味わいの肉には力強いソースを、淡白な味わいの肉はやさしく、というように。
季節による違いもありますね。夏には牛肉はあっさりとした味わいになります。でもそれがみずみずしい夏の野菜とよく合うし、暑い時期にあっさりしたものを好む嗜好にも合う。自然の摂理にのっとったものだからこそ、なじむのですね。
菅沼:和知シェフのように、違いを認めて生かしてくださる料理人さんの言葉を現地の農家のみなさんにも届けたいです。
和知:料理人からすると、個体差がある方がむしろ楽しいのです。誰しも仕事はルーティーンになりがち。扱う食材に変化があることは、毎日新しい気持ちで取り組める喜びにもなっています。
地理的表示と有機認証
EUでは原産地呼称保護(PDO)および地理的表示保護(PGI)により伝統的な生産方法を保護し、製品が本物であることや原産地を保証しています。また、ユーロリーフロゴは、製品がEUの有機食品生産規則に準拠していることを示しています。
詳しくは
こちら
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【アイルランドビーフと春キャベツのアンサンブル 芹のカレー風味ソース】
<材料(作りやすい分量)>
牛Lボーン・サーロイン(アイルランド産)・・・1kg
塩・・・肉の重さの1.2%
黒コショウ・・・適量
タイム・・・10枝
ニンニク(皮ごと)・・・1/2個
オリーブ油(ポルトガル産)・・・適量
【ソース・付け合わせ(作りやすい分量)】
バター(ベルギー産)・・・20g
パンチェッタ(イタリア産・2mm厚 5mm 幅・小口切り)・・・30g
タマネギ(4つ割り・スライス)・・・1個約200g
キャベツ(1cm幅・ざく切り)・・・300g
タケノコ・・180g
セリ(みじん切り)・・・約200g
水(だし用)・・・500ml
混合節・・・10g
醤油・・・18ml
カレー粉・・・20g
塩・・・少量
葛粉・・・20g
水(葛粉用)・・・70ml
<作り方>
1.アイルランド牛は塩、コショウをして室温に戻す。
2.鍋にオリーブ油を引き、肉の脂を下にしてタイム、ニンニクとともに230℃のオーブンで約15分ローストする。
3.鍋を火にかけて切断面の上下を 5〜7 分ずつ焼き、約 25 分寝かす。
(時間は肉の厚さによるので目安で)
4.付け合わせをつくる。鍋にバターを入れて中火にかけ、パンチェッタを加えて炒める。
5.香りが立ったらタマネギとキャベツ、タケノコを加える。
6.蓋をしてしんなりしてきたら、分量の混合節と水で取っただし、醤油、カレー粉を加える。
7.芹を加えてサッと火を通し、塩を少量振り、味を整える。分量の水で溶いた葛粉を加えてとろみをつける。
【イタリア産仔牛の片面カツレツ蕗のとうのピストゥーソース】
<材料(作りやすい分量)>
仔牛ヒレ肉(イタリア産)・・・200g
塩・・・肉の0.8%
白コショウ・・・少々
強力粉・・・適量
グラナ・パダーノPDO(イタリア産・おろす)・・・適量
溶き卵・・・適量
パン粉・・・適量
オリーブ油(ギリシャ産)・・・適量
【ソース(作りやすい分量)】
フキノトウ・・・100g
パウダーチーズ(イタリア産)・・・50g
ニンニク(スペイン産)・・・2片
ディジョンマスタード(フランス産)・・・15g
オリーブ油(ギリシャ産)・・・180ml
松の実ロースト・・・15g
アーモンドパウダー(空煎りする)・・・40g
ミネラルウォーター・・・50ml
塩・・・少量
<作り方>
1.水1ℓに塩10gを加えて沸かし、フキノトウを3〜4分茹でて水を切る。
2.ソースを作る。ミキサーに1と残りの材料を入れてペーストになるまで撹拌し、塩で味を整える。
3.食べやすい大きさにカットした仔牛ヒレに塩コショウをし、片面だけ強力粉、グラナ・パダーノ、溶き卵、パン粉を順につけて室温に戻す。
4.フライパンにオリーブ油を引き、パン粉側を下にして、230℃のオーブンで7~8分、ひっくり返して同じ時間オーブンで焼く(時間は目安)。
5.オーブンから出し、フライパンの中で寝かす。
6.皿にソースを適量引いて、5を盛り付ける。
◎マルディグラ
東京都中央区銀座8-6-19 野田屋ビルB1
☎03-5568-0222
12:00~15:00 17:00~21:00
日曜休
JR新橋駅より徒歩5分
◎フレンチF&Bジャパン
https://www.classicfinefoods.jp/japan-home
パーフェクトマッチ!日本語公式サイト
www.foodmatcheu.jp
https://www.instagram.com/foodmatcheu/
https://www.facebook.com/Perfect-Match-1217865448391937/
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