「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」青木定治×「農業生産法人(株)GRA」岩佐大輝
トップパティシエと新世代イチゴ農家が語る、これからの農業 -後編-
2021.04.26
text by Kei Sasaki / photographs by Masahiro Goda
農業を“人間らしい仕事”にするためにテクノロジーを取り入れ、低農薬イチゴ栽培と雇用創出を実現。創業時から世界市場を見据えていた新世代農業生産法人「(株)GRA」岩佐大輝さんと、30年以上フランスを拠点に活躍する「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」青木定治シェフの対話は、グローバルに広がります。
目次
世界市場を目指す上で、低農薬栽培は必須課題だった
GRAで栽培されるイチゴの中で、色や形などの外観、大きさや糖度など厳しい基準をクリアした「ミガキイチゴ」。最高品質の「ミガキイチゴ プラチナ」は、大手百貨店などで、一粒1000円以上の高値で取引され、海外にも輸出されている。
創業時から世界市場を見据えていた岩佐さんにとって、農薬散布量を減らすことは、必須の課題だった。
「高温多湿の日本で育つ農作物は、EUなどの基準を上回る農薬が使用されていることが多い。これまでのやり方で育てたイチゴでは、世界の市場では戦えない、と」
農薬の問題は、菓子の製造現場にも深く関わる。イチゴはデリケートな果物で、水で洗浄するだけで傷んでしまうからだ。
「イチゴはケーキ作りには欠かせない、キラーコンテンツというべき果物。真っ赤なイチゴと純白の生クリームのコントラストが生む清潔感と愛らしさにあふれたビジュアル、甘味と酸味、みずみずしさがバランスした味わいは、フランスでも日本でも、世代を問わず好まれる。安心、安全なイチゴと、それを育む産地が健全に持続し、次代へ受け継がれていくことは、我々パティシエにとっても、非常に重要なことなのです」
青木シェフが昨年10月、軽井沢にコンフィチュールの工房を立ち上げたのも、産地を、生産者をなんとかしなければという思いからだ。
「コロナ禍で、それまでレストランで使われていた果物が行き場を失い、次々と廃棄される惨状を見て、多くの料理人や生産者が“菓子に使えないか”と、連絡してきた。ミガキイチゴのような最高峰から、生食用ではいわゆるB級品となる形の揃わないもの、糖度がやや低いものまで、それぞれに応じた形で活用できる。それこそがパティシエの技術だと思うんですね」
作っているのは、地元の誇り
青木シェフが30年以上暮らすフランスは、高い食糧自給率を誇る農業大国でもある。
「原産地呼称があるように、農産物の品質管理にも厳しい国。クオリティの高い農作物を作りながら、経営的にも成功している生産者がたくさんいて、リスペクトされている。日本では、まだ“農業”といえば“清貧”というような、古いイメージが残っている感が否めない。岩佐さんのような若い方が、そんな産地のあり方やイメージを壊しているのは、日本の農業の希望だと感じます。これからも強気でガンガン、やって欲しい」
GRAのスタッフは、社員、パートタイムを合わせて約120人。20代から70代までと年齢層も幅広く、男女比は4:6とわずかに女性が多い。これも、岩佐さんが目指したところだ。
「特に女性はライフステージの変化によって仕事に制約を受けやすい。子育てしながら、1日数時間でも都合が付く時間に働ける場があることは、産地を持続させていく上で重要なことです」
経験と勘がものをいう職人的農業から、テクノロジーを活用し多くの人が関われる農業を構築することで、より強い産地が形成される。国内トップレベルの、そして世界の市場も羨望する高品質なイチゴという産品が、一部の生産者でなく、広く地域の人の誇りになる。
津波でまっさらになった土地で、ゼロから作り上げた農業を核とする地域コミュニティのあり方は、この先の方向性に迷いながら日々の営みを続ける全国の産地の指標にもなるはずだ。
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◎農業生産法人 株式会社GRA
宮城県亘理郡山元町山寺字桜堤47
☎0223-37-9634
http://www.gra-inc.jp/
◎ パティスリー・サダハル・アオキ・パリ丸の内店
東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1F
☎ 03-5293-2800
https://www.sadaharuaoki.jp/
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