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FEATURE / MOVEMENT

繋がりゆく、生命のかたち 「古来種野菜」シェフのアプローチ  

2022.05.27

text by Kyoko Kita / photographs by Masahiro Goda

連載:繋がりゆく、生命のかたち 「古来種野菜」

土地に根差す「古来種野菜」には、受け継がれる生命のかたちがあります。種から芽吹き、花が咲き、実がなり、枯れて種を残す。その種を再び蒔く。何世代も繋いだ種は、土地の風土や歴史、文化を映した日常の記憶です。そんな「古来種野菜」を使った料理を二人のシェフに作ってもらいました。

“旬古来種野菜”

東京・初台「レストラン アニス」(現在閉店)の清水将シェフによる、皮ごと、種ごと使う、シンプルな一皿をご紹介します。清水シェフが活用した古来種野菜は、赤紫紫蘇、玉ねぎ、杉箸アカカンバ、吉川なす、縮緬南瓜、モロヘイヤ、平家きゅうり、三宝甘長とうがらし、おかひじき、うこぎ、打木赤皮南瓜、縮緬南瓜。

清水 将シェフ
2002年渡仏、三ツ星「マルク・ヴェラ」や「アルページュ」などを経て09年現店開店。食材と正面から向き合い、その個性を生かし切る直球な料理に定評がある。

「落ち着いた色合いの野菜ですね。 華美でない。キュウリも黄色がかっていたり、 白い筋が入っていたり。断面は水分をたっぷり湛え、 澄んだ瑞々しい香り。生で食べると軽いえぐみ、 苦味、 自然に培ったであろうことを想わせる。あぁ、 野菜ってこんな味だったんだね、と。この風合いを消さないよう、 ひとつひとつに手を入れていきましたが、気付けば、皮ごと、 種ごと使う、 シンプルな一皿になりました。」

野菜のエチュベA
【1】 鍋にバター適量入れて弱火にかける。バターが溶けたら赤紫紫蘇4枚、タマネギ(皮ごと縦半分に切る)1/2個入れて蓋をし、赤ワインビネガー、塩、野菜のブイヨンを少量加え、20 ~ 30分蒸し焼きにする。途中ブイヨンを適宜足す。

【2】 時間差で杉箸アカカンバ(ヒゲ根をこそげとり、縦に切る)1/4個、プラム1/2個を加え、タマネギが赤くとろりとなるまで火を通す。

野菜のエチュベB
【1】 鍋にバター適量を熱し、吉川なす(3cmの輪切りにし、所々皮を剥く)1枚、野菜のブイヨン少量を入れて弱火にかける。
【2】 時間差で1cm幅に切った縮緬南瓜を加えて蓋をし、15 ~20分蒸し焼きにする。

モロヘイヤソース
【1】 モロヘイヤ適量をさっと茹でる。冷水にとって冷ます。細かなみじん切りにし、ペースト状にする。
【2】 ボウルに1とグリーンオリーブ、ケイパー、アンチョビー(すべてみじん切り)各適量を合わせて混ぜ合わせる。

グリル
平家きゅうり(3cmの輪切り)1枚と三宝甘長とうがらし(種ごと縦半分に切る)1/2本を鉄板で焼く。両面こんがり色付ける。おかひじき、赤紫紫蘇を鉄板でパリパリになるまで焼く。

てんぷら
小麦粉、卵、水(各適量)をボウルに入れて混ぜ、衣を作る。うこぎ3枝をくぐらせ、170~180℃の油でカリッと揚げる。

マリネ
ボウルに打木赤皮南瓜、縮緬南瓜(共にスライス)各適量と白ワインビネガー、オリーブ油、塩、コショウを振って和える。

Point:タマネギは皮ごと、赤紫紫蘇と一緒に蒸し焼きに。ビネガーの酸が加わると紫蘇の煮汁が変化し、鮮やかな半透明のピンク色に染まる。


“つないでいくもの”

東京・銀座「FARO」でシェフパティシエを務める加藤峰子シェフには、古来種野菜でつくるデザートを教わりました。加藤シェフが使ったのは、縮緬南瓜、加賀太きゅうり、平家きゅうり、赤紫紫蘇。古来種野菜の素材の力を香りで紡いだ一皿です。

加藤峰子シェフ
モデナの「オステリア・フランチェスカ―ナ」、フィレンツェの「エノテカ・ピンキオーリ」などを経て、2018年現店シェフパティシエに。生産者と関係を築き、新しいデザートを作る。

「野菜に“本物”の爽やかさを感じました。糖度や酸度などで測れない、 草原のそよ風のようなニュアンス。それを繊細に活かすために、 熱を加えず、浸透圧で香りを入れました。日本に古くから伝わる野菜だからこそ、 あえて洋のハーブを組み合わせて。スイカ、 メロンに近い香りの縮緬南瓜にはレモングラスやハッカを。青っぽいグリーンノートの平家きゅうりには、カルダモンの香り。クリームとゼリーに仕立てた甘いきゅうりの種、鮮烈な酸味の紫蘇とバジルのシャーベット、 淡い夢のように華やかなバラと紫蘇のシロップ。 素材の力を香りで紡いだ一皿です。」

香水ハッカが香る縮緬南瓜
スライスした縮緬南瓜、甜菜糖シロップ(甜菜糖、レモングラス、香水ハッカ、香水木、バジルの花を水で煮出したもの)を真空パックに入れ、真空にして1時間置く。

レモングラスが香る加賀太きゅうり
真空パックに、丸くくり抜いた加賀太きゅうりと甜菜糖シロップ(甜菜糖、レモングラスを水で煮出したもの)を入れ、真空にして1時間おく。

カルダモンが香る平家きゅうり
真空パックに、丸くくり抜いた平家きゅうりと甜菜糖シロップ(甜菜糖、カルダモンを水で煮出したもの)を入れ、真空にして1時間おく。

平家きゅうりの種のクリーム、ゼリー
平家きゅうりの種をミキサーでペースト状にする。半分にホワイトチョコレートを混ぜてクリーム状にする。残り半分にライム果汁、甜菜糖を合わせ、板ゼラチンを加えて冷蔵庫で冷やし固める。

赤紫紫蘇とバジルのシャーベット
赤紫紫蘇、生のバジル、水、ライムの果汁、甜菜糖を合わせ、フードプロセッサーで撹拌する。バットに入れて凍らせる。

赤紫シソのソース
水から赤紫紫蘇数枚を煮出し、レモン汁少量を加える。40 ~ 50℃の温度で自然農法のバラの花弁を数枚加える。

〜組み立て〜
【1】〈香水ハッカが香る縮緬南瓜〉に花弁のようにひだをよせる。
【2】 皿に〈平家キュウリの種のゼリー〉を盛る。その上に〈レモングラスが香る加賀太きゅうり〉、〈赤紫紫蘇とバジルのシャーベット〉を盛る。
【3】〈平家キュウリの種のクリーム〉を4ヵ所に搾り、〈カルダモンが香る平家キュウリ〉をのせる。食べる直前に〈赤紫シソのソース〉をかける。

Point:野菜の自然な風味を消さないように、すべて加熱せず使用。花やハーブの香りを入れて、デザートらしい華やかさを加える。



SHOP DATA
◎ FARO
東京都中央区銀座8-8-3
東京銀座資生堂ビル10階
☎ 03-3572-3911
12:00~13:30LO、18:00~20:30LO
日曜、月曜、祝日、夏季(8月中旬)、年末年始休
各線新橋駅より徒歩5分
https://faro.shiseido.co.jp/

(雑誌『料理通信』2019年9月号掲載)

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