世界のアーバン・ファーミング事情 vol.3 <Berlin>
都会の真ん中で漁業と農業を一体化アクアポニックス最新形
2022.04.22
text by Hideko Kawachi / photographs by Gianni Plescia
2019年5月に「世界のアーバン・ファーミング最新事情」としてお届けした記事を再公開します。都市でできる究極の地産地消であり、サステナブルな食物生産の営みに直に触れる機会にもなるアーバン・ファーミング。改めて知りたい都市型農業の事例です。
ドイツのアーバン・ファーミングの歴史は長い。19世紀、貧しい人が少しでも栄養を補えるようにと「クラインガルテン」と呼ばれる市民農園が始まった。現在その数はドイツ全国で91万、今も敷地の3分の1に野菜や果物を植えることが義務付けられている。
10年ほど前からはエコブームもあって、市内の空き地を利用したアーバン・ガーデニングも増えていたが、地価高騰のあおりを受け、どこも閉園や移転の危機にさらされているのが現状だ。しかしドイツの消費者は、産業化し続ける農業への猜疑心からか、エコ認証などよりも地産地消を重視する傾向にある。
TOP写真:魚のタンクではスズキを養殖。タンク数は13個、年間最大30トンの魚の出荷が可能だ。周囲に海も川もないベルリンでは新鮮な魚は貴重。
2014年にスタートした「ECFファーム」では、魚の養殖(Aquaculture)と野菜の水耕栽培(Hydroponics)を組み合わせた「アクアポニックス農法」を行なっている。魚の排泄物を含んだ水をバイオフィルターに通して分解、植物の肥料となる硝酸塩を得て、その水で野菜を育てる循環型農業だ。水の消費や二酸化炭素排出量を格段に抑えた有機農業が可能になる。
通常は野菜を育てた水が再び魚のタンクへと戻るが、ここでは魚の養殖と野菜栽培、それぞれに適したpH値の水を循環させ、養殖によって排出される二酸化炭素と硝酸塩を野菜へ、光合成によってつくられた酸素を魚のタンクへ送るシステムを開発。生産リスクを抑え、安定した魚と野菜の供給を可能にした。
2017年からドイツ大手スーパー「REWE(レーヴェ)」のベルリン支店と提携。ゆくゆくはバジルを育てる棚の下で、魚の餌となるレンズ豆を育てようと実験中。地産の食材を仕入れたい小売店のニーズとマッチしたECFファームの成功は、都市での自給自足が普通になるという新たな未来を予感させる。
◎ECF Farm
https://www.ecf-farm.de/