安曇野食品工房×料理通信
安曇野食品工房×料理通信 パティシエと共に考える、ゼリー系スイーツの可能性 | The Cuisine Press
2020.10.06
photographs by Hide Urabe
18世紀末から19世紀初頭に登場したといわれ、伝統的なフランス菓子の世界では長らく主流になかった「ゼリー系スイーツ」は今、特有のつるりとした喉越しや清涼感で、幅広い層から人気を得ています。
地球温暖化も影響し、スーパーやコンビニエンスストアではゼリー系スイーツが通年商品になりました。パティスリーにおいては、パティシエの創意工夫溢れるバリエーションが広がっています。
スイーツ界のクリエイションを牽引するパティシエと、ゼリー系スイーツを身近な流通商品として開発してきたメーカー、異なる視点を持つプロの立場から、ゼリー系スイーツが持つ魅力と可能性について考えました。
最後のひと口まで、完璧が続くように。
――今日は、「パティスリー レザネフォール」の菊地賢一シェフ、「パッション・ドゥ・ローズ」の田中貴士シェフ、そして安曇野食品工房マーケティング部の田村菜都美さんにお越しいただきました。早速ですが、皆さんどのようなゼリー系スイーツを作っていますか?
菊地賢一シェフ(以下、菊地) 4月頃から9月頃まで、常温保存できるフルーツゼリーを販売しています。以前はいろんな種類を作っていましたが、現在は夏ミカン、桃、ブドウ、マスカットの4種類に絞りました。来年は水羊羹を作ってみようと思っています。
田中貴士シェフ(以下、田中) フルーツゼリーとして作っているのはオレンジとグレープフルーツ。他は、ヴェリーヌなどグラスデザートにゼリー素材を使うことが多いですね。
田村菜都美さん(以下、田村) 安曇野食品工房ではいろいろなカップスイーツを作っていますが、中でもご好評いただいているのは「SWEET CAFÉ」シリーズです。カットしたコーヒーゼリーとクリーミーソースが混ざっている特徴的な構造をしています。一般的な2層仕立てのコーヒーゼリーでは途中でクリームが足りなくなってしまうというお客様の声をもとに作られたもので、コーヒーゼリーとクリーミーソースを最後まで最高のバランスで味わっていただくために、この構造になりました。
パティスリーのヴェリーヌやグラスデザートの場合、層になるパーツの組み合わせや順番を計算して作りますよね。パティシエならではの構成力が求められるのだろうと想像します。
菊地 硬さ、柔らかさ、テクスチャー、温度帯など全てをコントロールして、自分が思い描くように表現します。考えて設計するのが僕自身も楽しいし、食べる方も楽しんでくださる。層を作ったり、全体を一緒に食べて完成されるモンタージュになったり、そのコントロールと表現がパティシエの仕事です。
田中 ヴェリーヌは上から食べていって、最終的には全部を口に入れて食べるわけですが、パーツそれぞれがおいしく、全部一緒に食べたらもっとおいしかった、と思ってもらえたら勝ちですね。田村さんがおっしゃったように、完璧な状態が最後のひと口まで続けば、お客さんはリピートしてくれるんじゃないでしょうか。
菊地 ヴェリーヌとは逆に、パーツの少ないシンプルなゼリーを作るのって、究極の引き算ですよね。単体で食べるわけですから。そこにパティシエの仕事が入るのであれば、味そのものだったり、食感だったり、根本的な魅力を表現するのに技術が必要になります。
食材に合わせて、食感の表現を変える。
――近年は凝固剤の種類も増えていますが、お二人は普段何を使っていますか?
菊地 ゼラチン、ペクチン、アガーです。アガーは冷凍に強いもの、みずみずしいものなどを使い分けています。最近はつるっとしているものやもっちりしたものなどテクスチャーも様々ですよね。個人的には弾力があるものが好きです。
田中 僕もゼラチン、ペクチン、アガーです。合わせる食材によって、凝固剤の種類と量を調整しています。ゼリーが硬いと、口中での滞在時間が長くなる分、味が濃く感じます。桃のゼリーを作る時は硬いゼリーを噛んで食べてもらい、満足感を高めます。ヴェリーヌには、味の強い素材でつるっと消えるようなゼリーを作って入れることで、清涼感を演出する役割を与えたり。ゼリーを硬くする時は、ゼラチンだけだと動物性の匂いが気になるので、アガーを使います。「SWEET CAFÉ」のゼリーには、寒天を使っているんですか?
田村 フレーバーにより凝固剤を使い分けています。それぞれのゼリーのフレーバーに合わせた凝固剤を調整して、一般品を使い分け、組み合わせて食感を作っています。また、流通品のゼリーには殺菌をかけますが、その際にゼリーが溶けないように、高温の殺菌工程に耐えうる凝固剤を使用しています。
菊地 広く流通させるためには、1工程多くなりますよね。
田村 店頭に並ぶ時間が長くてもおいしくしたいというのが悩みどころです。
コーヒーらしさの鍵は何か。
田村 高温で殺菌をかけると、コーヒーの香りが飛んでしまったり、味が弱まったりもします。消えてしまう香りや味を、どんなコーヒーを使って補強していくのかが難しいところです。飲んでおいしいコーヒーを選ぶというより、製造工程を経てもおいしいコーヒーを目指して、原料の組み合わせを工夫しています。また、クリーミーソースと合わせても負けないコーヒーらしさを、どのように表現するかも重要です。召し上がってみて、いかがですか?
田中 カットしたゼリーがクリームに浸っているというのが新鮮です。コーヒーの苦味もちゃんと感じますし、甘さが控えめなので、どんどん食べてしまいますね。
菊地 コーヒーとクリームのバランスが完成されています。コーヒーが濃くて苦くて、周りのクリームとのコントラストがくっきりしているコーヒーゼリーも僕は好きですが、そこまで濃くしてしまうとこのサイズでは食べ疲れてしまう。たっぷり食べてもらうためのバランスですね。
田中 コーヒーをゼリーに使う時は、単にドリップしただけでは味が薄く感じることもありますよね。そういう時は、ゼリーを硬めにすることでコーヒーのフレーバーをしっかり感じられるようにしたり、コーヒーの抽出法を変えたりします。
菊地 コーヒーは豆の品種、産地、焙煎、抽出法により味が変わりますから、どんな素材や抽出法を選ぶかが重要ですよね。フルーツゼリーの場合なら、いかにフレッシュ感のあるジュースを選ぶかにこだわります。果実をそのままゼリーにしたような味わいを目指しています。
田村 今回新しくラインナップに加わった「ほうじ茶ゼリー」は、ほうじ茶の特徴である焙煎香が印象に残るように、香りや苦味のバランスを調整しました。
田中 ほうじ茶らしさがはっきり出ていますね。僕はパッションフルーツならパッションフルーツの味がはっきりわかって、「パッションフルーツのケーキを食べたな」と認識してもらえる味にしたい。「今日あの店の黄色いケーキを食べたよ」などと言われるのが嫌なんです(笑)。このほうじ茶ゼリーも、「今日スーパーでほうじ茶のゼリーを買ったら、おいしかったよ」と言ってもらえる味。おすすめされた人も、スーパーに行ったら、これのことだとすぐにわかりますね。
菊地 ほうじ茶フレーバー、人気ですよね。僕も昨年、店で出すソフトクリームをほうじ茶味にしました。このゼリーのように、コーヒーや紅茶だけでなく、日本のお茶をゼリーにするというのも面白いですね。今度やってみようかな。
◎ パティスリー レザネフォール
東京都渋谷区恵比寿西1-21-3
☎ 03-6455-0141
10:00〜22:00
不定休
JR恵比寿駅より徒歩5分
http://lesanneesfolles.jp/
◎ パッション・ドゥ・ローズ
東京都港区白金1-13-12
☎ 03-5422-7664
10:00~19:00
無休
東京メトロ・都営線白金高輪駅より徒歩3分
https://gourmet.aumo.jp/gourmets/647679