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FEATURE / MOVEMENT

日本 [埼玉] 日本の魅力 発見プロジェクト ~vol.1埼玉県 秩父地域~

「ちちぶ」、新たなる挑戦。-農家屋敷 宮本家-

2017.03.02

text by Rei Saionji / photographs by Hide Urabe

古来から「ちちぶ」の名産品であった絹を仕入れに来る商人や、札所を巡る人々のための宿を起源とする宿泊施設が「ちちぶ」には複数点在する。小鹿野町にある宮本家の歴史は250年余り。幕末から受け継がれた母屋、蔵、馬屋を改築し、1日限定6組の予約しか受け付けない、宿泊者にとっては特別感が嬉しい古民家旅館である。さらに、12代目に当たる現在の当主は、数年前まで力士であったというサプライズ。現役中は、剣武(つるぎだけ)という四股名で武蔵川部屋に所属していた。前頭十六枚目まで昇進したが、怪我のために止む無く引退。その後、故郷へ戻り、実家の家業を継ぐようになったという。




宮本荘グループ 元幕内 剣武 専務取締役 宮本一輝さん



宮本家は、宿泊の他に、11:00~21:00まで利用可能な日帰りプランもあるとのことで、今回はランチだけを宮本家でいただいた。ランチの前、蔵を改装した「蔵BAR」で食前酒タイム。





昔は薬代わりに飲まれていたという薬酒をいただく。「ちちぶ」の山で採れるカリン、キンモクセイ、マタタビ、クロモジ、イカリ草、キハダ・・・。全部で52種類。薬酒というだけに、それぞれに効能があるが、肌に良いとされるキンモクセイのツボミを漬けた物と、虫歯予防に良いとされるクロモジ、猫のみならず人間にも強精剤として効能のあるマタタビを選択。
クロモジで楊枝を作るには理由があったのかと納得する一方、マタタビの名前の由来が、絹の産地「ちちぶ」を訪れる絹商人が元気になって「また旅」ができると言われた昔を想像しながら、芳香豊かな薬酒を味わう。

これら宮本家の薬酒の製法には秘密があるらしい。甘さをつけるのに、一般的な氷砂糖の他に「ちちぶ」で採れたアカシアの蜂蜜を入れるそうだ。このため、果実酒にありがちなベタベタした甘さがない。



酔いが回らないうちに、蔵BARの2階へ移動する。2階には、宮本家に代々伝わってきた雛人形や美術品、そして、当主が相撲界で活躍していた時につけていた化粧まわし、懸賞金が入っていた封筒や断髪式で落とした髷など、ファン必見の相撲グッズが展示されている。古民家プラスアルファの宮本家ならではのもう一つの魅力である。

囲炉裏のある母屋へと移動し、お待ちかねの食事タイム。食事は、「ちちぶ」の食材をふんだんに使った滋味溢れる素朴な田舎料理が中心で、特に、囲炉裏で焼いたこんにゃく、イワナの塩焼き、椎茸が絶品であった。そして、締めは宮本家ならではの元関取の当主直伝の農家屋敷風ちゃんこ鍋。量、質的に盛りだくさんなご馳走であった。



宮本家には、別邸もある。この別邸は、松本城を手がけた宮大工が小民家風に建築した建物で、木材は飛騨から取り寄せ、着工から完成まで2年をかけたという本格的な造りである。

宮本家がある小鹿野町は、秩父市の隣町であり、役者から裏方まで全てを住民で行う農村歌舞伎で有名な地である。秩父市と小鹿野町の間にそびえる両神山は、秩父三山の一つに数えられ、古くから信仰の山とされていた。日本の国技でもある相撲も、古事記や日本書紀に書かれている力くらべの神話が起源とされ、その年の農作物の収穫を占う祭りの儀式として毎年行われていた宮廷の行事であったという。

大相撲の開催は、1月、5月、9月が両国、3月が大阪、7月が名古屋、11月が福岡。地方巡業がない月には、東京の相撲部屋で朝稽古を見た後に、「ちちぶ」へ移動し、宮本家で相撲の魅力を五感で感じるツアーをすることもあるそうだ。現在、相撲は、外国人観光客にも人気が高く、国技館には大勢の観光客が訪れている。元力士が経営する宮本家も、相撲に関心を寄せる外国人観光客からの注目度が高い。

そんな相撲人気に、敷地内に常設の土俵を作る予定があると当主は語る。土俵が完成した折には、宮本家から相撲を体験し、楽しむ人々の声が響くことだろう。かつて力士として伝統ある国技を守っていた当主は、今後、新たな形で、さらなる相撲の人気と「ちちぶ」の里山の自然を守り、楽しむ伝統を継承していく。

農家屋敷 宮本家
埼玉県秩父郡小鹿野町長留510





※本プロジェクトは、経済産業省関東経済産業局が実施する「平成28年度地域とホテルコンシェルジュが連携した、新たなインバウンド富裕層獲得のための支援事業」と連携して、グランド ハイアット 東京 コンシェルジュ/明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授 阿部佳氏のアドバイスを得て実施しています。



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