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FEATURE / MOVEMENT

シェフが弟子入り! 【Pure Chablis×中国料理編】

4つのAOCから再発見 シャブリの楽しみ方

2021.07.29

text by Noriko Horikoshi / photographs by Hiyori Ikai

シャブリには4つの格付けがあることをご存じですか? 
有名だけど実は意外と知らない白ワイン、シャブリの魅力を教わろうと、東京・荒木町の中国料理「の弥七」山本眞也さんが、ワインのプロフェッショナル、ビバレッジコーディネーターの蓮見孝子さんに弟子入り!
旬の食材を使った中国料理をシャブリに合わせる、“夏シャブリ・ペアリング”に挑戦します。



目次






とびきりピュアで優雅なシャルドネの白ワイン

-シャブリは世界で最もよく知られるワインのひとつで、日本でも人気があります。辛口白ワインの代名詞として捉えている人も多いのではないでしょうか。

山本:知名度が高いぶん、フランスの白ワインの中でも、カジュアルで親しみやすい、わかりやすいイメージをお持ちのお客様が多いと感じます。ドライでシャープな白がお好みだから、とリクエストをいただくことも多いですね。

蓮見:その通りなんですよ。ただ、正確なシャブリ像については、まだ十分に知られているとは言えないかもしれません。先にプロフィール的なことをおさらいしておくと、まず「シャブリ」というのは、住所表示上もワイン地図の上でも、ブルゴーニュ最北の村の名前であるということ。

山本:ブルゴーニュのワインということを、意外と忘れられがちですよね。

蓮見:そうそう。シャブリはシャブリでしょ!?みたいな(笑)。生産者たちは、ブルゴーニュに属することに大変な誇りをもっているのですが。さらに、白ワインしか造られていないこと。そして、シャルドネが唯一のブドウ品種であるということ。シャルドネは世界中で栽培されていますが、シャブリはその繊細さと気品のある爽やかさから、類稀なるピュアなシャルドネの表現だと評されています。


【教える人】蓮見孝子さん
「TSUKI」代表取締役社長・ビバレッジコーディネーター。ワインをはじめとする豊富で幅広い分野にわたる知識で料飲分野におけるコンサルティング業務、スクール運営、講演活動やセミナーを手掛ける。


【教わる人】山本眞也さん
東京・荒木町「の弥七」店主。大学卒業後、単身上海に渡って修業の後、東京・三田「御田町 桃の木」を経て、2014年現店開店。中国料理の伝統を守りながらも、和食の調理技術や世界観を取り入れたガストロノミーシノワで新境地を開く。 



ピュアなミネラル感をあらわす4つのアペラシオン

-そうした“ピュア・シャブリ”の持ち味は、主にどんな条件によって備わるのでしょうか?

蓮見:ワインは、気候、地形、生産者のノウハウといった要素によって様々な特徴を生み出します。シャブリの場合は、ブルゴーニュの最北部に位置するため冷涼な気候であることに加え、キンメリジャンと呼ばれる土壌の資質が大きいですね。村のある一帯が古代は海底だった場所で、約1億5000年前の小さな牡蠣の貝殻が堆積している。この石灰岩質土壌がシャブリに透明なミネラル感をもたらしています。

-「シャブリに生牡蠣」といわれるのも、ピュアなミネラル感あってこそなんですね。

蓮見:でも、生牡蠣がベストかといえば、決してそんなことはなくて。上の格付けであるシャブリ・プルミエ・クリュ、シャブリ・グラン・クリュなら、生よりも手をかけた牡蠣料理のほうが合うと言われています。そもそも、シャブリには格付けがあるのをご存じですよね?

山本:今回の料理にも合わせた4種類ですね。

蓮見:そうです。シャブリは、「プティ・シャブリ」「シャブリ」「シャブリ・プルミエ・クリュ」「シャブリ・グラン・クリュ」の4つの格付け、すなわちアペラシオンに分類されます。アペラシオンごとに異なる土壌成分をもっています。

山本:アペラシオンの違いは、ワインの味わいや、合わせる料理の幅にも反映されてくるわけですね。

蓮見:4つのアペラシオンによるバリエーションの広がりを楽しめるのも、シャブリの魅力ではないでしょうか。


左から■AOCプティ・シャブリ:AOCシャブリのカジュアルラインに相当。フレッシュ&フルーティーの爽やかさがアペリティフに最適。2年以内の若飲みが望ましい。■AOCシャブリ:栽培面積、生産量とも最大。日本でも最もポピュラーなアペラシオン。はつらつとしたミネラル感と繊細なフィネスを併せ持つ。■AOCシャブリ・プルミエ・クリュ:より個性豊かな土壌成分を持つ一級畑のブドウから造られる。上級クラスにふさわしいリッチでしなやかな飲み口で魅了。■AOCシャブリ・グラン・クリュ:“シャブリの至宝”と呼ばれる最上級ライン。全体に占める生産量はわずか1%。複雑でニュアンスに富み、長期熟成にも向くポテンシャルを備える。


古代は海底だった地に広がるシャブリのブドウ畑。ブルゴーニュの中でも冷涼な気候、当時の牡蠣殻が堆積して層をなすキンメリジャン土壌と石灰岩質土壌が、ピュアでミネラリーな酒質のワインを生む。



中国料理で広げるシャブリの新たな楽しみ方

◆AOCプティ・シャブリ×「いんげんと桜海老の炒めもの」


細いインゲンを、190℃の油で瞬間的に揚げて繊維を断ち切る中国料理の技法により、ポリポリと軽快な歯触りに。山椒塩のみのシンプルな味つけ。山椒と香りの相性が良い浜納豆、豚挽き肉、桜海老を重ね、アクセントを添えている。フレッシュ&フルーティーなプティ・シャブリが果てしなくすすむ。Petit Chablis, 2018, Domaine Isabelle et Denis Pommier (輸入元:Cave Kanaiya)

-では、4つのアペラシオンと料理のペアリングを、実際に検証していきましょう。今回の山本シェフの料理は、ワインの格付けは一切意識せずに考案されたそうですね。

山本:はい、目をつぶってワインを飲んでみたときの印象をベースにして。ロジックではなく、「自分だったら、こんな味と合わせてみたい」と舌で感じたことを、皿の上に表現してみました。

蓮見:楽しみです! 順番から言うと、プティ・シャブリからですね。日本語で言うと“小さなシャブリ”という意味ですが、はつらつとした味わいが特徴の、飲み心地のよいシャブリです。

山本:まず、この飲みやすさがスターター向きだな、と自分も思いました。他のお酒に例えるとビールっぽくて、食欲もそそる。なので、料理もビールのつまみ的な食感と香ばしさを意識して、シンプルな野菜の揚げ物に。山椒塩でスパイシーな香りを重ねています。

蓮見:フレンチで言えば、極細のポム・フリットにトリュフ塩みたいな感じ(笑)? プティ・シャブリには、最高の組み合わせですね。


◆AOCシャブリ×「ハタの酢豚風 山葵ソースがけ」


程よい旨味と余韻、複雑味もほんのりのってくるシャブリには、淡白ながらも旨味の濃い高級魚のハタを、酢豚風に仕立てた一品を。ワサビを使ったソースに柚子皮を散らし、視覚的にも味覚的にも緑のグラデーションの爽やかさが感じられる工夫を。色を料理の重要な要素として捉える中国料理らしい着想だ。Chablis, Terroir de Fyé, 2018, Patrick Piuze (輸入元:ヴィノラム)

-次は、シャブリを。プティ・シャブリに比べて、どんな違いが出てきますか?

山本:シャープで、直線的なラインを感じました。複雑味が出て、余韻も少し長く感じられるようになるけれど、誰もが安心しておいしいと思えるわかりやすさもある。

蓮見:味の強弱のパーツが少し太くなるイメージですね。それでいてシャープに感じ、かつ、厚みのある旨味が口に広がります。

山本:旨味の幅や余韻もバランスが良いので、料理はあまり複雑にせず、同じ強度で揃えていくほうがいいと考えて、淡白な白身魚のハタを酢豚風に仕立てました。

蓮見:ワサビと柚子の香りが、フワッと立って。

山本:ワインに“夏シャブリ”の爽やかさを感じたので、料理にも緑系の香りを重ねて、エッジの立った季節感を出そうと。春に京都で見た、新緑のグラデーションの美しさがヒントになりました。ハタはレモンでマリネして、ほどよい酸味のアクセントを。ソースには、まろやかな千鳥酢を使う。これも、見えない清涼感の重ね技です。

蓮見:シャブリの柑橘とは違うミネラルな酸のタッチが、料理の酸味とぴったりはまってる。一見シンプルの極みでも、陰で丁寧な仕事が施されていることの証明ですね。複数の味わいの要素を混ぜてしまうのではなく、同じ方向性に重ねていこうとする発想も実に面白い。驚きました!


◆AOCシャブリ・プルミエ・クリュ×「うざくのクミン風味」


鰻は身のやわらかな新仔(しんこ)を使用。香辛料を使ったタレとともに蒸し、ザーサイ、白瓜、キュウリ、トマト、ミョウガ、岩海苔、エシャロットのチップを盛り込み、具だくさんの中華風のうざくに。ボディ感のあるシャブリ・プルミエ・クリュと、料理の香り、味わい、食感、スパイスの刺激が交錯し、心地よい口内調味が完成する。Chablis Premier Cru, Montée de Tonnerre, 2018, Domaine Jean Collet et Fils(輸入元:木下インターナショナル)

山本:あえて混ぜて、ぶつけていくのが正解の合わせ方もあると思っていて。それが、次の“シャブリ・プルミエ・クリュ×うざく”の組み合わせです。メインは鰻ですが、風味に存在感がある7~8種類の夏野菜や食材を組み合わせ、仕上げにクミンシードも。混在する香り、味わい、食感、スパイスの刺激を融合させ、まとめ上げていくたくましさ。シャブリ・プルミエ・クリュからは、そんな“受け止め力”を、はっきり感じましたので。

蓮見:まさに! プルミエ・クリュは、つまり一級畑のこと。シャブリもこのクラスになると、違う次元に入っていくわけですよ。特定の区画“クリマ”が出てきて、ワインにその固有名を名乗るように。味わいについて言えば、おいしさとかグレードの話ではなく、より個性が際立ってくる。性格がはっきりしているんです。そういうワインに、アジア特有の“口内調味”をぶつける考え方は、とても新鮮だし、正攻法だと思う。個性と個性のぶつかり合いで、複雑さのバランスを取るという。

山本:バランスは大前提ですね。個人的にペアリングでは、「寄り添うか、引き上げるか」のテクニックより、「食べ終えたときに気持ちよいトーン」を大事にしたい。

蓮見:ワインにおいて、味のバランスはとても大事ですね。


◆AOCシャブリ・グラン・クリュ×「海老とトウモロコシの春巻」


大ぶりに切ったクルマエビ、風味の濃い原木しいたけ、旬のトウモロコシを合わせ、太白ごま油でカラリと揚げた春巻き。リッチな上級ラインのグラン・クリュほど、上質な素材をシンプルに調理した一皿がふさわしいことを雄弁に語るペアリング。Chablis Grand Cru, Preuses, 2018, Marcel Servin (輸入元:三幸蓮見商店)

-最後に、シャブリ・グラン・クリュ。これは、言葉どおりの特級畑ですね。

蓮見:土地が持つ個性が、より強くなる畑です。ワインの器もいっそう大きくなって、中に入れられる要素がどんどん増えていきます。

山本:器と許容量のたとえは、とてもわかりやすいですね。ワイン単体で飲んでも懐が深いというか、しっかりと受け止めてくれる包容力が感じられます。だからこそ、料理は変に手を加えず、素材感をストレートに表現するほうが、互いの良さを引き立て合ってくれるのかな、と。それで、この春巻きになりました。

蓮見:もうね、これだけでシャブリ1本飲めちゃう(笑)。味付けも塩だけで、本当にシンプルなんだけど、素材の質の良さ、旨味、その引き出し方も素晴らしく、グラン・クリュの濃度とのバランスがぴたっと決まってる。火と油の使い方を知り尽くした、中国料理のシェフならではの自由な捉え方ですね。逆に教わったことが、たくさんありました。

山本:ペアリングには、いろいろな観点があっていいと思うんです。このワインには、こんな味、この食材、と決めつけるのではなく、実際に飲んで、イメージして、合わせていくことで新しい発見も導き出せる。今回のシャブリ・チャレンジでも、新しい扉がたくさん開いたような(笑)。私も楽しい学びになりました。ありがとうございます!




◎の弥七
東京都新宿区荒木町2-9
☎050-5487-3956
11:30~14:30(予約のみ)
17:30~21:30
日曜休
東京メトロ四谷三丁目駅より徒歩3分
*営業時間や営業形態は状況に応じて変わります。

◎シャブリについてもっと知りたい方はこちら
■日本語公式サイト Chablis.jp

https://www.chablis.jp/





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