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FEATURE / MOVEMENT

発酵デザイナー・小倉ヒラク×料理人・森枝幹「味噌汁で自炊のハードルを打ち壊す!」

2023.11.16

小倉ヒラク×森枝幹「味噌汁で自炊のハードルを打ち壊す!」

【PROMOTION】
text by Naoko Asai / photographs by Masahiro Goda

著書『発酵文化人類学』をきっかけに、発酵ブームを牽引する存在として国内外に発酵好きの輪を広げる小倉ヒラクさんと、未利用魚の活用やアジアの発酵文化を取り入れた料理で「おいしいを拡張する」料理人、森枝幹さん。土着の食文化を再発見して世に送り出す二人が、自炊のハードルを下げる“装置”として味噌汁を捉え直します。

目次







小倉ヒラク 発酵デザイナー。1983年生まれ。体調不良が続いたときに小泉武夫先生と出会い、みそ汁や発酵食品を食べる習慣に。東京農業大学で研究生として発酵学を学び、「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指して、全国の醸造家たちと商品開発やワークショップを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)、『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT PROJECT)など。大学で発酵学の講師も務める。

小倉ヒラク
発酵デザイナー。1983年生まれ。体調不良が続いたときに小泉武夫先生と出会い、味噌汁や発酵食品を食べる習慣に。東京農業大学で研究生として発酵学を学び、「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指して、全国の醸造家たちと商品開発やワークショップを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)、『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT PROJECT)など。大学で発酵学の講師も務める。


森枝幹 料理人。1986年生まれ。食文化ジャーナリストの森枝卓士氏の長男として、幼いころから様々な食文化に触れて育つ。国内外のガストロノミーレストランで修業後、下北沢「サーモン&トラウト」シェフを経て2019年、渋谷にガストロノミータイ料理「CHOMPOO(チョンプー)」をオープン。フードマガジンの発行や飲食店のプロデュースなど、従来の料理人の枠にとらわれない活動を続ける、これからの料理界を牽引する一人。

森枝幹
料理人。1986年生まれ。食文化ジャーナリストの森枝卓士氏の長男として、幼いころから様々な食文化に触れて育つ。国内外のガストロノミーレストランで修業後、下北沢「サーモン&トラウト」シェフを経て2019年、渋谷にガストロノミータイ料理「CHOMPOO(チョンプー)」をオープン。フードマガジンの発行や飲食店のプロデュースなど、従来の料理人の枠にとらわれない活動を続ける、これからの料理界を牽引する一人。


味噌汁は、自炊は面倒くさい派の救世主

小倉 僕は、日本人の食事が品数とか毎日献立を考えるとか、トゥーマッチになっていることに対して問題意識があって。本当はみんな自分の中で言い訳が成り立つ自炊のシステムを作りたいんだろうなと睨んでる。実際、「発酵デパートメント(注:小倉さんが下北沢で運営する発酵食品のセレクトショップ)」で企画するイベントで一番反応がいいのが、「こんな私でも自炊ができました企画」なのね。

森枝 ああ、わかります。以前、食に興味がないという若い社会人と話す機会があって、話していると、別に食べることが嫌いなわけではない。ただ、自分の今の人生の中でやりたいことの優先順位をつけると、食べることに使う時間の優先度が低いだけなんです。昼休みは溜まったメールを返さなきゃいけないし、帰宅したら10時間くらいオンラインのゲームをやるから。そして、お金もできるだけかけたくない。すると、削れるものは食費になってくる。

森枝幹

小倉 僕の周りだと、普段からおいしいものを食べている人ほど、自炊のハードルが無意識に上がるという傾向もある。毎日ちゃんとしたものを作らなきゃいけないというプレッシャーに押し潰されている。幹くんのいう、限りなく食べることに時間を使いたくない層と、自炊のハードルを上げちゃってる層。どちらの受け皿としてもちょうどいいのが「味噌汁」な気がするんだよね。

森枝 ああ、間違いない。

小倉 味噌汁をかなり端折って要約すると、オーセンティックな味噌汁とカジュアルな味噌汁の二つに分かれて、前者は京都の料亭に代表されるようなもの。

森枝 だしを主体に味噌で支える、透んだ液体のイメージですね。

小倉 いっぽう僕は、発酵の歴史をずっと調査しているでしょう。すると、オーセンティックな和食から外れた土着の味噌汁、山菜をいっぱい入れたから、魚のあらを入れたから、だしはとらなくていいや、という具だくさんな味噌汁が各地にあって。もう、全てのものからだしはとれるって考えると、味噌汁作るの、楽なんですよ。

小倉

森枝 おいしい味噌は旨味が強いから、味噌をお湯に溶かしただけでもおいしい。塩分濃度さえ間違えなければ、まずくなりようがない。それこそ味噌汁を「味噌鍋」とかに言い換えて、プレゼンテーションに変化をつけると新鮮に見えるかもしれないですね。


だしをとらない、何度も煮返す、ご飯にかけるはNG行為?

小倉 僕、岐阜県郡上に根付いている「味噌煮」っていうカルチャーに最近ハマりまくっていて。そこに伝わる「郡上味噌」というのが、韓国の味噌にすごく近いんだよ。

森枝 へー!

小倉 韓国の「メジュ」(大豆を発酵させたもので味噌や醤油の材料となる)で造る味噌に似ているんだけど、麹イコール味噌なのよ。そりゃ、だし要らないわって思う。郡上の味噌煮は、家のかまどに置いてある鉄鍋に、郡上味噌と水と古くなった漬物を入れて煮るだけなんだよね。

森枝 それ、めちゃめちゃ旨いですよね。

味噌

小倉 それをずっと継ぎ足し続けて、一週間鍋洗わないのよ。その間、いろいろな食材を入れ続けるの。季節の野菜やサバ缶とか。ちょっと贅沢したい時は身欠きニシンとか。で、それをどうやって食べるかというと、ご飯にかけて食べる。それってカレーだよね。

森枝 油脂とタンパク質を足すほど、だしが補強されていくということなんでしょうね。もう理屈としてわかるし、食いたい(笑)。

小倉 漬物からも味は十分出るしね。味噌煮カルチャーって、特に農業の繁忙期にずっと味噌煮のベースをキープしておいて、手が空いた人から各自食べて、足りなくなったらまた味噌と具を足して、というように永遠に終わらない。ある意味、信じられないくらいズボラ飯なんだけど、でも、もともとこれぐらいのものなんじゃないかな、味噌汁って。だから自炊の原点をここに見たというか。もう、だしさえ要らないし、味噌汁とはこうであるというルールもない。「煮立たせない」とか、そういうすべての作法から自由。

森枝 「味噌漉しを使わなければならない」とか。

小倉 結局、人間の行動が変わる時って、本音と建前がきれいに両立している時だったりするでしょう?

森枝と小倉

森枝 うんうん。

小倉 本音は「面倒くさい。楽したい」。でも建前は、「私はちゃんとしています」と言いたい。それが両立することが、行動の変化を促す、最適なトリガーだと思うんだよね。味噌汁って、伝統食のフォーマットにのっかってるじゃない?

森枝 「味噌汁を毎日作ってます」と言うと、なんとなくイメージがいいですよね。

小倉 全国を見てみると、味噌汁とご飯だけで完結している食生活というのはたくさんあって、その価値を再発見した方がいいと思う。


自炊初心者は‟麹多め”の味噌から始めるべし!

小倉 「味噌汁を自炊のフォーマットに」と話すと、どんな味噌を選べばいいのかと聞かれるのだけど、僕のアドバイスは、「麹の多い味噌を使うと旨いぞ」です。麹が多い味噌は、たいてい旨味と甘味が多い。だから、だしを入れなくても失敗しないんです。科学的に言うとですね、麹の本体って酵素なんですよ。

酵素

酵素は味噌の原料である大豆の栄養分を細かく分解する、ハサミのようなもの。複雑な香りや旨味を作るんですが、人間の味覚って分子量が少ない物質の方が、味覚が働くんですよ。逆に分子量が多いと味覚細胞が反応しづらい。味噌はシンプルだけれど、味噌汁って毎日飲んでも飽きないじゃないですか。それは、麹に入っている酵素の働きで、細かく分解された物質が味覚細胞を刺激するから。さっきから、麹量の多さがポイントだと言っているのは、言い換えれば「酵素の量」が決め手になるということです。

森枝 豆麹をそのまま発酵させた韓国や中国の味噌や醤油も、総じて甘味と旨味が強かったりします。

森枝

小倉 一方で、だしと合わせた方がおいしい味噌というのもあって、それは麹の量が少ない味噌なんだよね。米は麦や豆に比べ貴重品だったから、米麹で作る味噌は麹少なめのものが多い。それだけだとちょっと塩辛いから、だしを足して味の膨らみを作ってあげる。だしとの出会いで磨かれた、大陸にはない日本の美学だと思う。ただ、これから自炊を始めようと思う人がまず手を伸ばすべきは、麹の量が多い味噌。手抜きでも何でもおいしくなる。

森枝 料理初心者が、だしがうまくとれなくて「自分はおいしく味噌汁を作れないのかも」と思ってしまうと、自信をなくしちゃう。それってもったいないですよね。

小倉 今の価値観的にもシンプルな食事に戻りたがっていると思うし。そこにはまる最適なフォーマットは、何度も言うようにやっぱり味噌汁なんだよね。

森枝と小倉

森枝 味噌汁って本来自由だったはずなのに、ハードルが上がったように感じてしまうのは、あれはダメ、これはダメという味噌汁ポリスのせいですね(笑)。

小倉 逆に言うと、参入のハードルが高くなりすぎたものを壊す文化人って定期的に出てくるでしょう? だから今、そういうタイミングなんだと思う。幹くんもそういう役割なんじゃない?

森枝 そうですね。割と得しないポジションという自覚はあります(笑)。

小倉 上がりきったハードルを、いろいろな人に文句を言われながら壊す(笑)。おいしい味噌汁で自炊のハードルを壊していこう!

森枝と小倉


◎みそ健康づくり委員会
https://miso.or.jp/

▼自炊に役立つ味噌レシピはこちら
Instagram:@misokenkozukuriiinkai

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