HOME 〉

FEATURE / MOVEMENT

【前編】カカオ使いをイノベーションする実験室

「~パリ発、チョコレートの祭典~サロン・デュ・ショコラ」がチョコレートを進化させる

2023.12.25

【PROMOTION】
text by Sawako Kimijima / photographs by SALON DU CHOCOLAT Tokyo 2024, Hide Urabe(Top)

この20年、ショコラ界は著しい進展を遂げています。年を追うごとに、作り手の幅は広がり、商品の創造性は掘り下げられ、もはやスイーツとは別の独立したジャンルとして形成されていると言っていいでしょう。その背景に「サロン・デュ・ショコラ」の存在があります。パティシエやショコラティエたちのクリエイティビティを刺激し続ける、いわば“ショコラ界のエンジン”。近年では素材のカカオやその生産国をフィーチャーすることで、サステナビリティへの意識喚起の役割も果たしています。

目次







サロン・デュ・ショコラの現在地

「サロン・デュ・ショコラ」バイヤーの五藤久義さんは、2023年4月から5月にかけての約1カ月間、フランスとスイスのパティスリーとショコラトリーを回る旅に出た。訪ねたのは、フランスのほぼ全土をカバーする26ブランドとジュネーヴの1ブランド、計27ブランド。2024年のサロン・デュ・ショコラに向けてシェフたちとコミュニケーションを取るためだ。移動距離は約6500kmに及んだ。
「フランスのパティスリー界における東京のサロン・デュ・ショコラの位置付けの大きさを実感させられる旅でした。シェフたちが口々に出展の意義を熱く語ってくれるんですよ」

バイヤーにとって新作の依頼とコンセプトの打ち合わせは大切なミッションだが、最近はシェフの方から新作への意気込みを示してくる。感度の高い日本市場で反応を見た上で他国に展開するというシェフもいるらしい。驚くべきことに、初参加を予定するメンバーにはすでにベテランから、心構え、イベントまでのロードマップ、物流など事細かにアドバイスがなされていて、「東京のサロン・デュ・ショコラのためのコミュニティが形成されているのを感じた」と言う。

©Hide Urabe
サロン・デュ・ショコラ バイヤーの五藤久義さん。グローサリーバイヤーとしての経験が長く、食全般に精通する。

バイヨンヌ、コルシカ、アルザス、リール、ノルマンディ、ジュネーヴ・・・シェフ訪問の旅は1カ月に及んだ。優れたショコラティエが地方から発信しているのはフランスならでは。以下、旅の様子と注目のシェフをほんの少しご紹介。

パリ郊外にあるパトリック・ロジェのアトリエで。ロジェはチョコレートの彫刻でも知られる芸術家肌のMOFショコラティエ。五藤さんも彫刻刀を使ってチョコレートの塊を削ってみた。

南仏アヴィニヨン近くの町シャトールナールに店を構えるフレデリック・アヴェッカーは、こんな小さな配達車でお出迎え。欧州は環境に負荷をかけない意識が浸透している。

2021年から出展しているノルマンディのアルバン・ギルメが今回は初来日。地元の名所モン・サン=ミッシェルをかたどったショコラと大人気のサブレをひっさげてやってくる。

アルバン・ギルメとのミーティングで提示されたショコラノート。こういったコミュニケーションがサロン・デュ・ショコラの土台にある。

2024年の初登場は3人。その1人、マチュー・ルルナールはジュネーヴの老舗「マルテル・ショコラティエ」に勤務するが、サロン・デュ・ショコラには自身の名を冠したブランドで参加。2023年にMOFを取得したばかりの注目のショコラティエ。

フランス西部の町アンジェにある「アルティザン・パシオネ」のオレリアン・トロティネシェフも今回初登場。地元産の素材を使い、地元で愛されるパティスリー。ルレ・デセール会員の実力派。

この人も初登場。バスク地方バイヨンヌ近くのリゾート地ビダールのホテル・レストラン「レ・フレール・イバーブー」のパティシエのパトリス。2019年にパティスリーのMOFを取得している。

1995年にパリでスタートしたサロン・デュ・ショコラの日本版として、伊勢丹新宿店を会場に始まったのが2003年。今期で22回目を数える。バレンタインシーズンのチョコレート催事は定番の百貨店イベントだが、サロン・デュ・ショコラはやや性格が異なる。五藤さんいわく、「ショコラを単なるモノとして売るのではなく、作り手に焦点を当て、文化として伝える点が一番の特徴でしょうか」。

サロン・デュ・ショコラがスタートするまで、私たち日本人にとってボンボン・ショコラはポピュラーではなかったし、ショコラティエという職業にも馴染みはなかった。一粒のショコラのために、パティシエやショコラティエがいかに素材を選び、加工するのか、どんな思いを込めて表現するのかを、サロン・デュ・ショコラを通して私たちは知った、と言って否定する人はいないだろう。

日本人のショコラ熱は想定外にヒートアップし、2015年には会場を約1.5倍の広さの新宿NSビルへ移す。コロナ禍を機に再び伊勢丹新宿店に舞台を戻して、会期や構成を一新。2024年は約1カ月と会期を延ばして、従来の2部制から3部制――“Part1 TASTE OF CACAO 広がる、楽しむ、カカオの世界”“Part2 THE ARTISANS ショコラティエ、パティシエの技”“Part3 THE NEXT ショコラの多様性”――へと拡大することになった。

「パート1はカカオを深掘りした世界観を、パート2は世界最高峰のクリエイションを、パート3ではスイーツの枠に留まらないショコラの多様性や可能性を伝えます」と五藤さん。
素材のカカオまで見通す奥行き、スイーツを超えていくアウトプットの拡がり・・・サロン・デュ・ショコラが提示するのは、「ショコラとは何か?」「人間はカカオで何ができるのか?」という問いなのかもしれない。

©Hide Urabe
「会期中、何度も足を運んでもらえるようなコンテンツづくりを心掛けている」


カカオからのアプローチがショコラを変える

カカオ豆の輸入を手掛ける「立花商店」のカカオトレーダー生田渉さんは、原材料を供給する立場からフランスと日本のサロン・デュ・ショコラ、両方を定点観測的に見続けてきた。

「パリのサロン・デュ・ショコラは2010年頃まで、ショコラティエやパティシエによるチョコレートの博覧会といった趣きでした。その後、ビーン・トゥ・バーの気運と並行して、カカオ豆を評価するインターナショナル・カカオ・アワードが会場内で開催されるなど、素材であるカカオをクローズアップする動きが起きた。最近ではカカオ生産国が一堂に会する場になっています」

これまで世界中のカカオトレーダーやチョコレート企業が集まる会議はあったものの、生産者が集う機会はなく、サロン・デュ・ショコラが世界各地の生産者同士のコミュニケーションの場になったのは画期的だという。2023年のパリのサロン・デュ・ショコラでは「メイド・イン・オリジン」として、ニュージーランド、バリ、コートジボワール、ベネズエラ、ジャマイカなど、カカオ生産国が自国産のチョコレートを紹介した。

「ペルーやエクアドル、ニカラグア、メキシコといった国々も、原材料のサプライヤーとしてのみならず、チョコレートの製造に力を入れている。カカオの生産者が自分たちでチョコレートを作るようになると、良質なチョコレートを作るにはどんなカカオ豆が望ましくて、そのためにはどんな栽培をすべきかが見えてくる。自ずとカカオ豆のクオリティが上がることになります」

メーカーをはじめビーン・トゥ・バーの作り手に良質なカカオ豆を供給する立花商店の生田渉さん。現地の課題解決に取り組みながら事業を展開するソーシャル・トレーディング・カンパニーとしての姿勢を大切にする。アフリカやアジア、中南米のカカオ産地と密接な関係を築いている。

©Brunet-Monié - SDC PARIS 2023
2023年のパリのサロン・デュ・ショコラには、カカオ生産国が出展。こちらは、コートジボワールのカカオを直接提供するDIAKITE COCOA PRODUCTSのブース。

©Thomas Raffoux
カカオ生産国の活躍が目覚ましい。2022年のパリのサロン・デュ・ショコラ前夜祭のチョコレートの衣装のショーでは、ペルーのファッションデザイナーRicardo Davila CherresとHugo & Victor のHugues Pougetがコラボでクリエイション。

ここで、ビーン・トゥ・バーの潮流について見ておこう。ショコラの世界が進展した要因のひとつがビーン・トゥ・バーであることは確かな事実だからだ。
ビーン・トゥ・バーが台頭した2010年代前半、先駆けて着手したのは異業種の人々だった。製菓を生業としない人たちが、既存のやり方とは異なるアプローチでチョコレート作りに挑んだ。ビーン・トゥ・バーの先駆け「ダンデライオン・チョコレート」の創業者がインタビューで次のように話している。
「ガレージで自分たちがつくったチョコを、友だちに試食してもらった。彼らはもう市販のチョコはまずくて食べられないと言ってきた。それを聞いて、これはビジネスになると確信したんだ」(『WIRED』vol.12 コーヒーとチョコレート 次世代テック企業家たちのニュービジネス/2014年7月刊)。カカオの世界に「ハック」と「テック」という言葉が持ち込まれ、ビーン・トゥ・バーを語る時にはよく「チョコレートを再発見する」というフレーズが飛び出した。
2000年代前半にはクーベルチュールメーカーがシングルオリジンの商品を展開していただけに、その動きとも相まって、カカオからアプローチするショコラ作りがトレンドになっていく。

日本におけるビーン・トゥ・バーの潮流は2013年頃から。当初はやはり製菓のプロではない作り手が多かったが、次第にパティシエやショコラティエがチャレンジし始める。彼らが手掛けると、使い道はバーに留まらない。バーから先が本来の仕事だから、当然と言えば当然である。自分だけの味やテクスチャー、自分だけの表現を追い求めて、カカオ豆の加工から手掛ける成果は焼き菓子へ、ケーキへ、デザートへと結実していった。


ビーン・トゥ・バーの先へ行く

五藤さんは「ビーン・トゥ・バー」という言い方をしない。「ビーン・トゥ」と言う。五藤さんもまたパティシエたち同様、「バー」の先へ行こうとしているからだ。
「ビーン・トゥを扱う時、タブレットで終わらせたくない。ビーン・トゥ・ボンボン、ビーン・トゥ・ガトー、ビーン・トゥ・サブレ、ビーン・トウ・〇〇〇・・・、カカオを掘り下げたその先で、カカオの世界観を拡げたいのです。そしてもうひとつ、カカオを伝えるには“体感”が重要です。モノとして買って帰る以上に、カカオの知らなかった側面に会場で出会ってほしい。カカオってこんなに面白かったんだって感じてほしい」

一般的な催事の場合、イートインの売上シェアは5%ほどだが、2023年のサロン・デュ・ショコラPart1では17%を占めたという。体験価値を重視するがゆえの構成である。料理人を起用して、イートインでオリジナルのショコラメニューを提供するのも、カカオの新たな価値を見出さんがためだ。

ビーン・トゥ・ビスキュイの代表格、「レガル・ド・チヒロ」のクッキー缶。サントメ産のカカオを使っている。ビーン・トゥをここまで楽しく、親しみやすく仕立てるのは、田中千尋シェフならでは。
ビスキュイ・ショコラ・エスポワール(1缶)¥5,400 原産国:日本 WEB販売あり

カカオ使いのパイオニアと言えば、「アマゾンカカオ」の太田哲雄シェフ。毎回、斬新な発想のメニューをイートインで提供して、スイーツ界の意識改革を引き起こしてきた。カカオマスの塊を削って料理にかける技はいまやポピュラーに。
スープパスタ2024・ガリンペイロ~サムウェアベーカリーのパンを添えて~(1人前)¥3,795

今回のイートインの目玉のひとつが予約の取れないイタリアン「ドンブラボー」平雅一シェフと、平シェフがプロデュースする「クレイジーピザ」柴田正幸シェフのダブルネーム出展。ウガンダ産・ガーナ産のカカオニブが香る白ワインソースとチョコレートを使用するローマの郷土料理牛テールの煮込みを合わせたパスタやホワイトチョコレートを使ったピザを提供。
上:コーダ・アッラ・ヴァッチナーラと 白ワインとカカオのソース〜手打ちの細麺のマッケロンチーニ〜(1皿)¥2,860
下:ハーフ&ハーフピザ 〜クアトロフォルマッジ / ンドゥイヤ・パプリカ・トマト〜(1皿)¥3,520

日本のサロン・デュ・ショコラについて、生田さんは「パリのサロンのエッセンスを残しつつ、独自の編集力で企画性やストーリー性を持たせて、東京ならではの展開を見せた」と指摘する。とりわけ着目するのは、カカオの生産国や生産者をフィーチャーしたフランスに対して、日本ではカカオそのものをフィーチャーした点だ。

「フランスは地理的にも歴史的にもアフリカなど生産国との関わりが強い。その点、ファーイーストの日本は生産国との関係性が遠い。そのハンデを逆手に取って、カカオの食材としての可能性を徹底的に掘り下げた。東京のサロン・デュ・ショコラはカカオの使い方を開拓する実験室と言えるでしょう。世界的に見てもカカオ使いの最前線にある」と太鼓判を押す。


カカオで社会を動かす

カカオの楽しみ方の拡張は、食べ手にとってのみならず、生産者にとっての幸せでもある。カカオの消費量が増えれば、生産者の収入も増える。厳しい経済状況に置かれている生産者たちが少しでも潤うために、カカオの使い道の広がりを、カカオトレーダーとしてカカオ生産国と向き合い続けてきた生田さんは望んでいる。

「カカオ生産国の貧しさは切実な問題です。この20年、カカオの需要も供給も一貫して右肩上がり、国際価格――ロンドンとNYの先物市場で決まる――も上昇して、最近ようやく然るべき額が生産者に支払われるようになってきた。とはいえ、カカオがチョコレートの原料でしかなければ、いつか頭打ちになってしまうでしょう。ガーナやコートジボワールのようにカカオの生産が国家の経済基盤になっている国があり、その一方、小規模農家がそれぞれにカカオ栽培に取り組む国もある。いずれにせよ、彼らにとってカカオが生活の切実な収入源なのです。カカオの需要が掘り起こされて、安定的に伸びるように、もっといろんな使い方が開発されるといい」

カカオとショコラの間には遠くて長い距離がある。カカオの栽培国とショコラの消費国の間には、地理的な距離のみならず、かつては植民地と宗主国だった政治的関係性や経済格差といった世界の構造的な距離が横たわってきた。
サロン・デュ・ショコラがトリガーとなったショコラ熱はカカオ熱を誘発して、少しずつ、カカオとショコラの距離を縮めつつある。スイーツの力で静かに社会を動かしてきたと言えるのかもしれない。


~パリ発、チョコレートの祭典~サロン・デュ・ショコラ 2024


Part1 TASTE OF CACAO -広がる、楽しむ、カカオの世界-
一般会期:2024年1月18日(木)~22日(月) *最終日午後6時終了
参加ブランド:アマゾンカカオ、ペイサージュ、カカオハンターズ、パカリ、エリタージュ、パティスリー ジュン・ウジタ、レガル・ド・チヒロ、ブノワ・ニアン、ネル クラフト チョコレート トーキョー、ル・フルーヴ 他

Part2 THE ARTISANS -ショコラティエ、パティシエの技-
一般会期:2024年1月27日(土)~31日(水) *最終日午後6時終了
参加ブランド:クリスティーヌ・フェルベール、フィリップ・ベル、ベルナシオン、フランク・ケストナー、オリヴィエ・ヴィダル、クリスチャン・カンプリニ、トゥルビヨン バイ ヤン ブリス、アルギン・ギルメ、カンタン・バイィ、リリアン・ボンヌフォア 他

Part3 THE NEXT -ショコラの多様性-
一般会期:2024年2月5日(月)~14日(水) *2月8日(木)は午後4時終了、14日(水)は午後6時終了
参加ブランド:ジャン=ポール・エヴァン、パティスリー・サダハル・アオキ・パリ、ローラン ル ダニエル、イヴァン・シュヴァリエ、ヴァンサン・ゲルレ、ブルーノ ルデルフ、パティシエ エス コヤマ、ナオミ ミズノ、ドゥブルベ・ボレロ、プレスキル ショコラトリー 他

会場:伊勢丹新宿店 本館6階 催物場

公式サイト:https://www.mistore.jp/shopping/feature/foods_f3/salon_du_chocolat_f

(注釈)
※価格はすべて税込。8%の場合と10%の場合があります。

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。