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FEATURE / MOVEMENT

「食」でチャレンジしたい人を応援する

ブルックリン発フードマーケットが大阪に初上陸!

2018.03.08

photographs by Jun Kozai

魅力ある個人店が街をつくる時代




東京で住みたい駅ナンバー1に長らく君臨してきた吉祥寺から各駅停車で2駅の三鷹台という街に、1軒のバルがオープンした時のこと。街では「10年ぶりに新店ができた」と噂になり、それまで三鷹台には帰るだけだった住人たちが新たな灯りに吸い込まれ、やがて店の評判を聞いて遠方から訪れる人々が目指す駅になった。11年経た今、駅の周辺には魅力的な個人店が増え、店を出したい人と住みたい人が同居するエリアになっている。

大きな商業施設が建つと確かに人の流れは変わるけれど、個人が営む小さな店がきっかけとなって街が活性化する事例は、近年ますます増えている。そんな個人の力を街づくりのプロが応援するプロジェクトが、大阪・中津で昨秋スタートした。

グルメイベントではない、食のビジネスインキュベーション*

(*インキュベーションの語源は「卵を孵化する」で、新規事業の創出支援の意味)



10月の最終金、土、日曜日。梅田駅近くの中津の高架下で「スモーガスバーグ大阪」は開催された。
なんとも耳慣れない響きは、様々な料理をビュッフェ形式で食べるスカンジナビア料理「Smorgasboad(スモーガスボード)」と、ニューヨーク・ブルックリンの「Williamsburg(ウィリアムズバーグ)」という地名をかけ合わせたもの。
2011年にウィリアムズバーグのハドソン川沿いの一画で始まった“食に特化した屋台マーケット”がスモーガスバーグだ。(NY現地取材記事掲載『料理通信』2011年10月号はコチラ

スモーガスバーグは、単なるグルメ屋台のイベントではない。出店している店主の多くは「これから店をもちたい人」。いきなり店を開くのではなく、小さな規模でやりたいことをやってみる。商売として成り立つのか、客の反応を探ったり、投資家にアピールできる絶好の“スモールフードビジネスの実験場”なのである。


このスモーガスバーグを、「スモーガスバーグ大阪」の主催者である阪急電鉄と結びつけた「オフィスmusubi」の鈴木裕子さんは、こう語る。
「日本の食がこれだけ世界から注目されているのに、食の起業家を支援する仕組みが不在なことに、疑問を感じていました」

阪急電鉄もまた、「関西で圧倒的No.1の沿線の実現」に向けた梅田エリアの活性化に取り組む中で、大阪の大事な資源である「食」に携わる人材育成の仕組みが必要だと感じていた。

「大阪の人間は食べ物を自分で目利きする。人の評価ではなく、自分で味利きできる舌の肥えた客が多いから、飲食店も切磋琢磨してレベルが高い。食の分野にはクリエイティブで能力の高い人材が揃っているんです。にもかかわらず、個人店がビジネスとして大きく成長するための資金調達が難しかったり、飲食業はきついと若い人たちに魅力ある職場として映らないのを残念に思っていました」と、阪急電鉄不動産事業本部 都市マネジメント事業部長の谷口丹彦さん。 飲食業は、チャレンジングで、面白くて、人に評価される仕事であることを「見える化する」。その仕組みが、スモーガスバーグ大阪だと語る。

「まずは大阪で今、人気のある店にここで競演してもらう。スターシェフたちがアイデアを競い合う姿に憧れ、裾野を広げる意味合いです。そして競演するシェフたちが国境を越えて刺激し合えるよう、海外からの出店も視野に入れています。逆に、ここから海外に出店したいという人には、阪急グループのネットワークを生かしてサポートする。料理人同士の繋がりを越えた人的交流が生まれる場です」

既に顧客のついているプロ同士の競演を何度か繰り返すことで、起業の場としても、店を越えて人材を育成する下地が整うというわけだ。
まだ店をもたない出店者のための共同キッチンや、国内外からスモーガスバーグ大阪を目指してやってくる料理人が泊まれるシェアハウスなどの環境整備も進めていく。

開催地である中津は、大規模開発が予定されている梅田から徒歩圏内にありつつ、飲食店や雑貨店など個人経営の店舗が多く、街歩きが楽しめるエリア。高架下という休眠地を有効利用しながら、大阪の魅力の基盤となる飲食業の人材育成を図り、エリアとしての価値も高めて、資金を循環させる構想だ。



出店者をキュレーションし、“チャレンジする場”を創出

会場内のベンチやテーブルは阪急電鉄が電気コイルの廃材などを提供し、鈴木さんが家具職人にオーダー。


食の都、大阪でスモーガスバーグを実現するにあたり、企画プロデュースを担当した「オフィスmusubi」鈴木さんが今回、最も心を砕いたのは、出店者の人選とスモーガスバーグ大阪が“チャレンジする場”であることを印象づけること。

そこで、大阪で人気の個人店10軒に「次に新業態の店をオープンするなら……」という前提で新メニューを考案してもらい、同時にNYのスモーガスバーグで人気を集める2店の屋台オーナーが来日。
スモーガスバーグ大阪でしか味わえないチャレンジメニューが集結する3日間となった。

どんなメニューが出揃ったかは写真をご覧いただくとして、今や世界からフード屋台を目指して人が集まるNY、スモーガスバーグの生みの親、エリック・デンビー氏のインタビューをお届けしよう。




 NYスモーガスバーグの生みの親、
 エリック・デンビー氏インタビュー




エリック・デンビー氏。音楽、アート、政治、建築に関するジャーナリストとして活動。その後、ブルックリン区長のコミュニケーションディレクターとして働いた経験から、ブルックリンの歴史や街づくりについて知見を深め、2008年スモーガスバーグの前身となる「ブルックリン・フリー」を知人と共同創設。

−−スモーガスバーグがブルックリンでスタートしたのが2011年5月。現在はどれくらいの規模で運営していますか?

エリック:毎週、木曜と日曜に開催し、それぞれ100屋台ずつ出店しています。数年前からロサンジェルスでも開催するようになって、そちらも木曜と日曜に各65屋台が出店しています。

−−スモーガスバーグは最初から「店をもちたい」という人たちのスタートアップ支援の場として考えられていたのですか

エリック:はい。最初から出店者はキュレーションしていました。当時はオフィスもなく、出店者も店をもっていないから、個人の家までテイスティングに出掛けてね。
ただ、出店者を選ぶ基準で「おいしい」ことは最低条件。その上でまず「プロフェッショナルであるかどうか」。スモーガスバーグは屋外のマーケットだから、どんな天候でも忍耐強く屋台を営業できること。
そして「長期的にビジネスとしてどう育てていくか」をしっかり考えているかどうか。2~3カ月稼いで終わり、ではなく長い目でプランをもっている人を選んでいます。
ここ数年はインスタグラムを使ったコミュニケーションが増え、「自分の屋台をどう魅力的に見せるか」というビジュアルコンセプトが成功の鍵となっていますね。今も年間200人以上の面接をしています。


−−大阪に進出した理由は?

エリック:正確に言うと大阪が僕らを選んでくれたのだけど(笑)。2008年にスモーガスバーグの前身となる「ブルックリン・フリー」というフリーマーケットを始めた頃から日本のメディアがコンスタントに取材に来ていて、スモーガスバーグにやって来る観光客も日本人の割合が一番多い。
実は大阪がどこにあるかも知らなかったんですが、昔から食い倒れの街として知られる都市ならば、それを世界に証明する場としてスモーガスバーグが大阪の人たちのモチベーションを高める役割を果たせると思った。

−−「スモーガスバーグ大阪」に出店している屋台の感想は?

エリック:目の前でしゃぶしゃぶを作ったり、七輪で餅を焼いたり、味だけでなく、見て楽しめる要素がある。ホットドッグの店はもう行った? ソースを注射器に入れるアイデアとか白衣のユニフォームとか、すばらしいよ。NYのスモーガスバーグでも昔は調理は奥で、表で出来上がったものを売っていたけれど、最近はお客さんの目の前で調理する屋台が増えている。
生ソーセージと焼売も絶品だね。今朝起きて一番に「また、あの焼売を食べよう」と思ったよ。(談)






























今回はスモーガスバーグという場を日本に紹介するためのキックオフイベント。
2回目以降は出店希望者を募り、鈴木さんがキュレーターとなって運営していく予定だ。
スモーガスバーグという世界に開けた食ビジネスの実験場で、どんな面白い屋台が生まれてくるのか、期待したい。



【スモーガスバーグ大阪に関するお問い合わせ先】
株式会社Office musubi

http://o-musubi.net/







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