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FEATURE / MOVEMENT

和食界きってのワイン通

テタンジェと京料理の幸福な出会い

「京料理 木乃婦」髙橋拓児料理長に聞く

2018.10.11

text by Noriko Horikoshiphotographs by Harry Nakanishi

25年前からワインとのペアリングを提案する老舗料亭

呉服問屋が軒を並べる京都・室町の新町通。洛中の風情を色濃く残す一角にあって、「木乃婦」の紅殻格子の店構えは、はっと目を引かれる美しさ。昭和10年にこの地に創業し、界隈の旦那衆に長く愛されてきた京料理の名店ならではの、雅と落ち着きがにじむ佇まいです。



およそ80年の老舗の暖簾を守る主は、三代目の髙橋拓児さん。京の正調の技法を揺るぎないベースとしながらも、伝統に縛られない発想、自由な素材づかいで、京料理に新風を吹き込んできた“攻め”の料理人。シニアソムリエの資格をもつワイン通としても知られています。

ワインに合わせるためのデギュスタシオンコース「ワイン献立」も、髙橋さんご自身が考案し、店を継いで間もない1990年代後半からメニューとして立ち上げたもの。今でこそ珍しくないワインと和食のペアリングですが、約25年も前の当時、それも京都の老舗料亭での提案は、さぞかし斬新に映ったことでしょう。

「京料理 木乃婦」髙橋拓児さん
大学卒業後、「東京吉兆」での修業を経て「木乃婦」に。先先代の祖父、先代の父に師事した後、三代目に就任。「京料理を世界の家庭料理に」をモットーに、海外での普及啓蒙活動にも力を注ぐ。

シャンパーニュは和の発酵調味料に通じるフレーバーがある




コースの幕開けに登場することが多いのは、香りも泡立ちも華やかなシャンパーニュ。産地も味わいもさまざまなワインの中で、「実はもっとも京料理と合わせやすいのがシャンパーニュ」と髙橋さんは言います。
「シャンパーニュは基本的に乳酸発酵をさせるので、フレーバー自体に日本の発酵食品に通じる発酵臭があります。反対にブドウ本来の香りは白ワインより弱いので、和の伝統調味料、特に薄口醤油や味噌の熟成した味わいともなじみがいい。薄口醤油を舌の上にのせて、シャンパーニュを飲んでみてください。それだけで、もう十分においしいですから(笑)」

「クラスを問わない品質のブレのなさ、安定感がこのメゾンの美質」というのが、髙橋さんのテタンジェ評。左から「プレリュード グラン・クリュ」「プレスティージュ ロゼ」「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」「ブリュット レゼルヴ」。



乳酸発酵の旨味と熟成感でつなげる京料理とシャンパーニュのペアリング。そのハーモニーの妙を表現するにあたって、髙橋さんが選んだのはテタンジェの「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン2006」でした。天候に恵まれた年のみ、グランクリュを含む上級畑で収穫されたシャルドネのみで造られるキュベ・プレスティージュ。合わせる料理は、今が旬の甘鯛と蕪をだしで炊き合わせ、菊菜を添えた鍋仕立ての一品です。


「テタンジェのコント・ド・シャンパーニュを飲んでまず感じたのが、酸バランスの強さ。熟成型のシャンパーニュ特有の旨味もありますが、酸が生き生きしていて枯れていません。この強さに負けないボリューム感のある素材をもってこようと。すぐに浮かんだのが、脂ののった甘鯛と甘味の強い蕪の組み合わせでした」

一見、日本酒が似合いそうな景色ですが、シャンパーニュとの幸福な出会いを引き寄せるべく、目に見えない技と工夫が、そこここに。澄んだ黄金色のだしは、低温で3時間ローストした甘鯛の骨を鍋に仕立てる直前に入れ、ゼラチン質の旨味と香りをほんのり移したもの。ワイン全般と喧嘩しがちなみりんの甘味は減らし、代わりに太白胡麻油をちょんと足して、香味のバランスをとっているそう。甘鯛の身にも、杉の板を焼いて薫香をまとわせる“仕事”をほどこしています。

甘鯛と蕪の鍋
白身魚の中でも特に脂のりがよく、その脂の質も油溶性で濃密な甘鯛を主役に。ほのかにスモーキーな皮目の香ばしさ、骨の旨味を練り込んだだしの風味に出会うと、エレガントなシャンパーニュの奥に潜んでいた意外な力強さに気づかされる。

「熟成型のシャンパーニュには日本酒以上にしっかりした味の幅、厚みがあって、昆布とかつおの繊細なだしでは力負けしてしまいがち。トーストやブリオッシュの香ばしさも特徴としてあるので、ウッディな香りを足すと、舌の上でスムースにつながりやすくなる。さらに、だしにほんのり葛をひいて、シャンパーニュと一緒に味の余韻を長く楽しめるよう、計算しています。全体調和を取りに行く考え方ですね」

テタンジェ コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン
“シャンパーニュ伯爵”の意味をもつ2016年のノーベル賞授賞式の晩餐会でも採用されたテタンジェの最上級キュベ。10年近い熟成で備わるふくよかな風味、乳酸発酵由来の旨味を楽しむには、フルート型やチューリップ型のグラスよりもボルドーグラスがおすすめ。

メゾンとして確固たる味のイメージをもち、
コンスタントにいいものをつくる「老舗の力量」




オフタイムの食卓でも、シャンパーニュを開けることが多いという髙橋さん。個人的には、個性派の多いレコルタン・マニピュラン(ブドウ農家が栽培・製造を行うメゾン)よりも、ネゴシアン・マニピュラン(ブドウを農家から仕入れて製造を行うメゾン)のシャンパーニュにより心惹かれるそう。その筆頭ともいえるテタンジェのシャンパーニュについても、「グランメゾンならではの圧倒的な安定感、バランスのよさ」を魅力に挙げます。

「メゾンとしての確固たる味のイメージがあり、それをブレずに作り続けることができるということ。なぜ、それが可能なのか? いいセラーで熟成させたすばらしいヴィンテージをたくさん持っているからでしょう」




老舗たる力量をもって、時代の嗜好性にもしなやかに添い、現代にふさわしい味に調合して仕立てていくこと。「右と左が決まっているから、基準値から大きくはみ出すことなく、コンスタントにいいものを作れる。懐の深さは、京都の料理人の考え方と重なるところがありますね」と髙橋さん。
シャンパーニュと京料理には、“サスティナビリティ=持続可能性”という旬な接点もあったようです。






◎ 京料理 木乃婦
京都府京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町416
☎ 075-352-0001
11:30~14:00LO
17:00~19:30LO
不定休
昼コース6000円~
夜コース15000円~
(税、サービス料別)
京都市営地下鉄四条駅より徒歩5分



◎「テタンジェ」に関する情報
http://www.sapporobeer.jp/wine/taittinger/



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