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FEATURE / MOVEMENT

【対談】「ラ・ブリアンツァ」奥野義幸×「サイタブリア」石田聡「これからのレストラン経営に求められること」

2023.03.23

【対談】「ラ・ブリアンツァ」奥野義幸×「サイタブリア」石田聡「これからのレストラン経営に求められること」

【PROMOTION】
text by Kei Sasaki / photographs by Hiyori Ikai

「ReNEW~人々に活力を与え、社会を活性化させるレストランの役割をあらためて見直そう」をテーマに、4月3日(月)~16日(日)まで都内約30店舗で開催されるアメリカ食材や食文化に出合えるフードイベント「TASTE OF AMERICA 2023」。2年ぶりの開催を記念して、日本のレストランシーンを牽引するオーナー2人に、これからの時代のレストラン経営について語ってもらいました。

奥野義幸

奥野義幸 Yoshiyuki Okuno
「ラ・ブリアンツァ」グループ・オーナーシェフ。イタリア修業を経て2003年独立。現在はリストランテからカジュアル店まで国内に7店舗を展開。国内外のレストランコンサルティング、商品プロデュースも手掛ける。2022年には茨城県つくば市に再生可能エネルギー開発企業(NOVAL)と共同でテスラのチャージステーションに併設した「Pasta Magari(パスタ・マガーリ)」を開店。

石田聡

石田聡 Satoshi Ishida
「サイタブリア」代表取締役。グローバルダイニングを経て2000年に独立。現在はミシュラン三ツ星「レフェルヴェソンス」をはじめ、「ラ・ボンヌ・ターブル」(一ツ星)、ベーカリーレストラン「ブリコラージュ」、「CITABRIA BAYPARK」など6軒の飲食店と、ラグジュアリーブランド主催のパーティなどを対象としたケータリングサービス、オーダーメイドケーキの製造販売も手掛ける。


「今しかできないこと」を考え、実践した

ファインダイニングからカジュアルレストランまで、スタイルの異なる複数の店を経営しながら、常に日本のレストランシーンの先頭に立ち続ける奥野義幸さんと石田聡さん。コロナ禍においても立ち止まることなく、アグレッシブに新しい挑戦を続けてきた。
「コロナの影響について、実はあまり悲観しなかったんですよね。すぐによくなるだろうと。だから、普段やりたいと思いながらできてこなかったことを今やろうというふうに、すぐに切り替えられたんです(奥野さん)」

二人を動かしてきたのは、その「今しかできないことをやる」という姿勢だ。最初の緊急事態宣言が発令され、レストランが休業を余儀なくされた2020年4月、石田さんはトップシェフたちと共にコロナの最前線で闘う医療機関の人々へ食事を届ける「スマイルフード・プロジェクト*」を立ち上げる。多くのレストラン経営者や生産者を巻き込み、未曽有の事態になすすべもなく立ちすくむ飲食業界全体を活気付けた。
「店を開けられない状況で、“飲食業界は弱い”と思われているのが腹立たしかった。腕一本で生きてきた“レストラン人”は、そんなに弱くないということを示さなければ、と(石田さん)」

石田さんは旗艦店「レフェルヴェソンス」の刷新にも着手。休業期間中に内装を一新し、コンセプトもサービスも一から見直して再スタートを切った。決断は功を奏し2021年、『ミシュランガイド東京』で初の三ツ星を獲得する。
奥野さんは、“令和の鎖国時代”に、あえて海外プロジェクトに着手。米国・カリフォルニアを拠点にレストラン展開を手掛ける企業とタッグを組み、2022年「東京×イタリアン」をコンセプトとするレストランをプロデュース、ハリウッドにオープンさせた。

改装後の「レフェルヴェソンス」(東京・表参道)店内。コースの中身も価格もがらりと変えて再オープン。

改装後の「レフェルヴェソンス」(東京・表参道)店内。コースの中身も価格もがらりと変えて再オープン。

奥野シェフは100席規模の大箱「Magari」(現閉店)をハリウッドにプロデュースした。

奥野シェフは100席規模の大箱「Magari」(現閉店)をハリウッドにプロデュースした。

「今しかできないこと」は、表向きの発信や、派手なプロジェクトばかりではない。飲食店経営者同士、横のつながりを築けたのも大きな成果だったと二人は口を揃える。
「平時の悩みは店ごとに違うけれど、コロナ禍で同じ問題に直面すると、業界として、外食産業全体としての問題が見えてきた。世代や店の業態を超え、多くの経営者と問題意識を共有し、意見交換できたことは意味があったと思います(石田さん)」
「スタッフ教育の好機にもなった」とは、奥野さん。
「思うように店を開けられない状況下だからこそ、営業ができる日は最高のサービスをしよう、となる。最高のサービスとは何か、一人ひとりが何をすればいいのか。激務に追われ、右から左に仕事を“こなす”毎日では確認し合えなかったことを、一つひとつクリアにする充実感がありました。結局は、原点回帰なのですが(奥野さん)」


一人ひとりが自分にしかできない役割を演じると、レストランは“景色”になる

2023年に入り、飲食業界は緩やかに日常を取り戻しつつあるが、人々の価値観、行動様式は、以前とは大きく変わった。まさに「ReNEW」の時代。今、人々はどんなレストランを求めているのか。
「ますます“顔が見える店”が求められていくと思います。おいしさや、雰囲気のよさも大事だけれど、あの人が作る料理が食べたい、とか、あのサービスマンと話がしたい、とか(奥野さん)」
振り返れば、コロナ禍にあってもそういう店は元気で、人が集まっていた。
「私も個々で勝負しろ、個々でゲストとつながれと、常々スタッフに話しています。サービススタッフには、特に厳しく。間違いがないという意味で安心なサービスは、AIにとって代わられる。これから、その技術はもっと進化するでしょう。では人間にしかできないサービスは何か。温かさだったり、人の心をつかむチャーミングさだったり。一人ひとりが、自分にしかできない役割を演じる。するとレストランは“景色”になるんです(石田さん)」

個が輝くサービスを、二人は「アメリカのレストランシーンから学んだ」と話す。マニュアルに頼らず、ゲストとフランクにジョークを交わしながら、スマートな所作で場を華やかにする。現地を旅したことがある人ならば、そんなシーンが思い浮かぶはずだ。
「この1、2年、カリフォルニアのレストランで仕事をして感じたのは、働く人たちが皆楽しそうなんですよね。営業中の忙しさはすさまじく、全員が必死の形相になるのですが、厨房とホールの不毛な対立も、年功序列のシステムもない。女性もばんばん活躍している。楽しい空間から生まれるサービスの、ポジティブな空気は必ずゲストに伝わりますから(奥野さん)」

石田さんも、独立開業する前にアメリカに渡り、ニューヨークとロサンゼルスを中心に2カ月間、レストラン巡りの日々を過ごした。今から20余年前のことだ。
「サービスは、ショウでありエンターテインメントでした。プロフェッショナルたちが競い合うようにパフォーマンスを繰り広げる様子は、ダイナミックで刺激的だった(石田さん)」
圧倒されたが、「同じ土俵で勝負できる店がつくれる、と思った」とも話す。ダイナミックなエンターテインメント性に、日本ならでの細やかなサービス、ホスピタリティを融合させ、2001年に開業したのが「サイタブリア」(2010年閉店)だった。高級店でありながら、クラシックなガストロノミーレストランとも違うスタイリッシュでライブ感あふれるファインダイニングは、東京のレストランシーンの新しい価値そのものだった。

石田さんが独立を決めた2000年に2カ月かけて旅したアメリカ西海岸での一コマ。

石田さんが独立を決めた2000年に2カ月かけて旅したアメリカ西海岸での一コマ。

帰国して開いた「サイタブリア」(東京・表参道)は今も語り継がれる伝説の店。

帰国して開いた「サイタブリア」(東京・表参道)は今も語り継がれる伝説の店。

「ところがリーマンショック(2008年)を機に、サイタブリアのようなファインダイニングの活況は陰り始め、サービスマンが活躍の場を失っていったのです(石田さん)」
「サイタブリア」を閉めた石田さんが、世界のモダンガストロノミーの流れに符合するイノベーティブなレストランを、とオープンしたのが「レフェルヴェソンス」。それから13年、「常に試行錯誤です」と話しながらも、先述したミシュランガイドでの評価しかり、東京を代表するレストランの一軒として輝き続けているのはご存じの通りだ。


チームのパフォーマンスを上げるには「待遇」と「教育」が必要

しかし飲食業界全体を見れば、リーマンショック以降、飲食店の小型化が明らかに加速した。経験豊かな料理人から若手まで「ワンオペ」の店が、都心部から離れた地域に増え続ける。
「例えば、奥野さんのように、料理ができて経営もわかっていて、ワインの知識も豊かで語学も堪能。となれば一人で店ができてしまうんです(石田さん)」
もともとカウンター文化があるので、小さな個人店は日本人になじむ。先述の「顔が見える店」という観点から見ても、ワンオペに勝る業態はないだろう。

「ただ、そこに生まれる“景色”は別のもの。自分が追及してきたのは、チームでつくるレストランです。料理人、サーバー、ソムリエ、レセプションと皆が持ち場でパフォーマンスを発揮して、それが一つになったときに生まれるライブ感(石田さん)」

個々が輝きながら、チームとしてのパフォーマンスを高め、レストランのシーンを守るために。必要なものは、「待遇」と「教育」であると二人は話す。そして双方を支えるのが、健全で強固な経営基盤だ。

個々が輝きながら、チームとしてのパフォーマンスを高め、レストランのシーンを守るために。必要なものは、「待遇」と「教育」であると二人は話す。そして双方を支えるのが、健全で強固な経営基盤だ。

「従業員の待遇をよくするためには、会社として利益を生み出し続けなければいけない。オーナーシェフやオーナーソムリエが経営についての話をし出すと、“金儲けに走った”と非難されたりすることがありますが、いい料理を提供し、いい店を作ることと、利益を出すことは矛盾しない。それどころか、健全な経営はいい店づくりの必須条件です(奥野さん)」

「奥野さんの意見に賛成ですね。飲食店経営は労働集約型ビジネスで、初期投資や運転コストもかかり、利益率に上限がある。そのことを前提にしたうえで、どうしたら利益を生み出せるのか、考えなければならない。従業員にお金の管理をさせないオーナーが多すぎるのは問題です。原価計算や人件費の管理、損益分岐点など、何も知らずに何年も働いて、独立してから、手探りで“忙しいのに、なぜか金が残らないな”となってしまう(石田さん)」

経営の原則がわからないと楽しくないし、楽しくないと利益が出ない。アメリカのレストランで印象的だった、楽しそうに働くスタッフも、給与やチップという形のリターンがあるからだという。
「人が楽しく働けるか否か。大部分は、給料ですよ。僕はまず、初任給を高くすべきだと思う。初任給で比較して、レストランの月給が20万で、他に月給40万の企業を選べるとしたら、どっちで働きたいか。これでは飲食業界で働く人がいなくなってしまう。ベースアップではだめ。実際、うちや石田さんのところのような、6~7店舗もあるような会社になると、年間の求人にかける費用もバカにならない。その分を給与に回して、人が離れない組織にすることはできると思うんです(奥野さん)」

「教育に関しては、やれることをやってきた。サービスは特に教えにくいけれど、座学もテストもやり、そこに配属異動などの人事、給与の査定を結び付けていく。安心を与えながら、脇見をさせない仕組みづくりというか、常に前を向かせる方法を考えています。経営に関しても、早い段階から数字を見せ、責任を負わせることが大事(石田さん)」

「教育に関しては、やれることをやってきた。サービスは特に教えにくいけれど、座学もテストもやり、そこに配属異動などの人事、給与の査定を結び付けていく。安心を与えながら、脇見をさせない仕組みづくりというか、常に前を向かせる方法を考えています。経営に関しても、早い段階から数字を見せ、責任を負わせることが大事(石田さん)」


「レストランは楽しい」を次の世代へ

サービスマンは絶滅危惧種なのか。チームでつくるレストランは持続可能なのか。業界全体が、そんな問題意識を共有する中、2023年1月、衝撃のニュースが飛び込んできた。世界のベストレストラン50で5度の1位を獲得したデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma」が、翌年(2024年)いっぱいでの通常営業休止を発表したのだ。
「常に満席で、客単価も数十万。しかも世界中から集まるスタジエの多くは無給。そこがサステナブルでなかったという話もありますが(奥野さん)」
「レネ(・レゼピ、nomaのオーナーシェフ)から真意を聞いたわけではないので、なんとも言えないのですが。一皿にかける手間、つまり人手、エネルギーが、桁違いだったように思う。まだ誰も見たことがない、新しい“作品”を生み出すために。そのやり方、アートとしての料理の探求に限界がきたのかな、と。わからないですが(石田さん)」

nomaの一件が世界の、日本のレストランにどんなインパクトを与えるかは、もう少し時間が経たないとわからない。が、今はレストランという場のすばらしさと、チームでサービスをつくり上げる喜びを、後の世代に伝える。それこそが、これからのレストランオーナーの、少なくとも自分たちの責務だと奥野さん、石田さんは話す。

レストランが生き残るために、事業形態、収益の分散化が必須だと考えます。

「レストランが生き残るために、事業形態、収益の分散化が必須だと考えます。例えばコンサルティングや、業務委託など。ブランド力が評価されれば、例えば商業施設への誘致など、投資リスクの低い出店のチャンスも増えるわけですから(奥野さん)」
「これからは地方も面白そう。すでに“ローカルの時代”なんて言われているけれど、まだまだできていないことがたくさんある。東京や大阪から地方を目指す料理人は増えているけれど、シェフ1人では何もできない。地域企業や行政も巻き込んで、プロジェクトとして各地に成功例をつくっていかないと。そのためには飲食の経営がわかるコンサルタントが不可欠だと思います(石田さん)」

レストランそのものの持続可能性が問われる一方で、フードロスやSDGsへの取り組み、生産者や産地のバックアップなど、レストランに求められる役割もますます増えている。
「一つひとつ丁寧にやっていくしかない。丁寧に、かつ素早く、派手に。存在感を示し続けなければ、20年のキャリアなど、一瞬にしてなきものになってしまう(奥野さん)」
タフな飲食業界の一線を走り続け、サバイブしてきたオーナーの、説得力ある一言だ。

ローカルのレストランが活気付き、東京の食べ手が地方を目指す。「フーディー」と呼ばれるゲストは、国や地域の枠を取り払って、世界中からピックアップした好きな店を食べ歩く。あらゆる意味でボーダーレスな時代、「東京のレストラン」に求められるものは何なのか。果たすべき役割とは。その答えと、自身の店でやるべきことを突き詰めて考えながらも、表情は明るい。夢を持って飲食業に飛び込んだ二人、レストランは楽しい――集まる人を元気にし、町そのものをつくる――場であることを、次の世代にも示していきたいからだ。

トークセッション後は奥野シェフの料理デモンストレーション。「ReNEW」をテーマにアメリカの農産物を使ったメニュー2品を披露した。

トークセッション後は奥野シェフの料理デモンストレーション。「ReNEW」をテーマにアメリカの農産物を使ったメニュー2品を披露した。

「タコスは自由。西海岸ではクリエイティブで小ぶりなタコスを、手巻きずしのように楽しむ」とトスカーナの赤ワイン煮込み「ペポーゾ」からイメージを膨らませたアメリカンビーフのブリスケBBQを挟んで。

「タコスは自由。西海岸ではクリエイティブで小ぶりなタコスを、手巻きずしのように楽しむ」とトスカーナの赤ワイン煮込み「ペポーゾ」からイメージを膨らませたアメリカンビーフのブリスケBBQを挟んで。

ヒヨコ豆とタヒニ(ゴマペースト)で作るのが一般的なフムスを、アメリカ産有機ヒヨコ豆に白味噌と豆乳を加えて作った一品。

ヒヨコ豆とタヒニ(ゴマペースト)で作るのが一般的なフムスを、アメリカ産有機ヒヨコ豆に白味噌と豆乳を加えて作った一品。

「TASTE OF AMERICA 2023」を主催するアメリカ大使館農産物貿易事務所のチャンダ・バーグ所長(左)と青木純夫さん。
「TASTE OF AMERICA 2023」を主催するアメリカ大使館農産物貿易事務所のチャンダ・バーグ所長(左)と青木純夫さん。

「TASTE OF AMERICA 2023」を主催するアメリカ大使館農産物貿易事務所のチャンダ・バーグ所長(左)と青木純夫さん。

<お二人の対談、奥野シェフのデモンストレーションの様子はこちらから>



<TASTE OF AMERICA 2023>
開催期間:2023年4月3日(月)~16日(日)
参加店舗:都内のレストランやカフェ、ベーカリーなど30店舗以上でアメリカ食材や食文化に出合えるスペシャルメニューを提供します。
https://tasteofamerica.jp/

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