HOME 〉

FEATURE / MOVEMENT

世界のアーバン・ファーミング事情 vol.2<NY>

都市農業をビジネスとして成立させた屋上農園

2022.04.15

世界のアーバン・ファーミング最新事情 vol.2 都市農業をビジネスとして成立させた屋上農園

text by Akiko Katayama/photographs by ©Brooklyn Grange

連載:世界のアーバン・ファーミング事情


2019年5月に「世界のアーバン・ファーミング最新事情」としてお届けした記事を再公開します。都市でできる究極の地産地消であり、サステナブルな食物生産の営みに直に触れる機会にもなるアーバン・ファーミング。改めて知りたい都市型農業の事例です。


ニューヨーク市内の2つのビルの屋上に展開する広大な農地で、年間23トンもの青果を生産する「ブルックリン・グレインジ」。創業者の一人、ベン・フラナー氏は「現代人が忘れかけているサステナブルな食物生産に、直に触れることのできる場を提供したいという思いから、2010年にこのビジネスを興しました」と話す。

*TOP写真:生産ピーク時には農園ツアーなど一般向けのワークショップを連日開催。市内に今夏開く予定の3つ目の農園でも多くのクラスを提供する。

屋上農園の利点は大きい。大都市の真ん中にあればこそ、より短時間で収穫したての商品を配達できるし、顧客のシェフが気軽に農園を訪れ、食材の価値を再認識する機会を提供できる。また環境保護への貢献度も高い。太陽熱の有効活用、土壌の断熱効果を通じたビルの効率的な温度管理、雨天の際、許容量を超える市内の排水処理システムへの負担軽減など、その効果は様々だ。

6000平米という広大な敷地に800トンの土を運び入れて造った農園は、コンテナを並べた他の屋上農園に比べ耕運機の利用も可能になり、効率性が高い。

6000平米という広大な敷地に800トンの土を運び入れて造った農園は、コンテナを並べた他の屋上農園に比べ耕運機の利用も可能になり、効率性が高い。

敷地内の温室で育った苗木を実際の土壌へ移動。コストと手間を考慮して公式認定は受けていないが、生産物は実質全てオーガニックだ。写真中央がベン・フラナー氏。

敷地内の温室で育った苗木を実際の土壌へ移動。コストと手間を考慮して公式認定は受けていないが、生産物は実質全てオーガニックだ。写真中央がベン・フラナー氏。

しかしビジネスである以上、収益性も重要である。大都市でかさむ家賃や人件費など諸々のコストを踏まえ、利益率の高い生産物に集中。コーンや瓜など育成に時間と場所をとる食材は避け、青菜、トマトほか50種の青果を中心に栽培する。卸先はレストランが中心。ファーマーズマーケットなどを通じて一般にも販売する。また年間を通じて養蜂や自家菜園作りほか多彩なワークショップを開催し、一般に農業を啓発すると同時に、冬季の収入減の軽減を補っている。

そして今や収益の50%を占めるのがコンサルティング。農園の成功を耳にした人々の依頼で、レストランの屋上菜園造成から、市の菜園構築の助成金確保のためのアドバイスまで多彩な依頼に応じている。フラナー氏いわく「サステナブルな食物生産には、サステナブルなビジネス経営が前提。理念と収益のバランスを目指し毎日試行錯誤の連続ですが、その価値は十分です」。



料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。