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FEATURE / MOVEMENT

世界のアーバン・ファーミング事情 vol.1<Paris>

屋上で循環型農業を学ぶパリの名門料理学校

2022.04.08

text by Junko Takasaki / photographs by Le Cordon Bleu, ECOVEGETAL

連載:世界のアーバン・ファーミング事情


2019年5月に「世界のアーバン・ファーミング最新事情」としてお届けした記事を再公開します。都市でできる究極の地産地消であり、サステナブルな食物生産の営みに直に触れる機会にもなるアーバン・ファーミング。改めて知りたい都市型農業の事例です。


パリでもアーバン・ファーミングは今、注目のテーマ。現パリ市長の肝いりで、市内の屋上と壁面の合計100ヘクタール分を緑化する5カ年計画が進行中だ。その3分の1が農地利用を目的とされ、対象地域にはバスティーユ・オペラ座の屋上もある。

美食の都を自認するパリで、料理業界がその動きを見過ごすわけもない。中でも最大規模の行動を起こしたのは、1895年創業の名門料理学校「ル・コルドン・ブルー」だ。2016年の新校舎竣工に際して、屋上に約800平米の農園を設けた。

*TOP写真:生徒と共に屋上農園でジャガイモを収穫するエリック・ブリファール校長。MOFの見識と技術に加え、料理人が持つべき素材への姿勢を教える。

灌水は雨水、地表温度管理には調理場の排気熱を活用し、実習で出た生ゴミを肥料にする循環型農業を採用。収穫物はもちろん調理実習で用いる。屋上農園での体験授業もあり、調理コースでは野菜、製菓コースでは果物の栽培を学ぶそうだ。

「作物の特性や栽培法に加え、都市農園の意義そのものを教えています。これからの料理人には有益な知識です」。そう語るローラ・カリーヨさんは関連授業の講師を務め、農園の設営管理を外注で担う「エコヴェジェタル社」の造園エンジニアでもある。
「自店屋上で採れた食材を用いることは、究極の地産地消です。鮮度の点で上を行くものはありませんし、顧客に対して強いアピールポイントにもなります」

屋上ならではの日照を受け成長するトマトの苗。味覚的な遺産の継承を目指し、作物選別の際は古代種も積極的に取り入れる。

屋上ならではの日照を受け成長するトマトの苗。味覚的な遺産の継承を目指し、作物選別の際は古代種も積極的に取り入れる。

屋上農園の一角には、養蜂家の管理で蜂の巣箱を設置。作物の受粉を促す他、ハチミツという嬉しい副産物をもたらしてくれる。

屋上農園の一角には、養蜂家の管理で蜂の巣箱を設置。作物の受粉を促す他、ハチミツという嬉しい副産物をもたらしてくれる。


設備荷重の多い料理学校の特性上、建物全体の軽量化のためにも屋上農園は有益だった。全緑化面積のうち約200平米に作付け。

設備荷重の多い料理学校の特性上、建物全体の軽量化のためにも屋上農園は有益だった。全緑化面積のうち約200平米に作付け。

地上3階以上の屋上農園なら、大都市でも排気ガスの影響は少ない。害獣対策や構造計算を専門家に任せる点を留意すれば、料理人にはメリットばかりと言える。しかもその収穫物を軸に考えれば、メニューは自動的に、季節に即した内容になる。
素材主義のますます強まる現代フランス料理界、屋上菜園はクリエイション面でも重要なファクターなのだ。


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