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FEATURE / MOVEMENT

ARITAが見据えるこれからの400年

究極の器で至福の佐賀の食中里太郎右衛門陶房編

1970.01.01

text by Kei Sasaki / photographs by Hide Urabe



土の温もりを感じる古唐津の魅力を今に伝える。




唐津は有田、伊万里と並び、歴史ある焼き物の産地として知られています。その中でも安土桃山時代から続く名門窯が中里太郎右衛門陶房。有田の酒井田柿右衛門、今泉今右衛門と並び「肥前の三右衛門」と称される、佐賀県を代表する窯元です。現当主は美大で彫刻を学んだ後、多治見陶磁器意匠研究所、国立名古屋工業試験場を経て1983年に太郎右衛門陶房にて作陶を始めました。翌年、27歳という若さで日展初入選を果たしたのを皮切りに、数々の賞を受賞。2002年に十四代目を襲名し、古唐津の継承者として作陶を続けています。

唐津焼の展示・販売をする陳列館は9時~17時半まで開館。今年の6月から水曜が休館日になりました(祝日の場合は翌日が休館)。



敷地内には五代目が享保19(1734)年に唐人町に開いた御茶盌(おちゃわん)窯跡が今も残されています。大正年間まで御用窯として活躍したこの御茶盌窯。現在は国の史跡に指定されていて、近ごろ日本遺産にも登録されました。陳列館とともに見学することができます。雅な数寄屋造りの建物は1960年代に完成したもの。3つの登り窯があり、今も月に一度、それぞれの窯に火が入ります。



日本で最初に朝鮮から登り窯が入った土地が唐津。階段式の登り窯は部屋が多く、一度にたくさんの器を焼くことを可能にしました。

心の持ちようを映し出す焼き物に、無心で向き合うために。

有田焼の魅力が繊細さ、緻密さにあるとするならば、唐津の魅力は温かみや柔らかさにあるといわれます。中里太郎右衛門陶房では、古唐津をベースに、陶器ならではの土の風合いがある作品づくりが行われています。ろくろは昔ながらの蹴回しで、登り窯で行われる焼成には薪が使われます。ほかに、板を使った叩きづくりという成型方法も受け継いでいます。古唐津の甕や壺に用いられている方法で、「叩きの名手」といわれた十二代は、唐津で初めての人間国宝に認定されました。その後、日本芸術院会員となった十三代がその技を引き継ぎ、現在は十四代が継承しています。

足でろくろを蹴りながら回転させる昔ながらの「蹴(け)ろくろ」で今も作陶は続けられています。

焼成後は中2日ほど熱が引くのを待って、3日目に窯から出されます。

焼き物は同じ材料で、同じ技法で、同じようにつくったつもりでも、5年前、1年前と今日では違うものができる。太郎右衛門さんは、そう言います。それが、難しい点であり、おもしろい点でもあるのだそうです。「今、59歳なのですが、ここ数年、ようやく力を抜いて作陶できるようになった。そしてそのほうが、より自分らしいと感じるものができることが多いと気付いたんです」。力も、魂もめいっぱい込めて作陶していた若い頃より、自然体でつくる今のほうがよりよいと感じるものができるのはなぜなのか。考えて、ひとつの結論にたどりつきました。

「作品には、作陶時の心の持ちようがそのまま反映される」

技術や知識だけでなく、これまで生きてきた中で身に付けた見分、日ごろの生活の中で培われる精神。焼き物はそれらをすべて映してしまうのだと太郎右衛門さんは言います。よりよい作品を生み出すために。陶芸のことに限らず見識を広げ、平穏な精神状態を保つべく体と心を整える。作家人生はまだまだこれから。太郎右衛門さんは、今一度、気を引きしめ直したところだと言います。

今の暮らしや食生活に活きる“モダン”とは。





「“食の器”と書いて“食器”となることからもわかるように、料理が主役で器は脇役なんじゃないでしょうか」。これが、料理と器に関する太郎右衛門さんの考えです。では、器を使う際に大切にすべきことは何かと尋ねると「サイズなのでは」という答えが返ってきました。「同じ料理でも大鉢に盛り付けるのと、小鉢に分けるのでは、まったく表情が変わってしまうので。器そのもののサイズ、盛り付ける料理のスケール感に気を配ると、いろいろな見え方が変わってくるように思います」。




古唐津をベースに、陶器ならではの土のぬくもりを大切にした器は、時代を超えて「これからのモダンになりうる」と太郎右衛門さんは言います。

現代は、若い世代を中心に、和洋のテイストをミックスさせたモダンな住空間や家具、器が支持される時代です。モダンとはなにか。そんなことを考えながら太郎右衛門さんは昨秋、パリを旅しました。
「建築から舞台、食まで、パリでモダンといわれるありとあらゆるものを見た旅でした。大変に刺激的でしたが、少々、食傷気味になって帰国したのも事実でした」。工房でふだん何気なく扱っていた1枚の皿が目に止まったのは、そのときです。「土の温かみ、自然の釉薬が生む発色、薪の火の気配を感じるテクスチャー。それまで当たり前だと思っていた唐津が、パリで目にしたあらゆるものよりもモダンに感じたんです」。唐津は現代に生きる人々の和洋折衷の食生活やライフスタイルに寄り添う、これからのモダンになりうる。太郎右衛門さんはそう、確信したのです。





つくり手の気持ちが入った器は、使いやすい
~料理家・松田美智子さん~

「日々料理をつくって生活しているので、鑑賞用のものよりも、料理の入れ物としての器に接する機会が、当然ですが圧倒的に多い。料理が映える上に、眺めて気持ちが豊かになるような器に出会えたら、それは幸せですよね」。料理家の松田美智子さんは、そう話します。好みは清潔感のある白い器か、逆に濃いめのベースカラーに1、2色をプラスしたベーシックで落ち着いたトーンのもの。「私の専門は家庭料理。料理屋やレストランの料理と違って、洋食や洋風の料理であっても、箸で食べるものがほとんどです。当然、和食器との相性はいい。中里さんのシンプルで温かみのある皿なら、パスタなども十分映えると思います」。





ふだん食べ慣れた家庭料理を唐津に盛ると、独特の落ち着きと土の温かみが料理を引き立ててくれます。

畳敷きの和室中心から、テーブルと椅子の生活様式に変わるにつれて、日本人の生活に活きる器も変わりつつあります。でも、「どんなにライフスタイルが変化しても、日本人がふだん食べる家庭料理と和食器には親和性がある」と、きっぱり。仕事柄、器の産地に足を運ぶ機会も多いという松田さん。さまざまな工房を訪れ、作家と会って感じたのは「つくり手の気持ちが入った器は、使いやすい」ということだと言います。





焼き物を軸にしたアートを唐津から発信する。

唐津焼の起源については諸説ありますが、文禄元(1592)年の豊臣秀吉による朝鮮出兵より前という説が有力。今年400周年を迎える有田焼同様、非常に長い歴史を有する伝統工芸品であることは間違いありません。その歴史を未来につなぐために。太郎右衛門さんは、どのようなビジョンを抱いているのでしょうか。「私には夢があります」と、笑みをこぼしながら短い前置きを挟んで、その内容の一部を明かしてくれました。「私の仕事は陶芸家です。だから焼き物をつくることに日々心血を注いでいるのですが、それと同じ気持ちで唐津の町をつくりたいんです」。

世界に誇れる長い歴史と高いクオリティをもつ唐津焼の文化を、唐津から日本全国、そして世界へと発信していく。足がかりはもうできていると言います。「まずは美術館をつくること。400年の歴史がありながら、これまで唐津焼の美術館というものがなかった。父、十三代中里太郎右衛門が収集した古唐津を中心とした美術品約16000点を唐津に寄贈しています。美術館は5年後には完成する予定です」。シャッター街になりつつある唐津の商店街には、アンテナギャラリーを。美術館を起点に回遊できる町をつくり、唐津焼は知っていても唐津に来たことがなかった人たちを町に呼び込むのが狙いです。また、音楽と焼き物のコラボレーションという、これまでになかった試みも動き始めています。唐津出身の若き篠笛奏者・佐藤和哉さんとコラボレートし、全国各地で音楽を絡めた個展を開催。食、芸術、音楽。唐津焼とそれを取り巻くものたちを総合芸術として伝えていく。一作家という枠を超えて。中里太郎右衛門と唐津焼は、まったく新しい時代を迎えようとしています。

究極の器で至福の佐賀の食!
佐賀県が誇る人間国宝と三右衛門の器をUSE(使う)!




佐賀の食材にこだわったメニューを、佐賀県が誇る人間国宝と三右衛門の器をUSEして(使って)提供します。“使う”をコンセプトにしたUSEUM ARITAならではの貴重な体験です。

会期      2016年8月11日(木)~11月27日(日)

場所      九州陶磁文化館 アプローチデッキ 「USEUM ARITA」

営業時間    10:00~16:30  ※月曜休館/月曜日が祝日の場合は会館

メニュー    朝御膳、昼御膳、スイーツセット

お食事時間帯 メニュー 税サ込価格
10:00~11:00 ブランチタイム 人間国宝、三右衛門の器を使った和食の「朝御膳」をお楽しみ頂けます。 1,500円
11:30~12:45 ランチタイム 人間国宝、三右衛門の器を使った和食の「昼御膳」をお楽しみ頂けます。 2,500円
13:00~14:15
14:30~16:30 カフェタイム 有田焼創業400年事業「ARITA EPISODE 2」開発商品はどで、スイーツとドリンクのセットがお楽しみ頂けます。 1,000円




予約受付ダイアル(USEUM ARITA内)
0955-41-9120
受付時間:10:00~16:30

お問い合わせダイアル((株)佐賀広告センター内)
0952-27-7102
受付時間:平日10:00~16:30



■USEUM ARITAでは、佐賀の食材を使った料理を、井上萬二窯(井上萬二氏)、弓野窯(中島宏氏)、今右衛門窯(今泉今右衛門氏)、柿右衛門窯(酒井田柿右衛門氏)、中里太郎右衛門陶房(中里太郎右衛門氏)という佐賀を代表する究極の器で体験頂くことができます。
待ち時間無く、快適にお席にご案内させて頂くために事前予約をお勧めしております。
■予約は、朝御膳(10:00~11:00)と、昼御膳(11:30~12:45/13:00~14:15)のお席のみとなります。
■御膳・昼御膳は、井上萬二窯セット、弓野窯セット、今右衛門窯セット、柿右衛門窯セット、中里太郎右衛門陶房セットのいずれかでのご提供となります。器は予約時にはお選び頂くことが出来ませんので、予めご了承ください。
■朝御膳・昼御膳・スイーツセットは、各日提供数を限定していますので、無くなり次第終了となります。
■20名以上のご予約キャンセルにつきましては前日50%、当日100%のキャンセル料が発生いたします。
■USEUM ARITAへの入場は無料です。





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