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FEATURE / MOVEMENT

ARITAが見据えるこれからの400年

料理人が紐解くARITAの可能性 「オルトレヴィーノ」古澤一記シェフ編

1970.01.01

text by Kei Sasaki / photographs by Hide Urabe

有田焼×イタリア料理の試みに、新たな確信




古澤一記シェフが妻でアンティークコーディネーターの千恵さんと6年前に開いた「オルトレヴィーノ」は、日本のイタリア料理界に新風を吹き込みました。2010年といえば、ゴージャスなリストランテから現地さながらの雰囲気が自慢のトラットリアやバール、各地の郷土料理を出す店までありとあらゆるイタリア料理店が出そろった時代。そこに“エノガストロノミア”「オルトレヴィーノ」が現れたのです。“エノガストロノミア”とは、ワインを楽しむための料理や食材が揃い、買い物も食事もできる店のこと。10年に渡りイタリアに暮らした古澤シェフ。料理はもちろんのこと、ワインやサービスの分野でも一流を目指して研鑚を積み、三ツ星レストラン「エノテカ・ピンキオーリ」フィレンツェ本店ではソムリエを務め、ワイナリー「ポッジョ・スカレッテ」でブドウ栽培、ワイン醸造の責任者を任された経験を持ちます。華々しいキャリアの末に、しかし想いが向かったのは、年に数回訪れるリストランテより、日々の生活に根ざした食のあり方を提案できる場所でした。

古澤シェフは、2010年のオープンから一貫して、イタリアの暮らしに根ざした食の在り方を提案し続けています。オルトレヴィーノの世界観は、日本において唯一無二。鎌倉だけでなく遠方から足を運ぶお客さんが多い理由もそこにあります。



「食事に求められるものはさまざま。特に外食は、非日常のハレ感やエンタテインメント性も大切な要素ですが、私たち夫婦が求めるのは、常に“ふつうでちゃんとしている”食べ飽きない味です」と古澤一記シェフ。では料理において“ふつうでちゃんとしている”とは、一体どういうことなのでしょうか。
「飾らず、奇をてらわず、きちんとした調理技術と丁寧な仕事で、素材本来の味わいをシンプルに楽しませること。旬を大切にし、その時期、身近な場所で手に入るものを無駄なく大事にいただき、ないものは無理に食べません」。

「食べ飽きない味」は、季節とともにある暮らしの中から生まれる。古澤さんは、そのことを10年のイタリア暮らしから学びました。単身ではなく妻の千恵さんを伴ってイタリアに渡り、単に料理人としてではなく、一生活者の目線を持ち続けられたことも大きかったと話します。大量に採れる季節の野菜や果物でマリネやジャムを作り、例えば秋なら、旬の栗をパスタにも肉料理にもデザートにも使う、という具合。金銭的に恵まれていなくても実現できる「うらやましくなるほどの豊かさ」。古澤夫妻は、この食のあり方を、日本に伝えようとしています。トスカーナの郊外で暮らした家を今も残し、年に数回、そこへ「帰る」生活を続けながら。カフェ1杯飲みに、とびきりのオリーブオイルを買うためだけに立ち寄れる、町に開かれた“エノガストロノミア”は、今も昔も大きく変わらないイタリアの田舎暮らしとしっかり繋がっているのです。

農業で誰もが暮らしやすい地域づくりを




「オルトレヴィーノ」がある鎌倉は、海も山もある自然豊かな環境で、新鮮な魚介と優れた生産者がつくるいきいきとした野菜をすぐ近くで手に入れることができます。東京のシェフたちが、こぞって鎌倉や三浦に仕入れに訪れることも、界隈で採れる食材のクオリティの高さの表れ。ふだんから恵まれた環境で食材に触れ、またイタリアの素晴らしい食材も数多く知る古澤シェフですが、視察の旅を通じ「佐賀の食材は、本当にいいものが多く、大いに刺激を受けた」と話します。

「スローWORK大和」は少量、多品種栽培で、年間200品目の野菜をつくっています。

視察時には、無農薬で野菜を栽培する「スローWORK大和」も訪問しました。障害者の自立生活支援や社会参加を進める特定非営利活動法人で、現在、20名の障害を持つ人々が、9名のスタッフとともに野菜づくりを行っています。「畑では黙々と草刈りに精を出す人もいれば、ひたすら蝶々や虫を捕まえている人もいる。彼らの得意分野を活かした仕組みづくりと、そうして栽培される野菜の自然でのびやかな様に感銘を受けました」と、古澤シェフ。




畑を見回すと、トマトにキュウリ、ズッキーニ、ブロッコリーはもちろん、ビーツなどの西洋野菜や空心菜などの中国野菜、ハーブまで実に種類が豊富。フェンネルやパセリ、ミントなどのハーブ類は、まるで小さな森かと思うほど勢いよく茂っています。「ここの畑では、毎日何かしらが採れます。収穫できる野菜の種類は年間約200品目にも及びます」。管理責任者で社会福祉士の松本康平さんが、説明してくれました。草を刈る、虫を取り除くなど、細かな仕事に人手をかけられるので、除草剤や農薬に頼らない農業が可能。収穫した野菜は、産直や道の駅で販売するほか、近隣の飲食店へも出荷されます。

「シェフたちの求めに応じて新しい野菜をつくることもあります」と管理責任者の松本さん。

「シェフたちが畑を訪れて、欲しいものを朝、収穫していくんです。花や収穫後の脇芽を喜んで摘んでいく方も(笑)。」。料理人にとっては、実にうらやましい環境。誰もが暮らしやすい地域づくりに結び付いた自然な農業が、佐賀の良質な食材づくりの一端を担っていました。

〈器と料理〉の関係を考えるなかで…




どのように盛るかで料理の印象は大きく変わります。古澤シェフは妻の千恵さんに意見を求めることも。


古澤シェフが「オルトレヴィーノ」でつくる料理は、千恵さんが選んだイタリアのアンティークの器で供されます。料理同様、世代を超えて使い継がれた、古いけれど上質なテーブルウエアは、イタリアの食の豊かさを伝える上で、なくてはならないものと考えているからです。ゆえに、佐賀の器と佐賀の食材ありきで考えるUSEUM ARITAのメニューづくりは、ふだん無意識に行っている「料理と器の関係を考える作業」を理論化する、刺激的で、学びの多い仕事だったといいます。興味深いことに、そのアプローチは、ソムリエの視点が生かされていました。

「進めていくうちに、ワインと料理のアッビナメント(マリアージュ)を考える作業と非常に共通点があることに気付いたんです。色合い、滑らかさや目の粗さといったテクスチャー、重厚感、丸みや鋭さなど、器の持つ要素を抽出して、そこに料理を寄せていく。料理自体は私が作るイタリア料理にほかならないのですが、そうしたアプローチによって、器との相乗効果で、お客様に目で、舌でお楽しみいただけるものになり得るのだと」


濃厚な風味を持つ佐賀の卵を使ったコクのあるスフレは、やわらかくこっくりした釉薬が独特の表情を生む弓野窯(中島宏 氏) 青磁の器で。高さのある器が映えるよう、トリュフオイルを絡めた有明海の新海苔を高く盛り付けました。


有田の郷土食・呉どうふを包んだトルテッリは、地元産のエビやキクラゲを使って淡い色調にまとめ、今右衛門窯 薄墨墨はじきの器と合わせる提案です。


ヘーゼルナッツの衣をまとったざっくり食感の佐賀牛のローストは、シンプルで重厚な中里太郎右衛門陶房の唐津焼の器に。肉と一緒に焼かれた枯れ木のようなハーブが、陶器ならではの土っぽさと同調します。


ラズベリーの赤色が鮮烈なマスカルポーネのセミフレッドは、柿右衛門窯の華やかな絵皿に盛って、器とデザート、それぞれの赤味を引き立たせます。

有田焼が400年続いてきた理由





「佐賀の器、有田焼といっても、器は窯元ごと、作家ごとに全然違います。でも、きちんとくつられた器は、イタリア料理やフランス料理でも十分、使うことができるものだと確信しました。品質の高さと併せ、その懐の深さこそ、有田焼が400年続いてきた理由なのではないかと」。古澤シェフは、そう話します。洋のニュアンスを取り入れた新しい有田焼もある中、純粋な和食器としての有田焼と異国の料理であるイタリア料理、あるいはフランス料理が、お互いを崩さず歩み寄り、魅力を発信することが十分にできる。「そのことが証明できるのは、日本の料理人ならではなのでは」と、古澤シェフ。有田の次の100年の発展を予感させる言葉です。



極の器で至福の佐賀の食!
11月9日(水)開催 USEUM ARITAイベント
「第3回シェフDAY
ゲストシェフ オルトレヴィーノ 古澤一記シェフ&アンティークコーディネーター 古澤千恵さんにテーブルコーディネートの考え方を学ぶ」
参加者募集を開始します!





トスカーナ州で7年間料理人として、その後「エノテカ・ピンキオーリ」フィレンツェ本店でソムリエとして、そしてブドウ栽培、ワイン醸造を任されるというイタリア料理とワインのスペシャリスト 鎌倉の人気店「オルトレヴィーノ」古澤一記シェフによる佐賀の食材を佐賀の究極の器に盛り付けたイタリア料理をいただきつつ、料理と器の関係についてなどお話を伺うイベントです。 また、「オルトレヴィーノ」アンティークコーディネータ 古澤千恵さんに、家で眠っている佐賀の器を使って「すぐ真似したい」テーブルコーディネートの考え方を教えていただきます。

イベントは2部制。第1部は有田焼創業400年記念イヤーイベントin九州陶磁文化館 特別企画展「日本磁器誕生」を学芸員による展示解説を聞きながら巡ります。第2部は“使う”をテーマにしたUSEUM ARITA(ユージアムアリタ)シェフDAY。古澤千恵さんによるテーブルコーディネートのコツを学び、そして「オルトレヴィーノ」古澤一記シェフのイタリア料理を究極の器で頂きます。

■開催日時
2016年11月9日(水)17:00開場
17:30~18:15 第1部  有田焼創業400年記念イヤーイベントin九州陶磁文化館 特別企画展「日本磁器誕生」鑑賞(学芸員による展示解説あり)
18:30~20:30 第2部  「シェフDAY  オルトレヴィーノ古澤一記シェフ アンティークコーディネーター 古澤千恵さん」

■募集定員
先着28名(お一人様のお申し込みにつき、2名様までお申し込み可)

■募集締切
2016年10月21日(金)16:30まで
※上記期日の途中でも、定員に達した場合募集は終了させて頂きます。

■料金
お一人様 10,000円(税/サ込)
フリードリンク(佐賀の地酒など)ご利用の場合、お一人様11,000円(税/サ込)

■募集方法/10/8(土)午前10時より電話受付、またはUSEUM ARITA会場にて受付
予約受付ダイヤル TEL 0952-27-7102  (受付時間:10時~16時30分)

お電話、またはUSEUM ARITA会場にて、仮申し込みを受け付け致します。①代表者氏名、②電話番号、③参加人数(2名または1名)、④参加者のご年齢、⑤フリードリンク(佐賀の地酒など)のご利用の有無、⑥アレルゲンの食材内容(食物アレルギーをお持ちの方のみ)をお伝え下さい。仮申し込み後、参加料金を指定口座までお振込みください。ご入金の確認が出来次第、事務局より代表者様宛に、お電話にて受領のご連絡を差し上げます。指定期日までにご入金が確認できない場合は、キャンセル扱いとさせて頂きますので、ご了承ください。
※詳しくは、ご予約の際にお問い合わせください。

■開催場所  九州陶磁文化館内 USEUM ARITA  佐賀県西松浦郡有田町戸杓乙3100-1







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