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FEATURE / MOVEMENT

ARITAが見据えるこれからの400年

料理人が紐解くARITAの可能性「Ryuzu(リューズ)」飯塚隆太シェフ編

1970.01.01

text by Kei Sasaki / photographs by Hide Urabe

メイド・イン・ジャパンで世界に勝負を




斬新なスタイルや意外性のあるプレゼンテーションが目を引く新店が次々と表れ、百花繚乱の様相を呈する日本のフランス料理界の中で、確かな技術が生む緻密でクラシックなフランス料理とエレガントなしつらえ、フォーマルなサービスで人気を集めるレストラン「Ryuzu」。オーナーシェフの飯塚隆太シェフは、フランスの国家最優秀職人章(MOF)の称号を持つフランス料理界の重鎮で、日本のフランス料理にも多大な影響を与えたジョエル・ロブション氏の薫陶を受けた料理人です。1994年、ジョエル・ロブション氏プロデュースの日本初のレストラン「シャトーレストラン タイユヴァン・ロブション」で部門シェフを務めたのちに渡仏。帰国後は、氏の展開する系列店で研鑽を積み、2005年、六本木「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」のシェフに就任しました。5年間シェフを務め、同店を二つ星に。王道を熟知した上で、柔軟な発想でつくる料理は、後進の料理人たちが目標とするところでもあります。

飯塚シェフはジョエル・ロブション氏の薫陶を受け、日本でロブション氏が展開するレストランでも、長年シェフとして活躍してきました。



食材の育まれる過程にまで想いを馳せ、ときに産地に足を運び、食材に最大限の敬意を払って手間と時間を惜しまずつくる料理。味わうゲストにはしばし時を忘れて過ごして欲しい。料理人と食べ手、双方にとって豊かな「時間」を紡ぐ空間でありたいという想いから、腕時計の要である「リューズ」を名に冠したと飯塚シェフは話してくれました。数多の若者たちが凌ぎを削るホテルで料理人としてのキャリアをスタートさせ、フランスでは星付き店で修業を重ね、帰国後は、偉大なるシェフ、ジョエル・ロブション氏の看板を背負って厨房に立つ。常に上を、世界を目指し奮闘してきた飯塚シェフですが、キャリアを重ねるにつれ、足元をじっくりと見なおそうと思うに至ります。

日本の食材をフランス料理の伝統的かつ緻密なテクニックで表現する飯塚シェフの料理は、海外から訪れるゲストも魅了しています。

「Ryuzuで使っているのは、ほぼ日本の食材です。日本の生産者に目を向け、光を当てられるような仕事を料理を通じてしていきたい。あるときから強く思うようになったからです」。スペシャリテの「椎茸のタルト仕立て」は、「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション時代からつくり続ける1皿。肉厚な新潟産の椎茸は、セップ茸にも劣らない芳醇な香りと豊かな食感がありながら、日本のキノコにしかない滋味を併せ持ちます。

フランス料理の伝統的な調理法を駆使し、素材をいじくり回さず、異なる食材、あるいは異なる方法で調理したひとつの食材を組み合わせることで、おいしさを構築していく。フランス料理では王道の考えを、日本の食材で実践しようと思ったのです。「料理人だからできることを、社会に向けて発信していかなければ」と、飯塚シェフ。7年前から故郷の新潟県魚沼地区の稲作農家の下で、田植えと稲刈りを行っています。「にわか仕事ですが、農家の方の苦労がわかると、食材との向き合い方が変わってくるんです」。

伝統を未来につなげるために




日本の素晴らしいものを、フランス料理を通じて広く発信していきたい。飯塚シェフのその想いは、以前から器にも向かっていました。飾り皿をはじめ、「Ryuzu」で使用している皿のいくつかは、実は有田のメーカーのもの。「伝統を大切にしながら、メイド・イン・ジャパンのもので世界に勝負を、という考えは、僕の料理観に通じます。自分の店を開いたとき、迷わず使いたいと思いました」。

長い歴史の中で培われた伝統を大切にしながら、それをよりよく未来に伝えるために、時代を見据えたものづくりを模索する。そんな人々が、有田の今を支えています。有田焼創業400年を記念し、「ZOA」シリーズという器を企画しました有田焼専門商社、株式会社まるぶんも、志は同じです。



まるぶんが企画した「ZOA」は「Zero Origin Arita」の頭文字で、「有田の原点」を意味します。

「古伊万里をお手本に有田焼の原点に立ち返りながら、新しい加飾の手法を活用した、現代の食卓にいきる粋でモダンな新しい有田焼を提案するシリーズです」。専務取締役の篠原賢次さんは、そう胸を張ります。「ZOA」には、モダンさとアート性、コストを重視してパット印刷製法を用いてデフォルメした意匠を描いた「デイリー」と、現在の有田の絵付け職人が、総手描きで古伊万里を写した「プライム」があり、梅の枝と鳥を描いた染付梅鳥文や、山水を描いた雲割山水文など4つの図柄をそれぞれ2つのラインで展開しています。



「ZOA」は新しい加飾法「パット印刷製法」を用いた「デイリー」と、手描きで古伊万里を写した「プライム」の2ラインで展開。

パット印刷は、近年各地で量産する陶磁器に活用されている加飾技法です。通常、手描きの絵をそっくりに写すことに使われますが、同じ構図をデフォルメして直線、曲線で図案化し、モダンに仕上げています」。

1枚から気軽に、和洋折衷の食文化に取り入れられる「ZOA」シリーズ。企画、製造に関わる人々の「有田よ、未来へ」という気持ちが伝わってきます。

全7皿のコース料理を豆皿で提供




「器は変わっても、料理には一切のアレンジなし。私がいつもつくるフランス料理です」。


「絵柄の付いたリム部分はあくまで飾りで、料理は中の白い部分に盛り付ける。これが伝統的なフランス料理の皿のルールです」と、飯塚シェフ。それは、器そのものに付けられた色彩や図柄と食材、料理を合わせて季節を表現する和食の器づかいとは、まったく考え方が異なるもの。そんな中、USEUM ARITAに参加するにあたり、飯塚シェフは、これまでに経験のない試みに挑みます。それは、前菜を豆皿で提供すること。


冬瓜のソースを添えた雲丹のフォンダンは、銀彩の皿に。桐岡茄子のルエルは海苔の香味干しと花穂を添えて白磁の皿に。肝マヨネーズを添えた蒸し鮑は、マットな黒の器に合わせることで素材の質感が浮かびあがります。


一方で、佐賀牛のコールドビーフ(冷製ローストビーフ)は、コンソメジュレと葉山葵とともに、赤い染付の器に。スクエアにカットしたふもと赤鶏と椎茸のプレッセは、同じくスクエアの図案が描かれた皿に盛りつけました。燻製クリームを添えたエビは、深みのある器で。「豆皿に映え、箸で食べられる大きさに揃えた以外は、一切のアレンジなし、私がいつもつくるフランス料理です」と飯塚シェフ。そう頭で理解しても、箸で口に運ぶ瞬間までは和食気分が抜けません。ところが味わってみると、コンソメやクリームの濃厚な旨みやコク、ヴィネグレットの酸味が、脳内の回路を一気にフレンチへと切り替えてくれます。


メインディッシュの「金星佐賀豚のロースト 紫蘇の香る蓮根のニョッキ」は、「ZOAデイリー」のNEJIRI7寸(直径21センチ)皿を使用。「皿の大きさや模様などが変わっても、僕が考える料理と器のバランスは同じ。主になる料理を中心に、付け合わせを2つか3つ、余白を残して盛り付ける。高さが出る料理なら、付け合わせになる素材を回りに散らし、低いものなら、重ねるようにして盛り付けると、バランスよくまとまります」。

小さな豆皿の中は、直球のフレンチをフレンチの基本にのっとって盛り付けた、フランス料理そのものの世界。そのしっかりとした軸が、驚きの先に納得と、感動がある、異文化間の共鳴を生み出しているようです。

有田焼の400年に仏料理の世界を重ねて





「しっかりした技術を持っていても、伝統をなぞっているだけでは生き残れない世の中。これは焼き物の世界でもフランス料理の世界でも同じなんじゃないでしょうか。職人気質の人が持つ卓越した技術を守りながら、その技術や知識、経験を業界全体の未来に生きるものとして受け継ぐために。これからを考えなければならないと思います」。

有田焼の400年にフランス料理の世界を重ねて。卓越した技術と鋭い時代感覚を合わせ持つ料理人は、そう話してくれました。まるで自分自身に言い聞かせるかのように。



究極の器で至福の佐賀の食!
10月10日(月祝)開催 USEUM ARITAイベント
「第2回シェフDAY 
  ゲストシェフ リューズ 飯塚隆太シェフ」
参加者募集を開始します!





フランス料理会の巨匠 ジョエル・ロブション氏の元で12年間の修行から体得した最高峰の調理技術を有する飯塚シェフによる、佐賀の食材を佐賀の究極の器に盛り付けたフランス料理をいただきつつ、料理と器の関係についてなどお話を伺うイベントです。和食器とフランス料理の妙を堪能いただけます!

イベントは2部制。第1部は有田焼創業400年記念イヤーイベントin九州陶磁文化館 特別企画展「日本磁器誕生」を学芸員による展示解説を聞きながら巡ります。第2部は“使う”をテーマにしたUSEUM ARITA(ユージアムアリタ)シェフDAY。「リューズ」飯塚隆太シェフのお話を伺いながら、フランス料理を究極の器で頂きます。

■開催日時
2016年10月10日(月祝)17:00開場
17:30~18:15 第1部  有田焼創業400年記念イヤーイベントin九州陶磁文化館 特別企画展「日本磁器誕生」鑑賞(学芸員による展示解説あり)
18:30~20:30 第2部  「シェフDAY  リューズ 飯塚隆太シェフ」

■募集定員
先着28名様(お一人様のお申し込みにつき、2名様までお申し込み可)

■募集締切
2016年9月23日(金)16:30まで
※上記期日の途中でも、定員に達した場合募集は終了させて頂きます。

■料金
お一人様 10,000円(税/サ込)
フリードリンク(佐賀の地酒など)ご利用の場合、お一人様11,000円(税/サ込)

■募集方法/本日9/8(木)午前10時より電話受付、またはUSEUM ARITA会場にて受付
予約受付ダイヤル TEL 0952-27-7102  (受付時間:10時~16時30分)

お電話、またはUSEUM ARITA会場にて、仮申し込みを受け付け致します。①代表者氏名、②電話番号、③参加人数(2名または1名)、④参加者のご年齢、⑤フリードリンク(佐賀の地酒など)のご利用の有無、⑥アレルゲンの食材内容(食物アレルギーをお持ちの方のみ)をお伝え下さい。仮申し込み後、参加料金を指定口座までお振込みください。ご入金の確認が出来次第、事務局より代表者様宛に、お電話にて受領のご連絡を差し上げます。指定期日までにご入金が確認できない場合は、キャンセル扱いとさせて頂きますので、ご了承ください。
※詳しくは、ご予約の際にお問い合わせください。

■開催場所  九州陶磁文化館内 USEUM ARITA  佐賀県西松浦郡有田町戸杓乙3100-1







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