もっとブラウンブレッドを食卓に!
ほとばしる麦の味わい。千葉・木更津「ひととわ」の場合
2022.06.27
photographs by Masahiro Goda
全粒粉パンに力を入れる職人が増えています。
ふすまや胚芽を伴った全粒粉は、ビタミン、ミネラルを豊富に含み、健康に良いだけでなく、噛むほどに滋味深い魅力があります。オーガニック栽培に力を入れる農家が増えたこと、さらに食材をすべて食べ切る、フードロスの観点からも注目度が高いパンづくりです。
教えてくれたシェフ
千葉・木更津「ひととわ」嶋野貴文さん
噛むほどにほとばしる、麦の味わい
濃い。「ひととわ」のパンは、噛みしめるごとに、まるで麦のジュースがほとばしるかのようだ。大地を感じる旨味と穀物の豊かな香りが口内に満ちる。作るのは31歳の嶋野貴文さん。専門学校で製パンを学び、すぐにドイツへ。約5年の修業を経てマイスターを取得し、帰国した。3年前に地元で開店した「ひととわ」ではすべてのパンに全粒粉を使う。なかでも店の柱となるのは、栃木県産上野長一さんの農林61号の玄麦を石臼でゆっくり挽いた全粒粉100%のパン。
生地には湯種を使う。さらにルヴァン種と合わせて室温で6時間発酵させておく。熟成と水和が十分に進んだ種と75%の加水で作る生地は、つながりにくい全粒粉でも、しっとりつややかな内相でジューシーに麦の旨味を湛えている。
全粒粉のパンを大切にするのは「エコだから」。時間と手間をかけて栄養を削り、作物の一部を捨てるのならば、一緒に焼き込む方が健康にも環境にも良い。エコは「ひととわ」を貫く姿勢だ。開店当初から廃棄したパンはない。残ったら近所の産直品売り場に、または「いつでもいいよ便」(割引きで、配送日を指定せずに注文できるパンセット)で発送する。それでも残れば、世話になっている人に配り、最後はパン粉にして湯種の材料にする。
玄麦を農家から仕入れていると、品質のブレを感じる。「調整しながらパンを焼きますが、難しい場合もある」。そんな時でも、パンの値段は安くしない。「麦は作物だから、気候によって状態が左右されるのは当然。パンも同じです」
カンパーニュを手ごねにするのは、ある日電気が使えなくなってもパンが焼けるようにとの思いから。目の前のパンを焼きながら、嶋野さんが考えているのは、地球のことなのである。
【「ひととわ」の全粒粉パンの4つの約束】
素材はすべてオーガニック
栃木県産小麦の全粒粉100%のパンは、プレーン、クルミ&レーズン、イチヂクとたねパンの4種類。カンパーニュにはライ麦全粒粉を20%配合。小麦から副材料まで、すべて有機。館山産のほろ苦い夏ミカンピールなど、旬が詰まったパンも美味。
環境のためなら、頑張れる
全粒粉のパンを大事にするのは、素朴で豊かな味わいとお客さんと家族の健康のため、そして無駄を出さずに生きる、地球環境のため。「儲けのためでなく、エコのためだと思うと、不思議とやる気が湧く」
捨てる部分は最小限に
どんな食材も、できる限りロスを出さずに食べ切るのがモットー。麦のピーリングも3分づきに抑える。その分、目視で時間をかけて、欠陥のある麦の選別を行う。
合わせる料理は普段着のおかず
ある日のライ麦パンには炒めた小松菜と大根の浅漬け。別の日にはクリームチーズとニンジンの酢漬けをのせて。最近のヒットはたねパンとカツオのたたき、ショウガと醤油。大地を感じる麦の味わいは、ごはんにおかずをのせるように、具を選ばない。
<製法のポイント>
湯種にルヴァン種を加える
つながりにくい全粒粉は、湯種で保水性を上げると、ぼそぼそせずしっとりした食感に。ルヴァン種を混ぜて発酵させておくことで、さらに味が深まり、熟成、水和も十分進む。湯種に使う粉は残ったパンのパン粉で代用することも(40%以下の配合)。
「自家製粉の全粒粉のたねパン」の作り方
[材 料(約9個分)]()はベーカーズパーセント
中力粉※1・・・1720g(86)
水(36℃、夏場は氷水)・・・1440g(72)
カンホアの塩・・・34g(1.7)
湯種・・・※2より全量
カボチャとひまわりの種(生地用)・・・※4より全量
※1 栃木県上野長一さんの農林61号
※2 ボウルに全粒粉280g(14)と2.1倍の熱湯を入れて粉気がなくなるまで木べらで混ぜる。そのまま冷まし、30℃以下になったらルヴァン種※3を28g(1.4)加えて混ぜて、常温(26℃)で6時間発酵させる。冷蔵(4℃)で保存し、3日以内に使い切る。
※3 すべて26℃発酵。①ライ麦全粒粉1:水1.5の配合で24時間おく。以降工程ごとに12時間発酵させる。②種1:粉1.5(ライ麦全粒粉1:ゆめちから1):水1.875。③種1:粉2:水2。④種1:粉2:水2.5。⑤種1:粉3:水3。⑥⑤と同じ。その後、状態を見ながら種継ぎする。
※4 種500g(25)に水100 g(5)を合わせて3時間浸す。
【工程表】
湯種を作る 26℃・6時間→4℃で1晩
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オートリーズ 粉気がなくなるまで→30分
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ミキシング 低速2分→高速10分
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一次発酵(室温・30 分)
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パンチ
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オーバーナイト(4℃・18時間)
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復温 ホイロ(28℃・70~80%・1時間15分)
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分割 450g
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成形
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最終発酵 (室温・15 ~ 20分)
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焼成 スチーム1回→上火250℃ 下火250℃・8分→上火250℃ 下火240℃・12分→上火250℃ 下火210℃・10分→上火下火210℃・10分
[製粉]
玄麦を精米機に入れて、3分づきの設定でピーリングする。少しずつ大きなバットに広げ、黒く変色した麦を取り除く。製粉機に入れて細挽きに設定し、低速で回す。
POINT 挽き立ての小麦は酵素活性が強く、生地がダレやすので、1日置いた方が扱いやすい。
[1]オートリーズ
スパイラルミキサーに36℃の水(夏は氷水)と粉を入れ、全体が混ざるまで右回し左回しを切り替えながら、粉気がなくなるまで低速で2分回す。
[2]
ヘラで表面を平らにならし、表面が乾かないように水を少量回しかけて塩をのせ、30分置く。
[3]ミキシング
湯種を加え、低速で3分、高速で10分回す。
POINT ほどよいボリュームが出るように、ミキシングはやや長めに。
[4]こね上がり
生地を伸ばすと、伸展性はあるが、膜はできずにぼそっとちぎれる状態。こね上げ温度は24℃。
[5]
生地を容器に取り出し、カボチャとヒマワリの種をまぶし、折りたたみながら種を生地全体に行き渡らせる。
[6]一次発酵
蓋をして、室温で30分置く。
[7]パンチ
容器の1辺から生地を上に持ち上げ、反対の辺へ折りたたむ。これを4辺から行い、均一にガスを抜く。
[8]オーバーナイト・復温
容器に蓋をして、冷蔵庫(4℃)で18時間発酵させる。写真は発酵後の状態。28℃・70~80%のホイロで1時間15分復温させる。
[9]分割
450gずつに分割し、カードを2枚使って断面を生地の底へ押し込み、自然に丸い形に整える。
[10]成形
台に打ち粉(全粒粉)を振り、生地を両手で挟んで中央をすぼめて縦長に置き、手前から中央、奥から中央へ三つ折にする。閉じ目を指でつまんで押さえ、手前から奥へ二つ折にして閉じ目を押さえる。
[11]
閉じ目を下にして濡れ布巾にのせてから、カボチャとヒマワリの種の入った容器に移し、表面に種をまぶしつける。
[12]最終発酵
常温で15~20分発酵させる。生地がふっくらゆるむ。
[13]焼成
オーブンに入れ、蒸気を入れて上火下火250℃で8分焼く。蒸気を入れて下火を240℃に下げて12分、さらに下火を210℃に下げて10分、最後に上火を210℃に下げて10分焼く。
自家製粉の全粒粉のたねパン。生地にヒマワリとカボチャの種をふんだんに練り込んだ全粒粉のパン。焼いた当日はもちろん、翌日は味が馴染み、種の甘味がいっそう引き立つ。みずみずしい内相で、噛むほどに滲み出す旨味と、立ち昇る得もいわれぬ香りが後を引く。
◎ひととわ
千葉県木更津市新田1-10-32
☎0438-55-6107
7:00~18:00
火曜、水曜、木曜休
JR木更津駅より徒歩8分
配送対応有
https://www.hitotowa.com/
※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため要請に合わせて営業時間が変わることがあります。
(雑誌『料理通信』2020年6月号掲載)
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